第二話『彼と彼』
毎朝、高級車で上司と出勤。キャバクラ嬢の同伴ってこんなもんなんやろうか、と思う。まぁ、
ちょっと向こうに失礼かもしれへんけど、似たようなもんなんよなぁ。・・・俺の立場って。
「・・・ほい、コーヒー」
・・・この会社の内定を貰った時。何か可笑しいと思った。俺は広報部を希望していた。が、職
種の欄に書かれていたのは、・・・社長の秘書だった。確かにできない事はないが、希望はして
いなかった。今も不満だ。職種が可笑しい事を会社に言いに行こうと会社へ行った所、何故
か社長室へ案内された。社長室に入った途端、社長にぎゅっと抱きしめられた。何が何だか
分からなかった。そしていきなり告られた。一目惚れした、抱かれてくれとストレートに。
「・・・お前なぁ」
そう。この会社の社長は、バイだった。
「・・・ん?何?」
同い年だが、立場が上である為、俺は反抗する事を許されない。
「・・・何?ちゃうわ。こういうんは、上司のお前がする事とちゃうやろ?」
哲夫が、しゅんとつまらなそうにこっちを見る。しょうがないので、コーヒーをぐっと飲ん
でやった。・・・うえ、気持ち悪。哲夫は嬉しそうにしとるけど、・・・嗚呼、胃が可笑しくなる。
「・・・今日、仕事何時終わる?」
秘書がいる為、哲夫はほとんど自分のスケジュールを把握していない。
「・・・十時まで」
「よし。今晩も一晩中、できるなv」
・・・結局、と言ったら哲夫はすぐ拗ねてしまうんだが、俺は哲夫に好きだと言われているう
ちに、だんだんと好きになってしまった。お坊ちゃま故か、多少強引な所はあるが、基本的に
はしっかりしていて結構優しいし、顔もなかなか男前だったりする。・・・悪い奴ではない。
「うわっ!」
尻を掴まれる。・・・一つ付け加えておく、こいつは変態でもある。めっちゃサドやし。
「何すんねん、そんな、止めろやっ・・・!」
揉み揉み揉み揉み、俺が幾ら嫌がっても続ける。
「・・・ふ〜ん、社長に逆らうんや?」
うっ・・・それは・・・。
「・・・しっかしほんま、ええ尻してるわ〜」
こんなんでも一応上司、俺は簡単に逆らえない。他の社員がこの部屋に入った時はさすがに
止まるが、それまで俺は哲夫のなすがまま。セックスを強要された事も、もちろんある。普通
の会社なら、そんな社長についていけなくて辞めていくだろう。・・・が、残念な事に、この会
社は普通じゃない。皆それぞれ、実力はしっかりしている。・・・しかし、ほとんどがホモかバ
イだったりする。他の会社なら何かと嫌味を言われるだろうと、この会社を辞めないのだ。
「・・・・・・なぁ、Hしよ?」
嫌だと言っても、無理やり押し倒すくせに。
「・・・それが、社長の命令なら」
ソファの上に、押し倒される。・・・嗚呼、ほんま何やってんのやろ、俺。
『・・・失礼しまーす・・・』
ドアが開いた。思わず固まってしまう。・・・運が良かった、入ってきたのは川島だった。
「・・・・・・あ」
川島もまた、社長の秘書をやっている。・・・というか、俺はほとんど社長の玩具にされている
為、主な仕事は大体川島がやっている。そして、当たり前みたいに感じるんが変なんやけど、
総合経理部の田村と、できていたりする。やからまぁ、こういう場面も見慣れている。
「・・・出ましょうか?」
「あ、出てくれる?」
・・・おいっ。
「痛っ!・・・・・・あ〜・・・」
哲夫の腹を蹴って、逃げ出した。
「これ、社長宛の郵便です」
川島から、幾つか封筒を受け取る。
「・・・おお、有難」
「・・・待てや」
・・・嗚呼、五月蝿いのが。
「お前なぁ、社長の腹蹴る秘書がおるか!?・・・あ〜、めっちゃ痛い〜・・・」
嘘くさ・・・。でも、下手に口出しできないのが悔しい。
「・・・社長。さっきエントランスに、ホステスの方がいらっしゃって・・・」
哲夫は男とも、女ともやる。風俗にも行く。・・・極々たまにだが、こういう事があったりする。
「・・・あ、ちょっと便所行って来るわ!」
そう言って哲夫は、部屋を出て行った。今時、小学生も使わないような言い訳を使って。ほん
まに、あんなにやってる時は俺が好きやって言うてるのに。・・・・・・本音はどうなんやろ・・・。
「・・・こんなんでよかったですか?」
「え?こんなん・・・って?」
「・・・ほんまに、来てると思ったんですか?」
・・・・・・あ〜、そういう事か。
「ごめんな、変な気ぃ使わせて」
所構わず押し倒されるのに慣れてもうたんもどうかと思うが、慣れでもしないとやってい
けない。最初は上下関係なんて関係ない言うてたくせに、今は利用しまくってるしなぁ・・・。
「別にいいですよ。・・・大変ですね、西田さん」
川島はええよなぁ。そら許されん関係ではあるけど、上下関係なんてないし。
「ほんまやで・・・。川島、仕事ええの?」
「ああ、終わらせました、ほとんど」
偉いなぁ・・・。
「・・・明日、夕飯田村と約束してて。早よ終わらせたいんですよ、今の仕事」
・・・どうしようもなく可愛く感じてしまうんは、可笑しいんやろか。田村が可愛いって言う
のも、分かるような気がする。川島は白くて綺麗な肌をしているが、背は高くすらっとして
いて、顔もなかなか男前だ。でも、ふとした仕草や表情が、これが意外と可愛かったりする。
「・・・西田さん?何か、顔についてます?」
これでも、この会社に入るまでは至ってノーマルやったんよ、俺?
「・・・いや、何や可愛いなぁって」
・・・ん?何で黙るん?
「・・・・・・気持ち悪っ」
「お前、気持ち悪いって何やねん、人が可愛いって・・・!
と、ドアが開いた。丁度俺が川島にじゃれた瞬間だった、ドアの向こうには、哲夫が。
「・・・・・・お前等・・・」
・・・ほんま、どこのコントやねん。
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