第三話『貴方の玩具』

ノブには、絶対言えない事がある。多分言ったりしたら、すぐ仕事を辞めろと言われる。
 「だ〜いごっv」
宇治原さんに、後ろから抱きつかれる。
 「仕事、やったんですか?」
あの京都大学を出たくせに、宇治原さんは目の前に面白そうな事があると、仕事を途中で放
り出し、そっちに行ってしまう。そして怒られた後に、さっと仕事をこなしてしまうんだが。
 「・・・やったよ、ほれ」
山のように仕事を積んだのに、ムダだったか。
 「・・・で?今日は、何なんですか?」
宇治原さんには、細かい仕事を大体全て任されている。裁判所へ行く時も、何時も俺を連れ
て行く。食事にも誘う。給料も多い。その代わり仕事も多いんだが、それを周りは一切分かっ
てくれない。相談したくても、相手にしてくれない。・・・何で特別扱いやねんやろ、俺?
 「・・・ん?ちょっとな、寂しそうにしとるから」
寂しい。それは多分、最近ノブとゆっくり一緒にいる時間が、ほとんどないからだろう。
 「こっちがご無沙汰とか?」
宇治原さんに尻を揉まれる。
 「な、何するんですかっ!?」
手を振り払う。振り向くと、宇治原さんが迫ってきた。後ろの本棚に手をつく。宇治原さんも
本棚に手をついて、更に迫ってくる。・・・逃げられない。・・・意地悪な、子供みたいな目。
 「・・・そんな、怯えんでもええやん」
・・・何時もこんなパターンだ。内側から鍵を二重にかけている為、誰も入って来れない。
 「・・・変な事、する目ですもん」
ちょっかいだけなら、ノブにも愚痴れる。問題は、宇治原さんの悪戯は、愚痴れる程度以上の
ものなのだ。菅さんという、彼女(男やけどな)がおるのに、何で俺に、こんな事するんやろ?
 「・・・ええやん、気持ち悪い事ちゃうやろ?」
そう言って、ぷちぷち下から、俺のYシャツのボタンを外していく。
 「・・・可愛いな、ここ」
右胸の乳首を、触られる。ぴくん、と身体が動く。嬉しそうに宇治原さんが笑みを浮かべ
る。・・・宇治原さんにとって、俺はすぐ近くにある、丁度いい玩具みたいな存在なんだろう。
 「・・・んっ!・・・ぁ、あ・・・舐めるのは駄目です、舐めるのはっ・・・!」
何時も俺が大人しく従っているからだろうか、宇治原さんの行動がエスカレートしている。
前までは、弄る事は弄るが、こんなに執拗に舐められた事はなかった。・・・変になるっ・・・!
 「・・・しゃあないなぁ。じゃあ、乳首はここまでにしといたるわ」
・・・『乳首は』。分かっていた展開なのに、身体は素直に感じてしまう。
 「・・・宇治原さん・・・嫌、止めて下さいっっ・・・!」
このままだと、何時宇治原さんに最後まで行かされるか分からない。この事務所に入って、
宇治原さんの下で働いてからずっとこう。俺だって、逃げたい。でも、宇治原さんは上司だし。
逆らうに逆らえない。宇治原さんの手がするする俺のパンツに伸びて、ジッパーを下ろす。
 「・・・ん、可愛い」
そっと囁かれる。ぞくっとする。・・・宇治原さんの手が、俺のペニスに伸びる。
 「・・・嫌なん?・・・止めて欲しいん?」
だから、そんな耳元で囁かないで下さい。
 「・・・あ・・・」
 「・・・素直になろうな、大悟。・・・気持ちよく、なるだけやからな」
その、『気持ちよくなる』って言うのが駄目なんですって。宇治原さんにこんな悪戯をされ
てるなんてノブが知ったら・・・この仕事が好きだから、止めたくない。それにこういう所を
除けば、宇治原さんは頭がよくて優しくて、人間として尊敬できる人だから、そういう人と
仕事ができるって事を、失うのが怖い。この幸運を、無駄になんてしたくない。・・・だから。
 「・・・宇治原、さんっ・・・」
ペニスを擦る、微熱を帯びたその柔らかい指が憎い。口を手で隠す。
 「・・・我慢せんでええよ、声出し。此処、防音やし」
手を剥がされ、両手首をネクタイでまとめられる。
 「・・・ぁ、あ、・・・ぅあっ、ん、駄目っ、ぁっ・・・!」
・・・嗚呼、気持ちいい。そんな丁寧に、舐め・・・舐め?
 「駄目、駄目、止めて下さい、・・・ぁ、そんな、汚い所っ・・・!」
宇治原さんの顔を足で退かそうとするが、丁寧に舐められる度に快感が強くなり、身体中の
力が抜け、その足も宙を舞うようになってくる。宇治原さんは顔を離して、アナルと尿道の
先に、指を入れた。思わず拒否する。無理やり押し込まれる。気持ちよく、躯は締め付ける。
 「・・・やらしいなぁ・・・」
同時に抜き差しされ、甘い声は止め処なく口から自然に出て行く。
 「・・・なぁ大悟、・・・何で俺がこんなんするか、分かる?」
首を横に振る。にやっと笑う宇治原さん。
 「何時もな、おもろいなぁと思って。お前が、ノブに抱かれてんの」
・・・・・・。
 「・・・だから僕の事、苛めるんですか?」
そんなん、俺が抱かれてようが抱いてようが誰とセックスをしていようが、どうでも・・・。
 「・・・苛め?苛めてるんじゃないよ、・・・悪戯してるん」
またれろん、とペニスを舐められる。また、甘い声が出てしまう。
 「もう、止めてください。僕、
 「俺の事、嫌い?」
顔を横に振る。嫌いな訳じゃない。
 「・・・だったらええやん。俺も大悟、好き。・・・こういう所も含めて」
アナルの指が深くなる。思わず善がってしまう。
 「・・・可愛いよ。・・・大丈夫、お前の大事な人には、バレへんようにするから」
尿道の指が抜かれ、ペニスを下から上へ扱かれていく。精液が、漏れ出てしまう。
 「あ、んっっ、駄目、もう駄目です、出る、出るうぅっ・・・!」
 「ん、こん中に、出してええよ」
また咥えられる。何とか我慢しようとするが、扱かれアナルの指を抜き差しされ、射精して
しまう。・・・宇治原さんの口の中に。射精したショックで動けない俺を尻目に、宇治原さんは
口の中と周りをさっと拭いて、俺のペニスも拭く。また感じそうになるが、何とか抑える。
 「・・・宇治原、さん・・・」
ネクタイを外され、宇治原さんはちゅっと俺の唇にキスをした。
 「・・・可愛い顔。菅さんがおるのに、って言いたいんやろ?」
・・・図星だ。何も言えない。
 「ええやん、別に。菅ちゃんも可愛いし、大悟も可愛いし」
・・・これは、多分宇治原さんの本音。だから悔しくなる。そんな彼を、可愛いと思ってしまう
から。菅さんは可愛い。前宇治原さんが忘れ物をした時、菅さんが来ていて会った事がある
が、本当に可愛かった。嗚呼これは、惚れるなぁと思った。・・・宇治原さん、お願いだから菅さ
んだけで満足して下さい。ええやないですか、可愛いしセックスの相性もいいんでしょ?
 「・・・貪欲ですね」
本当に、貪欲な人。
 「・・・目の前に美味しそうなものがあったら、喰いたくなるんよ」
可愛いと思ってしまうのは、可笑しいんだろうか。だって可愛い。これだから、宇治原さんと
ずるずるしてしまうんだと思う。でも可愛く見えてしょうがなくて、つい許してしまう。
 「・・・菅さんがメインで、僕がサイドメニューですか?」
宇治原さんが苦笑する。またキスされる。にやっと意地悪く笑う。
 「・・・さ、仕事戻るか!」
そう言って宇治原さんは、また俺の尻を揉んで、部屋をすたすた出て行った。
 「・・・全く」
きっと俺は、ずっと貴方の玩具。宇治原さんは菅さんを好きで、俺はそのオマケでしかない。
でも同じ様に、俺はノブが好きで、宇治原さんはそのオマケでしかない。俺がそう言ったら
きっと、宇治原さんは拗ねてみせるだろう。・・・嗚呼可愛い人。何も、意地悪が言えない。
 「大悟〜、早よ〜」
宇治原さんが急かす。慌てて服を元に戻す。
 「・・・はーい、今行きます〜」






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