第四話 『彼氏=ペット』

現在時刻、午後九時半。大阪の街を必死になって運転する。宇治原さんのアホ、最後の最後に
仕事渡しやがって。大悟は宇治原さんに連れてかれたから、多分無理やり晩飯につき合わさ
れとるんやろ。全く、あんなごっつい顔して男らしいくせに、宇治原さんの前になると・・・。
 「くそっ」
・・・渋滞をやっと抜ける。和田は、まだ会社だろうか。そうだといい。別々に帰んのは嫌や。一
緒に帰んのがいい。同棲もしとるし、そんくらいええやんとは言われそうだが、・・・好きやね
んもん。後、何時もぼーっとしとるから、こう、放っとかれへんというか。言い訳やけどな。
 「・・・よしっ」
何時もの様に会社の近くの駐車場に車を止め、会社の中へと入る。どんどん外へ流れていく
人。俺が用があるのは、一階にある警備員室。何時も通り、和田は数個のカメラの前に居る。
 「・・・はぁ、・・・はぁ・・・」
少し走りすぎたか。何とか息を落ち着かせる。
 「・・・おお、来たか」
和田はくるっとこっちを向き、俺を抱きしめる。
 「・・・ふー・・・」
擦り寄り、和田にくっつく。
 「・・・ごめんな、遅れて」
何時もは、八時には此処にいる。和田の仕事は十時まで。とはいっても最後はあまり仕事も
なく、ずっといちゃいちゃしている。和田は大学の時からここの警備員のアルバイトをして
いて、警備会社に気に入られ、今はここの警備員の中では一番偉い。・・・嗚呼、疲れた・・・。
 「ええよぉ。・・・んっ・・・」
キスをする。長いキス。離す。
 「・・・誰かおったら、どうすんの?」
そう言いつつも、嬉しそうな和田。可愛い。
 「誰かおっても、関係ない。キスしたいもんはキスしたいん」
こっちは、和田に会う為に急いで来とんねん。他の奴なんて知ったことか。
 「今日、何食べに行く?」
自炊はあまりしない。居酒屋やバーでバイトしていた事もあって、簡単な料理ぐらいは作れる。
でも結局買った方が安い事に気づいたし、二人とも結構給料を貰ってるし、余裕がある。
 「・・・いや、今日は家で食べよ。余ってんのがあんねん」
料理は専ら、和田が作ってる。和田が作ってる間、俺はビールなんかを飲んで待ってればい
い。ワガママとは言われそうだが、和田も俺に奉仕するのが好きそうだし。何しろMだし。
 「んっ・・・ふ、んんっ、・・・あ、
舌を使って、キスをする。和田は警戒して嫌だと唇を離すが、無理やり唇をくっつける。また
舌を入れる。和田は歯を閉じるが、何とか舌でこじ開ける。絡ませると、絡ませてくる。
 「・・・んっ、はっ、んっっ・・・」
こうしてみると、俺は彼氏の方で、和田は彼女の方になるんだろうか。洗濯と掃除は、全部和
田に任すと中途半端に終わるので手伝うが、さっきも言ったように料理は全部和田。セック
スも、俺が全権を握る。俺がこうしてと言えば、和田は大人しく言いなりになる。でも、俺は
あくまで受身。だから、俺が彼女の方になる。彼氏の側に回ろうと思ったことは、全く無い。
 「・・・んっ・・・・・・。満足?」
くっついているのが好きだし、和田の優しさに甘えていたい。
 「・・・うん。・・・ほんまは、Hもしたいけどな」
 「・・・あかんよ?」
・・・分かってるよ、そんな事。・・・だから。
 「・・・町田?何すんの?」
しゃがみこみ、顔の前に和田の突起物が来るようにする。ボタンとジッパーを、口で外す。
 「・・・おい!・・・さっき、あかんって言うたやんか!」
 「Hはあかんのやろ?・・・大丈夫、フェラやから」
もう、半勃ちやし。やらしいなぁ。
 「んっ・・・
 「・・・あかんっ、ちょっ、あっ・・・!」
俺が大悟に意地悪したくなるんは、お前が和田にちょっかい出したくなるんと同じや。宇治
原さんが、前言った言葉。確かにそうかもしれない。見上げた時の、和田の顔がたまらない。

あの後、しっかりフェラして、全部飲んだ。和田は汚いから止めてくれと言ったが、結構飲ん
でるよ、俺?今更気にせえへんて。和田にやらせる事もあるが、その時もしっかり飲ませる。
 「・・・エロいよなぁ」
飯を食べ、一緒に風呂に入る。そのままセックスになだれこむ事もあるが、決していちゃい
ちゃしたいからやない。一緒に入った方が、結局出費を抑える事になると気づいたから。
 「・・・・・・何が?」
と言いながら、和田の突起物を擦り上げてやる。
 「止め。・・・手が汚れる」
・・・そう真面目に返されると、更にからかいたくなる。こんなにやらしくしといて、そう、俺
は興味ないみたいな顔、してもしゃあないよ?・・・俺の中、がんがん突っ込んでええよ?
 「手コキは嫌?口がええの?」
ええよ、俺は。その代わり、俺も気持ちようしてな?
 「・・・そういう事ちゃう。止めよ、言うてんの」
・・・面白くない。・・・きっと大悟と宇治原さんが、羨ましいんだろう。そら、何時も俺は残って
仕事してて、大悟は俺によう相談してくるくせに、宇治原さんに引っ張られてすぐ裁判所に
行くし、宇治原さんは宇治原さんで、俺ばっかりに仕事を押し付けて。周りは、大悟と俺がよ
く特別扱いされてるから、嫉妬心からか知らんけど、俺に近づこうとせんし。多分、今の心の
より所は、和田ぐらいしかいない。だから、和田といたい、気持ちよくなりたいと思う。
 「・・・せえへんの?」
獣に近いかもしれない。でも、身体が欲しい。本能がそう言って止まらない。
 「・・・やけど、コンドームが・・・
 「あるよ。しかも水に濡れてもええ奴」
こんなんあるんやなぁ、とけらけら笑いながら、通販で買った奴が二つ。ゼリー状の潤滑油
も外側に塗られており、入れられた時の快感は、めっちゃ心地いい。・・・めっちゃ、したい。
 「・・・しよ?」
・・・そう、迷うなや。
 「石鹸だらけになって、やんのも気持ちよさそうやけど」
ソープ嬢みたいなもんか。ちなみに、二人とも風俗は行く。今となれば、女の胸の大きさには
特に興味は無い。大なり小なり、感触も気持ちよさも中身も、皆一緒。胸より、テクニックや
トークの方が重視する。AVも、しばらくは見ていた。でも、何だか冷めてしまって、止めた。
 「何か・・・犬みたいや。こんなに、やりまくって」
仕事に関しては、少しぐらい遅れても許される。まー、お気に入りやからね。
 「犬。ええやん、犬。二人の時ぐらい、獣に戻っても」
人間でいるのは、仕事の時だけで十分。
 「ぅんんっ・・・、・・・町田・・・」
深くキスをしてやると、本気になったらしい。押し倒される。・・・そう、それでいい。

風呂場で二度セックスをした。コンドームは、使い切ってしまった。疲れきって、二人でベッ
ドに仰向けに倒れる。でもすぐに、抱きしめあう。何しろ、犬やから。飼い犬じゃない、野良。
 「・・・んっ、ふ・・・んんっ、ん・・・」
俺が自分がバイセクシャルだと気づいたのは、高2の時だった。教育実習中の大学生と、で
きてしまった。国立大の生徒で、なかなか頭がよくて、顔もよく、少し乱暴だったが、かなり
ハイレベルだったと思う。でも、ホモセクシュアル。勿体無い事に、女に全く興味が沸かない
と言っていた。同じ顔でも、女だと眼中にも入らないと。色んな所で、セックスをした。酷く
好みだと言われ、テクニックも体位も色んなセックスも、何から何まで仕込まれた。周りが、
幼稚に見えた。教育実習が終わってもしばらく付き合っていたが、俺が和田を好きになって、
振った。いい男だったが、何か飽きた。整っている男よりも、和田みたいな馬鹿の方がいい。
 「・・・仕事、疲れてんの?」
頼りなくてイライラする事もあるが、世話を焼いてやると、素直に喜んで・・・嗚呼、可愛い。
 「何で?」
 「やって、・・・最近激しいから。弁護士って、大変なんやろ?」
警備員やって、大変やんか。あの人の事を、思い出したからかもしれない。あの人とは、めちゃ
くちゃやりまくってたから。当時の大阪のラブホ情報なら、任せてくれ。・・・冗談だが。
 「そら大変やで。時々、頭痛が止まらんわ」
相談に来る、相手が馬鹿すぎて。
 「・・・俺はよう分からんけど、何かあったら言うて。・・・全部、聞くから」
・・・・・・同性の恋愛対象に関しては、全く恵まれていると思う。






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