変身願望
「・・・整形しようかな」
「・・・・・・は?」
セックスを終えた後、大好きな恋人にこういう事を言われたら、どう思うだろう。俺は呆気
に取られて、こんなコメントをしてしまった為、恋人に殴られた。・・・あー、ヒリヒリしてる。
「・・・そんな、殴らんといてよ・・・」
井上は、眉間に皺を寄せてる。ぎゅっと抱きしめる。暴れる。抑えつけ、キスをして宥める。
「・・・何で、整形とか言うん?」
普段は俺が井上に引っ張られている。引っ張られるのは楽だし、のろけだろうが、楽しい。一
緒にベタベタしている時は、俺が井上を包み込む。井上はそれに甘えて、大人しくて可愛い。
「・・・アイドルになりたいから」
・・・・・・あの。芸人始めて、何年ですか?そこそこ人気、出てるやん。単独をやればチケットは
売れるし、好きやって言うてくれてるファンもきっちりおる。ええ加減、諦めてくれよ・・・。
「・・・お前な」
・・・と、言える訳がない。惚れた方が負け、と人は言うが、俺は井上にめっぽう弱い。
「・・・嘘。嘘でもないけど・・・・・・ほんまは、・・・この顔が、あんまり好きやないから」
そんな俯き加減に言われると、酷く愛しく思ってしまう。可愛すぎる。
「・・・どうして?」
俺は可愛いと思う。とりあえず、劇場一可愛いね。アホかと他の芸人(特に相方とくっついと
る奴)に言われそうだが、可愛えもんは可愛えんじゃ。・・・だから整形なんて、止めて欲しい。
「・・・中途半端やもん。何か・・・中途半端。ブスでもないし、格好よくもないし」
中途半端・・・
「・・・石田?・・・え、ちょっ、何でお前が泣くん?」
・・・『どうにでもしてくれ。お前が好きや。好きでたまらんねん!やらせてくれええっっ!』。
『ほんま・・・アホ。・・・・・・俺も好きやで、石田』。あの告白は、井上にとって何だったのか。
「・・・なぁ、何で泣くん?」
だって、だって俺は、井上の外見も中身も全部ひっくるめて、最高だと思ったのに。
「・・・だって、だって・・・」
ぽろぽろぽろぽろ、涙が毀れていく。慌てふためる井上。抱きしめる。
「俺にとって、井上は最高の存在やねん。・・・中途半端なんて、言わんといて」
誰に『好きだ』と言われたって、単純に嬉しい以外には思わない。でも、井上の言う『好きだ』
は、違う。もうそれだけで、自分の嬉しいと思う全ての瞬間を、集めたような気持ちになる。
「・・・石田。・・・もう、あかんわ。そんなん言われたら・・・、どうでもようなった」
・・・幸せだ。
「んっ、ふ・・・・・・石田ぁ、んっ・・・」
だらしなくキスをする。
「・・・Hしよ、石田・・・」
キスを、何度もする。くちゅくちゅ、短いキスを重ねていく。
「・・・いいの?」
もう、身体は興奮しきっている。何時でも準備OKだ。
「・・・やってみよ、Hダイエット」
「・・・Hダイエット?」
井上が、俺の身体に跨る。さっき着たばっかりの服を脱がすと、井上も俺の服を脱がしてい
く。・・・はぁはぁ、荒い息を吐きながら。トランクスをするっと脱がす。俺のも脱がされる。
「・・・俺が痩せるのは、嬉しいやろ?・・・だから、沢山、Hしよ」
その分だけ、気持ちよくなれるし。その言葉は、甘く俺を誘う。
「はっ、はぁ、気持ちええっ、もっとっ、もっとっ・・・あぁっっ・・・!」
ずっと、気持ちいい。何度も何度も、絶頂に達する。一度逝って、ほとんど間髪入れずに、また
始める。お互いの身体が、とろとろに溶けて、一つになってるみたいだ。もっと、もっと気持
ちよくなりたい。二つになるのは、今は少し嫌だ。ずっと一つに。繋がって、いたいと思う。
「・・・あっ、ああっっ、逝くっ、逝くうぅっっ・・・!」
ふう、っと息をつく。
「・・・疲れたね」
汗でびちょびちょになった身体。
「・・・体重、量ってみる」
井上はそう言って、さっと浴室まで行ってしまう。・・・ベタベタしたかったのに。寂しい。
「どうやったぁ?」
井上の顔は、笑顔。もったいぶって、ニヤニヤしながらこう答えた。
「0.5キロ、痩せてた」
「マジで!?」
「うん。やっぱ、運動の一種やからねぇ」
調べたところ、俺も井上と同じく、0.5キロ痩せていた。
「これ以上痩せたら、病気なりそうやわぁ」
ただでさえ、よく骨を折ったりするのに。狭い浴槽で、いちゃいちゃする。
「せやなぁ。・・・んっ、・・・ん・・・・・・また、沢山Hしよな」
抱き合って、キスをする。いちゃいちゃするのが、楽しいと思ったのは、相方とくっつく様に
なってからだと思う。隠す必要はあるが、お互い、素直に愛情を表現できるからだと思う。
「・・・うん。気持ちよかったし、痩せるし」
笑う。キスをする。単純な行動で、どうしようもないくらい、幸せになれる。本当に、最高だ。
出来る事ならずっと一緒に居たい。無理だろうけど。・・・離れるまで、愛し合っていたい。
END