風呂場にて
・・・何時からだったか、相方が、俺にこんなにべったりになったのは。
『・・・福ぅぅ、ドア開けてー・・・』
風呂場に入ったのは、二十分前くらい。・・・一人で入る。一緒に入りたいとしきりに懇願する
徳井君を振り切って、風呂場に入った。それから、ずっと徳井君がドアの前に座り込んでいる。
全く・・・俺の事を好きになってくれるのは嬉しいが、これはどうかと思う。最初は、こんなにべ
ったりじゃなかった。関係は深くなったけど、徳井君はきちんとプライベートと仕事を区別して
いて、良かったと思っていた。・・・が。何時からかその壁が濃くなったのか、プライベートは
何時も二人じゃないと落ち着かないらしい。・・・俺も徳井君が好きだけど、徳井君程べたべた
するのが好きじゃない。もっと落ち着いた、大人でクールな関係で居たかったのに。
「あかんって言うたやろ!・・・ほら、早よどいて!」
さっきからこう言っているのに、徳井君はどいてくれない。
『・・・嫌や』
この通り。
『・・・なぁええやろぉ、・・・二人で、風呂入るくらい・・・』
二人で風呂入るくらいって・・・二人で風呂入って、何をするつもりやねん、お前は。抱きしめる?
・・・抱きしめるだけじゃ終わらないだろう。終わるなら、俺はこんなに拒否はしない。
『・・・福ぅ・・・なぁ、ほんまにお願いって、・・・一緒に入るだけでええからぁ・・・』
一緒に入るだけ・・・って、じゃあ今までは他の事も期待してたんかい。
『・・・福ぅ・・・』
寂しそうな徳井君の声。ちょっと・・・可哀想かもしれない。もしかしたら、徳井君は本当に、
ただ単に一緒に入りたかっただけなのかもしれない。・・・もう・・・いいかな、開けてやっても。
「・・・徳井君・・・?」
ドアを開けた途端、徳井君が待ってましたと言わんばかりに抱きついてきた。離れようとするが、
徳井君の方が力が強く、抑え付けられてしまう。徳井君がキスしてくる、・・・畜生、馬鹿野郎。
「・・・んっ・・・ふっ・・・・・・徳井君・・・嘘吐き・・・」
何もしないって言ったのに。
「ごめん・・・。やって、ああでも言わないと、福、開けてくれへんから・・・」
俺が睨みつけると、急におどおどし出す徳井君。・・・そんな徳井君を可愛く思い、風呂場に入れて
やる。まだ、徳井君は俺の様子を伺っている。徳井君の頭を撫でてやり、・・・そっとキスをした。
「・・・福・・・」
今、自分の置かれた状況を理解できません、という徳井君の顔。
「・・・服、脱いで。風呂入ろ」
そう、したかったんやろ?
「・・・うん」
徳井君は服を脱ぎ、腰にタオルを巻いた状態で、風呂場に入ってきた。抱きしめられる。特に何
という事も無く、だらだらと話をする。何か幸せだ。頭を洗ってやろうと、徳井君は俺の後ろに
座り込み、シャンプー液を手に取った。髪がくしゃくしゃになる。表皮を軽く擦られる。何か
気持ちいい。徳井君が、頻繁に『可愛い』と言う。甘ったるくて、砂糖を吐いてしまいそうだ。
でも、何か徳井君とこうしていると、こういうのもいいかなぁなんて、思ったりするのも事実。
「・・・ありがと、徳井君・・・・・・徳井君?」
頭を流した後。徳井の、嫌に真面目な視線が、俺に集中する。・・・そのまま、キスをされる。
きつく抱きしめられ、徳井君にずっと見つめられ、・・・俺はもうどうでもよくなってしまい、
徳井君に身体を預ける。シャワーに打たれながら、止め処なくキスをしていく。何度もキス
をして、すっかり感覚が麻痺した頃、唇が離された。徳井君に抱きかかえられる。・・・落ち着く。
「・・・ずっと・・・こうしてたい・・・」
今日はずっとオフなんだが、明日からまた仕事が始まる。仕事が始まると、徳井君とこうして
いる時間も少なくなる。寂しそうな徳井君。・・・頬を引っ張って、顔を弄くる。暗かった顔が、
くしゃくしゃになる。また抱きしめられる。・・・ほんまに・・・めっちゃべったりなんやから。
「・・・徳井く―ん?」
軽く声をかける。・・・返事が来ない。
「・・・・・・徳井君?」
閉じた瞼、同じリズムで聞こえる吐息。・・・寝んなや、もう。
「・・・んっ・・・」
せっかくお前の大事な相方が、キスしてやろうって思ったんに。
END