以心伝心



何時も側にある存在が側にないというのは、少しばかり寂しい。

 「もしもーし」
和田が、風邪で寝込んだ。それを本人から知らされたのは、待ち合わせ場所に行く途中
だった。しかもまん前。数メートルしか離れていないだろうという時に。
 『・・・町田?・・・どーしてん』
心配しとんのじゃ。一応。
 「・・・暇やなぁと思って。誰かさんが風邪貰って、寝込んだからなぁ」
嫌味たらしく言ってやる。・・・待ち合わせ時間は十二時半。ファミレスまでは二十分。
・・・何故か早く起きてしまった。何時もと同じなのに。場所も、側に居る人物も。
 『・・・ごめん』
どうして謝んねん!!!お前は悪ないやん!うつされただけやん!
・・・嗚呼まったく、馬鹿素直な相方。俺が理不尽な事で責任をなすりつけても、何時も
其れを庇う。自分が悪くない事で俺が怒鳴っても、謝る。・・・感謝してなくはない。
でも、少し気づいてくれないか。俺が何時も、謝って欲しくて文句を言ってるんじゃない
って事に。ほんまは、文句なんて言いたくないねん。怒ってよ。怒ってもええやん。
 「・・・病院、行ったん?」
和田が熱を出したのは、昨日の晩。昨日はずっと劇場の楽屋で話していた。きっと、その時
楽屋に居た誰かにうつされたんだろう。
 『・・・行けてへん。しんどくて・・・』
 「アホ!40度出てんねんやろ!?何で行かへんねん!」
 『そう言うても・・・しんどいねんもん・・・』
・・・全く、何処までも世話の焼ける。
 「分かった。・・・今から行くわ」
 『えっ!?ちょお待って、町田、おい・・・』
通話を切る。・・・行くか。

見慣れたドアを開け、見慣れた部屋に入る。一番最近に此処に来たのは、四日前。
 「きたな〜・・・ほんまに。食べたもんぐらい、洗っとけや」
昼飯・・・カップラーメンかい。もう少し、栄養のあるもんを・・・。
 「・・・ごめん。今日、行けなくて。・・・迷惑かけて」
・・・なんで、その三文字しか言ってくれへんねん。
 「・・・どうでもええよ、そんな事」
ほんまに。
 「・・・いや、でも・・・」
黙っとけ、風邪っ引き。
 「んっ・・・町田??」
 「・・・今、食いたいもんは?」
 「・・・え・・・?・・・・・・うどん?」
 「よし、うどんやな!・・・ちょっと買いもん行ってくるから、大人しくしときや!」
 「・・・・・・はい・・・」

前言撤回。何時も側にある存在が側に居ないというのは、かなり寂しい。






END