一週間後
・・・この前。やってはいけない事を、やってしまいました。やるつもりはなかったんです。・・・というのは嘘で
す。狙ってました、あの人にキスをした瞬間、無防備なあの人の姿を見て、ああ、これはイケる、と思ったんで
す。そのまま、トイレの個室でやってやろうかと思いました。でも、そこでダメだと気付いたんです。だって
あの人は、結婚しているから。人のものに手をつけてはいけない、そう思って、手を止めました。でもあの人
は乗り気で俺を誘って、誘われるがままに、自分の家で、四回もしてしまいました。全て生です、中出しです。
「岡田さーん」
「わ――――――!?」
思わず後退してしまう。声の主は・・・平井だった。
「な、何っ!?」
嗚呼、こんな変な反応、見せたら感づかれるだろうか。あんな事、したって。
「いや・・・仕事ですよって・・・・・・何か、あったんですか?」
ありました、ありましたとも。とんでもない事が。
「・・・あんな、平井」
・・・・・・。
「はい?」
「俺のー、知り合いの話やねんけどな」
「はい」
「ずっと前から、仕事仲間と・・・そのー・・・不倫、してて」
俺としては普通に恋愛感情を持ってあいつの事を好きになって関係を持ったから、あまり「不倫」なんてい
う嫌な響きの言葉で呼びたくないんだが、世間一般では、この関係は「不倫」としか称されないんだろう。「浮
気」なんて言うには、心も身体も重ね合わせたこの関係には、少しばかり軽すぎる。最も、こんな関係を持っ
ておいて(しかもあいつと)、俺がこんな事を言うのは、わがままなのかもしれないが。
「そいつは、最初、相手は結婚してないと思っててんけど・・・
打ち明けられた時、正しく頭が真っ白になりそうだったのを、よく覚えている。
・・・ほんまは、結婚してて」
「はい」
「・・・一度は、関係、断ち切っててん」
「・・・はい」
『普通の関係になりたい』。そう涙目で訴え、後ろ髪引かれる思いで、手を引いた。
「でもほら、無理に引き裂かれても・・・我慢、できへんやん?」
そう、だから、俺は。
「・・・はい」
「・・・この前・・・やってもうたらしいねん。そいつの家で」
嗚呼、言ってしまった。
「・・・はい」
「・・・『もう一度やり直したい。別れたくない』って、言われたらしくて」
思わず、『Yes』と返してしまった。やって、余りにも懇願してくるから。今手を離したら、きっともう二度
と、自分のところには来てくれないだろう、そう思って。不安で、離れたくなくて。だから、要求をのんだ。
「・・・あのー、岡田さん」
「うん?」
「やったんですか?・・・増田さんと」
思わず吹き出す。
「な、何言うてんねん!そんな事・・・」
「だって、余りにも似てるから・・・」
・・・・・・。
「・・・違うんですか?」
「・・・・・・そうや、お前の言う通りや」
「・・・よう、できますね。自分の奥さん、抱いたベットで浮気するなんて」
「あいつも、最初は嫌やって言うてたよ。でも、抑えきれんかった」
四回ものセックスの中で、何度もキスをした。抱きしめて、お互いの身体を愛おしあった。射精をする度、相
手の身体が、自分のものになっていく様な気がした。全てが愛しい。・・・大好きだ。
「そんな事して、いいと思ってるんですか?」
家庭裁判所にでも、連れてこられた気分だ。
「・・・思ってないよ。・・・でも、嘘はつけへん」
「嘘って・・・どういうつもりなんですか?一番、浮気の対象になったらあかん人でしょう!?」
・・・確かに、そうだが。・・・でも。それでも、好きなんや。
「俺・・・あかんねん。あいつとセックスしてないと、・・・可笑しくなりそうになる」
「・・・岡田さん・・・」
「別れなって思えば、思うほど好きになる。きっと、離れる事になったら・・・」
「・・・ええなぁ」
「・・・何で?」
「岡田さんはしんどいかもしれないですけど、・・・そこまで好きなら、幸せですよ」
「・・・幸せ・・・なんかなぁ・・・」
「それに、よく言うじゃないですか。『不倫は文化だ』って」
・・・それはありなのか?
「・・・お前、意外とブラックやなー」
「気付きませんでした?」
「・・・気付かんかったわっ」
・・・『人は見かけによらない』。昔の人は、よく分かってる。
continue...