four×ケンカ×blue
何時も思う。菅ちゃんが、俺から何時離れるんだろう。
「・・・宇治原?」
高井さんに呼ばれて、はっと気が付いた。西野、梶原、高井さん・・・。
一人で考え事をして、意識が飛んでいた。
「・・・大丈夫ですか?宇治原さん・・・何か、悩んでるんですか?」
梶原が、心配そうに見てくる。西野がそんな梶原を見つめる。
「大丈夫大丈夫、何でも無いよ」
・・・西野も、さっさと告ればいいのに、と思う。
「・・・じゃ、また台詞合わせしよか!」
高井さんが仕切り直す。あかんなぁ・・・俺の中で、どんどん菅ちゃんが大きくなってる。最初は、す
ぐ終わるかと思っていた。俺と菅ちゃんの関係は、友情の延長で、ままごとの新婚夫婦みたいなも
のだったから。こんなに甘い安堵には、すぐ飽きてしまうだろうと思っていたから。でも、菅ちゃ
んは思ったより本気だった。毎日俺と逢わなければ不安らしく、一日でも逢わない日があると、泣
き出して電話してきてしまう。元々モテる方ではないので、そこまで愛されていると思うと、俺も
ついつい、応えてしまう。菅ちゃんと居ると、落ち着くと同時に、物凄く不安になってしまうけど。
『・・・本番始めまーす!』
スタッフの声が、遠くで聞こえる様。一人で突っ立っていると、梶原が手を握り、引っ張っていく。
「・・・梶原・・・」
「・・・宇治原さん、大丈夫なんですか?本当に」
大丈夫では・・・無いかもしれない。
「・・・お前に心配される、筋合い無いわっ」
梶原の手を叩いた。・・・こんな事、する気無いのに。
「・・・筋合いありますっ」
そう言うと、梶原はきつく手を再び握り、スタジオとは違う方向へ、俺を引っ張っていった。自動
販売機の前。・・・梶原は強引に椅子に俺を座らせ、コーヒーを二本買い、一本を俺の方へ投げた。
「・・・梶原・・・!!」
逃げたら許さない、とでも言いたげな梶原の顔。大人しく座り、コーヒーを口に入れた。
「・・・何か、あるんでしょう。菅さんと」
何も分かっていなくせに、分かっているような顔する。
「・・・お前みたいな、子供には分からんよ」
「子供って・・・!俺だって、もう立派な大人です!!」
何が大人だ。ずっとずっと西野に愛され続けていて、密かに思われ続けて、そんな西野の気持ちも
分からずに、とっとと結婚した奴の、何が大人だ。俺は菅ちゃんの事なら、なんでも分かる。
「・・・へーえ、大人ねぇ・・・西野の気持ち、知っとるんか?」
きょとんとした、梶原の顔。
「・・・そんな・・・」
「・・・俺に言われて気付くなんて、やっぱ『子供』やなぁ?」
今頃そんなに慌てても、もう西野は、自然消滅だと諦めているだろうに。・・・俺、何言うてるんやろ。
梶原の事、傷つけるなんて。いや、梶原だけじゃない、俺は同時に、西野の事も傷つけているんだ。
『・・・宇治原さん』
声の主は、般若のような顔をした、西野だった。
「・・・西野っち」
梶原は、酷く怯えている。
「・・・西野」
西野は何回か、俺に相談していた。梶原に告白する事で、自分が梶原を酷く傷つけることにならな
いだろうか、とか、それでも梶原が好きだという、自分の気持ちに嘘はつけない、とか。そして俺は、
はっきりと約束していた。・・・例えどんな事があっても、西野の気持ちは、梶原には言わないと。
「・・・酷い・・・っすねぇ。約束してたのに」
西野の目は涙で潤み、声と身体は酷く震えている。・・・悪い事をした。謝っても、無駄だろう。
「・・・自分が幸せやったら、ええんか。自分が幸せやったら、約束、破れるんですか?」
・・・破るつもりなんて、無かったのに。
「俺は・・・」
「梶原、ごめんな。俺、めっちゃキモいよな」
西野はそう言うと、申し訳ないという表情で、梶原を一人、スタジオへ行かせた。
「・・・最悪やな、あんた」
・・・本当は考えたくない物事が、次から次へと頭の中に生まれてくる。お前はどうなんだ。梶原が
そんなに好きなら、何で告白しない。フラれるのが嫌なら、最初から好きになんてなるな。大体、何
で俺に相談するんだ?本当は暴露して欲しかったんだろう?あわよくば、そう思ってたんだろ?
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