eight×お祭り×yellow



 「・・・嫌」
菅ちゃんの顔は、明らかに不服の色を見せている。・・・横には、藍色の甚平を着た高井さんと、濃い
緑色の甚平を着たたーちん。・・・二人も、顔が濁っている。・・・あの後。ドアの向こうに居たのは、ラ
ンディーズの二人だった。菅ちゃんの家に行った所、居なかった為、俺の家に来たらしい。たーち
んと高井さんは、この近くの神社で秋祭りが行われている事を知り、・・・最初は二人で、高井さん
の提案でウエストサイドのメンバーで、祭りに行こうと決めたらしい。梶原と西野を誘おうとし
たものの、連絡が取れず(西野は先日、休みを利用して、梶と旅行に行くとか言っていた)、俺と菅
ちゃんを誘いに来た。菅ちゃんは俺と二人のやり取りを聞いていて、最初から反対していて、最初
は俺も諦めてもらおうと思ったのだが、・・・どうも、高井さんの可愛さに負けてしまった。
 「・・・お願いやって。菅ちゃん、絶対楽しいから、行こ?な?」
 「・・・いーや。絶対嫌や」
高井さんの方を見る。・・・上目使いで、訴えられると、弱いです。・・・たーちんが入れ込むはずや。高
井さんって、可愛いよなぁ。顔は男前だけど、中身は物凄く可愛い。たーちんは、そんな高井さんに
夢中になっている。・・・俺は菅ちゃん一筋だから浮気する気は無いけど、ほんまに、可愛い。
 「・・・トシ、やっぱ二人で・・・」
高井さんの顔が、暗くなる。
 「・・・菅ちゃん。ほんまに、何でも言う事聞くから、・・・な?」
おそらく、高井さん、菅ちゃん以外の相手に頼まれたら、俺はここまでしないだろう。しょうがな
い、だってこんなに可愛いから。どんな男でも、可愛いと思う相手には、弱いと思うんだが。
 「・・・ほんまに?」
にやりと笑う菅ちゃん。・・・う。
 「・・・うん」
 「・・・じゃあ、いいよ?」
高井さんの顔が、ぱぁっと明るくなる。たーちんもそんな高井さんを見て、安心したように笑う。
本当はそのまま行ってもよかったのだが、たーちんが俺と菅ちゃんに似合うだろう浴衣を持って
いるとの事なので、たーちんの家に寄った。菅ちゃんに渡されたのは、水色の、少し短いの。(多
分高井さん用)俺に渡されたのは、ワインレッド(深紅色、とでも言うんだろうか)の、少し長いの。
(多分自分用)祭りの会場は案外混んでいて、何人か、こっちを指差してくる。高井さんとたーちん
は手をつなぐ程度なのだが、菅ちゃんはここぞとばかりにひっついてくる。・・・逆らえないのが、
少し辛い。嫌じゃないんだが、見られるのはどうも・・・。たーちんが、嬉しそうに笑ってる。実は少
し憧れる、ランディーズの二人みたいな関係。くっつきすぎもせず、離れすぎもしない。高井さん
はたーちんが大好きで、たーちんも高井さんが大好き。・・・羨ましいなぁ、あんな自然な関係。
 「・・・何見てるん?」
菅ちゃんは可愛さにかけては他の奴には負けないが、ワガママな所も伊達じゃない。でもその分
だけ自分を隠せない所もあって、可愛いねんけど。高井さんは、落ち着いている。嫉妬深くもない
し、少し素直になれない所が又可愛い。・・・少しでも、高井さんみたいに落ち着いてくれたら。
 「・・・高井さんの事、ええなぁって思ったやろ」
・・・バレたか。
 「・・・ごめん」
 「・・・ええもん。宇治原なんか、嫌いやっ」
菅ちゃんがパッと走り出そうとする。抱きしめ、逃げられないようにした。・・・あぁ、びっくりした。
菅ちゃんは得意げに、ニヤリと笑う。・・・引っ掛けられた。・・・全く、調子がいいというか、本当に。
 「・・・宇治原―!金魚すくい、せえへん?金賭けて」
たーちんが大きな声で呼んだため、周りが一層騒がしくなる。
 「・・・いいですよ。幾ら賭けます?」
横にしっかり高井さんを座らせて、たーちんはポイを俺に渡した。
 「・・・あの、ラムネ四人分でどうや?」
たーちんが指差したのは、隣の店に置かれた、薄い水色の、美味しそうなラムネ瓶。
 「言うときますけど、本気で行きますからね。・・・奢って貰いますよ、四人分」
 「・・・こっちの台詞や」
面白そうに見ていた店のおっちゃんが、号令をかけた。二人同時に、ポイを構えた。

 「・・・あー、美味ーvv」
四人で歩きながら、ラムネを口に入れる。ちょっと行儀悪いけど、これぐらい気にしない。
 「・・・ま、俺のおごりやからなぁ」
中川さんの、寂しそうな声。そう、勝ったのは俺。たーちん10匹、俺12匹、2匹差で俺の勝利。そ
の結果、たーちんは三百円のラムネを、四本買った。たーちん、しょんぼりしとる割には、しっかり
高井さんを側に歩かせてる。・・・着物が少しはだけて、高井さんの小麦色の胸が見えている。
 「・・・宇治原のスケベ」
菅ちゃんが、つまらなさそうに言う。・・・やって、あんな美味しそうな身体が、横を歩いとるんよ?
たまらん。あの胸ももちろん下も、堪能しとるんやろうなぁ、たーちん。くそー、ええなぁー。
 「・・・あ、花火や」
高井さんが上を見上げる。たーちんが上を向き、続けて、俺と菅ちゃんはほぼ同時に、顔を上げた。
 「・・・きれーい」
赤や青、黄色、紫色の火花が、綺麗に線状に下に落ちていく。原理はもちろん知ってる。そりゃ、京
大やから。菅ちゃんも知っている。たーちんと高井さんも、知っているかもしれない。で
も、そんなつまらない科学的原理で、こんな綺麗な花火を論理付けてしまうのは興ざめだし、『つ
まらない』以外の何ものでもない。そんな事を口にしたら、四人とも冷めてしまうのは見えている。
それにしても、綺麗・・・。久しぶりに見た、花火。・・・菅ちゃんの、嬉しそうな横顔。・・・嗚呼、可愛い。
 『・・・あのー、もしかして・・・ランディーズさんと、ロザンさんですか?』
ほのぼのした時間を、打ち消してしまう言葉。
 「・・・はい、そうですけど?」
たーちんがそう、口を開いた。黄色い歓声と、サイン、写真、握手を求めるファンの声。たーちん、高
井さんは素直に握手したりしている。俺と菅ちゃんもしているけど、本当はしたくなかったりす
る。・・・ファンの子には悪いけど、声をかけて欲しくなかった。この時間を、無くしたくなかった。
 「・・・宇治原」
小声で菅ちゃんが、耳打ちした。
 「・・・大丈夫、又、来よう?・・・こーいうの」
・・・嗚呼、やっぱあかん。菅ちゃん、可愛すぎ。・・・愛してるでー!!






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