last×リンゴ×red
『菅ちゃーん、できたよー』
宇治原が、何時もと同じ、優しそうな顔で歩いてきた。少し底の低い皿に入っているのは、リンゴ。
リンゴとは言っても、すりおろし、食べやすくしたもの。・・・頭が熱い。熱すぎて、ガンガンする。
「三十八度・・・下がらんか・・・」
十月二十九日。俺の、二十八回目の誕生日。
「・・・宇治原・・・ごめんな、美味しいもん食べに行こな、言うてたのに・・・」
「・・・菅ちゃん・・・」
不覚だった。はしゃぎすぎた。雨の中、めんどくさくて走って家に帰った。案の定、風邪を引いた。
「気にせんでええのっ。・・・ほんっまに可愛いなぁ、菅ちゃんは」
優しく抱きしめられる。・・・優しい。ほんまに優しい。いつまでもこうして、甘えていたい。甘えて
いては大きくなれない事は知っているけど、こうしていると、思わず甘えたくなってしまう。
「・・・さ、食べような。だるいやろうから、俺が食べさせたるよvv」
・・・甘えてええんかなぁ。
「・・・菅ちゃん?どーしたん、食べたくない?」
心配そうな顔。・・・あかん、俺、迷惑かけてる。でも、どう言えばいい?・・・分からない。
「・・・菅ちゃん!?大丈夫!?何か変な事言った、俺?」
宇治原は慌てて、ティッシュで、右頬に流れた涙を、優しく拭いてくれる。違う。宇治原は悪くな
い。・・・でも、どう言ったらいいのか分からない。何が府大生や、こんな事も見当付かないで。
「・・・違うの!宇治原は、悪くないの。・・・俺が、悪いの」
そう。俺が悪いんだ。
「・・・ごめん。宇治原に迷惑、かけたくなくて、・・・でも、・・・それで・・・」
何言ってんだろう、俺。又、訳分からんって顔してるやん、宇治原。・・・俺の馬鹿。・・・あれ?宇治
原?・・・どうして、抱きしめてくれるの?・・・俺、宇治原に迷惑かけてばかりなのに。・・・何で?
「・・・ごめんな。菅ちゃんが、そんな風に思ってたなんて、分からんかった」
頭を撫でる手が、大きくて温かい。指の一本一本から、溢れるほどの優しさが伝わってくる。
「・・・宇治原」
「プレゼントも、買えてないし。・・・最悪やー、俺」
プレゼントは、誕生日の前日に買う。俺が、宇治原と約束した事。前日まで悩んで欲しくて、俺が提
案した。宇治原は、昨日の夕方頃から俺の看病をしてくれていたから、買えなかったんだろう。
「・・・いいの。プレゼントなんて、いらない。ずっと側に居てくれるだけで、いい」
何時も不安だから。何時まで、側に居てくれるかどうか。
「・・・菅ちゃん」
「・・・何時もごめん。宇治原に、甘えてばっかで」
またしっかりと抱きしめられる。
「・・・風邪引いちゃう・・・!!」
「引いてもええもん。・・・もっと、甘えていいよ。甘えられて本望やね、俺は」
・・・宇治原。
「・・・キスしていい?」
俺がそう聞くと、宇治原はそのまま、キスをした。
「・・・んっ、ふ・・・んんっ・・・」
何度も短く唇を重ねて、お互いの身体を抱きしめる。熱が、分散していく。
「・・・リンゴ、変色したなぁ」
「又作ってあげる。・・・だからもうちょっと、こうしてていい?」
「・・・うん」
宇治原は嬉しそうに、額や頬に、何度もキスをした。恥ずかしくて赤くなりそうな、キスの雨。その
唇は優しく熱を帯びていて、風邪を引いていることも忘れそうになるくらい、安心してしまう。
「・・・宇治原・・・」
宇治原の唇が、首筋に。
「・・・・・・・・・宇治原?」
何も話さない。変に思い、顔を見る。
「・・・・・・」
すっかり寝ている。綺麗な睫毛。宇治原は、やたらと俺の目を褒めるけど、俺は宇治原の目、大好き。
何と言っても、俺を優しく見守ってくれてる。横に居てくれるだけで、どんなに安心するか。
朝。すっかり熱が冷めた身体は、宇治原の腕の中に。
「・・・宇治原ぁ〜」
その身体は、未だに吐息を立てている。額を触る。熱は無いみたいだ。・・・良かった。宇治原が風邪
を引いたら、きっと不甲斐なくてたまらなくなっていただろう。・・・でも、早く起きて欲しい。
「・・・んっ・・・」
宇治原に、キスをした。
「・・・菅ちゃん・・・・・・あれ?俺・・・いつのまに・・・」
・・・そうか。宇治原、気付いてないんだ。
「・・・宇治原、疲れてたんやね。・・・ごめんね、俺・・・」
「・・・又気にしてる」
宇治原が、寂しそうな目で見る。
「・・・気をつけます。・・・宇治原ぁ」
「ん?」
「・・・しばらく、こうしてていい?」
「・・・もちろんvv」
リンゴみたいに、甘くて優しくて、俺を元気にしてくれる、宇治原。宇治原は俺の事を、可愛くて苺
か桃みたいだなんて言うけど。何時も側に居てね。宇治原が側に居てくれるなら、何でも出来る。
END