二週間後。


この前、多分、してはいけない事をしてしまいました。するつもりは無かったんです。・・・というのは嘘かも
しれません。恐らくそうです。期待してましたから。あれ程入れ込んだのに、あの人がこのまま引き下がる訳
がないと、訳の分からない自信を持ってました、自分に。何度も抱き合いました。キスをする事、セックスを
する事が、楽しくて仕方がありませんでした。一歩だけと踏み込んだ足は、知らない内に歩みを進めていま
した。ふと考えるだけで、身体が熱くなっていく。こうして彼と話している間も、愛撫を求めてしまって。
 「・・・この前は、ごめん」
彼の口から出た言葉は、じめじめとして重い。
 「・・・ええんよ」
普通はこうなんやろうなぁ、きっと。早くセックスがしたいと思うのは、多分可笑しい。ビールのアルコール
が、身体の熱を激しくする。Vネックの間の、くっきりと浮き出た鎖骨には、キスマークが見えている。
 「・・・H、しようか」
・・・頷く。床に押し倒される。吸い付くように首筋や鎖骨にキスをされ、キスマークが残っていく。
 「どんどん、ピンクになってく・・・」
 「・・・やらしー顔」
 「・・・お前も、やらしーで」
セーターとシャツを一緒に上に上げられ、乳首を舐められる。甘い喘ぎ声を出すのを、我慢できない。頭を上
げる。目が合う。・・・キスをする。そのまま、吸い込まれてしまいそうなキス。本当にこのまま、吸い込まれて
しまいたい。そうしたら、抱き合った後の虚しさを、二度と感じずに済むから。

やけに綺麗な夕日が、部屋に射し込んでいる。前までは、もう少し一緒に居た。セックスが終わっても、ずっ
と一緒に居た。今は違う。・・・すぐ帰ってしまう。シャワーでキスマークを、洗いざらい消すとすぐに。
 「・・・増田」
二回も、セックスをしてしまいました。キスを何度もしました、数え切れないくらい。
 「・・・そんな顔、せんといてや。・・・帰れなくなる」
じゃあ笑えとでも?
 「じゃあ、帰らないで」
困ったような表情。
 「・・・キスじゃあかん?」
・・・多分、分からないんだろう。俺がセックスよりも、キスに重きを置いている事を。セックスは肉体的なつ
ながりを表すが、キスは肉体的接触を表すと同時に、あらゆる精神活動の媒介となる唇の接触という事から、
精神的な深い接触をも意味しているのだ。
 「・・・いいよ」
・・・唇が、触れる。
 「んっ・・・ふっ、んっっ、んっ・・・!」
きつく抱きしめられる。深く口付けられる。口で息が出来ず、鼻息が荒くなる。柔らかい唇。左手は腰に、右手
は髪に。密着された身体。口を離しても、又すぐに求めてしまう。お互いの『跡』を、残すために。
 「はっ、んっ・・・ん、んぅぅんんっ、んっ、んん・・・!」
セックスで付く、肉体的な『跡』は違う、精神的な『跡』。世の中には、自分の嫌いな奴に対してでも身体を
売るが、キスは本当に好きな人としかしないという奴も居る。当たり前だ。キスマークは簡単に消す事が出
来るが、キスで残された精神的に残った『跡』は、なかなか消えずに、甘く誘惑する。
 「んっ、んっ、ふうっ、んんっ、んぁぁっ、ん・・・ふっ、ふぅぅぅっ・・・!」
舌が、挿入される。しかもかなり奥まで入れて舐めまわすので、苦しくて涙が出る。
 「もぉだめっ、んっ、ふぅぅっ、ぁっ、んっ・・・!」
ほんまにあかん、もぉ、可笑しくなっちゃう・・・!
 「んっ、んっ、んっ、んっ・・・」
舌を抜かれ、又普通にキスをされる。口が離される。・・・糸を引いている。
 「・・・・・・」
 「・・・んっ、だめ・・・跡、残るやろ・・・」
首筋にキスをされ、キスマークが残っていく。
 「俺以外の奴と、受身でHしないように、戒律や」
・・・浮気なんて、すると思う?
 「・・・帰るわ。帰りたくないけど」
じゃあ、帰らなくてもいいのに。
 「・・・又な」
 「・・・うん」
・・・最後にキスをするのは、反則だ。






continue...