雑音ファクトリー


がやがやがやがや、五月蝿い楽屋。でも、この騒々しさは素晴らしい!!睡眠の中に、無理やり意
識を作ってしまう。やから、相方の声も聞こえるし、周りのスタッフの声も聞こえてくる。
 『・・・大悟?』
こんな感じで。
 「おう。何や」
 「・・・何やって・・・お前、よう寝れるのー。次、出番」
ノブはそう言って、眠そうな俺の手を引っ張った。・・・眠い。いや、昨日の夜寝えへんかった訳やな
い。ただ・・・最近色々ありすぎる。しかも、ノブにさえ言えん事もある。・・・今までは無かった。今ま
でが素直すぎたって言うのもあるんやろうけど、何か嫌や。気持ち悪い、自分が。モチを詰まらせ
て、掃除機で吸い出してもらう途中みたいな。・・・誰かに言えたらなぁ、すっきり・・・はせえへんか。
自分でも、どうしたらええかなんて全っ然分からんし。こうなるって言うのも、分からんかった。
 「・・・大悟?眠いんか?」
眠い言うたら、仕事無くなる?・・・ならんやろ?
 「・・・大丈―夫。眠ない」
大丈夫な事ない。・・・めっちゃ叫びたい。声を出してどうにかなる事やないけど、何か言いたい。で
もなぁ・・・多分、絶対怒る。で、あの人等と仲悪くなる。・・・悪うならへんくても、多分、ギクシャク
する。会話も無くなる。呑みにも行かない。・・・あの事以外は普通のええ先輩やから、言いたくな
い。・・・そんな心配そうな顔、せんといてよ。言いたくなるやろーが。・・・言うたらどうなるか、怖い。
でも言いたい。あー、又眠くなってきた。多分、寝る事が一番の逃げ道やと判断しとるんじゃろ。
 「まぁ・・・ええけど」
そう、ええのよ。何も知らんで。知らぬがなんたら、言うやろ?
 「・・・それより・・・な」
お、やらしい目。分かっとるよ、大体。
 「・・・呑みに行かへん?今晩」
・・・・・・あれ?
 「おう、ええけど・・・他に誰、来るんよ?」
 「・・・いやー・・・他は、誰も呼んでへんのよ・・・・・・ええかな?」
・・・そういう事か。なるほどなぁ、そういうんもあったか。
 「・・・・・・ええよ」
わざとためてみる。スタッフの声。ノブの顔が、さっと変わる。・・・ようやるなぁ。多分あの人がこ
んな所を見たら、そう言うやろう。ええ、しますよ。・・・一応、ね。こんな顔してなんですが。

安っぽいアパートの鍵が開く。全く、一人暮らしというのはええもんで。俺もそやったけど、やっ
ぱ二人おったら二人とも一人暮らしなんがええ。特になぁ、ややこしのよ、ノブの場合。
 「ただいまー」
誰もおらん部屋に、声が響いた。
 「・・・家に?」
失笑する。
 「・・・おう」
苦笑で返される。引越しして、何ヶ月経ったんやったっけ?
 「・・・ビール、呑む?」
初めて会った時は、何とも思わんかった。こうやってコンビ組んでも、ただの連れの延長やった。
俺としては今もそうなんやけど、ちゃうよなぁ、世間的には。・・・多分そう思てるのは、俺だけ。
 「・・・いや、・・・何か無い?他に」
そういえば、何かの番組で・・・引越したてのこの部屋に、変なおっさん、来とったなぁ。
 「・・・お茶・・・だけ」
 「・・・やったら、それでええわ」
で、俺、入られんと。
 「・・・ほーか」
ガラスのコップが、二つ、机の上に。
 「んっ・・・はっ、ぅうんっ・・・んんっっ・・・」
俺、抵抗せえへん。やって分かってたから、こうなるやろなって。
 「・・・ええよな?」
そう、鼻息荒くせんと。
 「・・・風呂入ろ」
ゆっくりな、ゆっくり。・・・あーでも嫌や、やってあのおっさん入ったんやろ?・・・うわぁ、気持ち
悪っ。まぁそう言うたら、前までの風呂も、哲夫さん入っとったんやけど。それは別として。
 「・・・ほっそいなぁー、お前」
狭い浴槽に入りながら、ノブがじっと見てくる。
 「・・・・・・」
 「何や、黙って、・・・・・・」
目が合う。したい事は、お互い同じで。
 「んっ、・・・ふうぅぅっ、んんっ、んぅうんっ、ん、んんっっ・・・!」
ノブはざっざっと浴槽の中を掻き分けて、お互いの肩掴んで、キスした。野犬みたいに荒い息を吐
いて、キスした。多分・・・どっちも不細工な顔しとるわ、最高に。自分でも、よう分かってへんし。
 「はっ、はっ・・・んっ、ぅうんんっ、ん・・・!」
最近・・・頭可笑しいんかな。こうやってアホみたいにやりまくってる時が、最高に楽しい。多分、こ
れは密やかな、あの人に対する腹いせ。考えてみれば、今まであの人のあの事が始まってから、な
ーんもええ事、無かった。そういう所では、ずっと嫌いやったかもしれん。やから、今が楽しいんや
ろなぁ。今も時々ちょっかい出されるけど、前ほど頻繁やないし。・・・これが、普通なんやろ。

 「・・・今週四回目」
ノブが、煙草を一本、咥えた。
 「・・・月、火、・・・木、金・・・あ。ほんまや」
明日は昼から仕事のため、少し余裕。
 「・・・やばいなぁ。やりすぎや」
そうやろうか?・・・って思う俺は、あかんのやろなぁ、一般的には。
 「・・・ええんちゃうの?若いし」
そう。まだ若いんやから。
 「・・・年寄り臭」
 「・・・うっさいわ、あほ!」
丸出しのチンコに、蹴りを入れた。






END