Is this real?
最近、よく思う事。この感情は、ホンモノだろうか?
「・・・あ、和田ぁ」
「ん?」
「今晩、空いとる?」
「・・・・・・うん」
「十時、行くから」
これだけで、セックスの約束ができるようになった。丁度二年くらいだろうか。
周りは知っているかもしれないし、知らないかもしれない。あからさまにじゃれつくのは嫌
いだし、向こうもそうされるのは嫌いだと言っていた。川島とか井上とか、勘のいい奴は気
付いているかもしれない。まぁそんな事は、どうでもええんやけど。全然気にしない。
「・・・暗、あー、ボタンが分からん」
「あ、ここや」
フラフラ酔いが回った身体を何とか動かしながら、部屋の中へ入り、床に倒れる。
「・・・ふー・・・」
すっかり酔ってしまった。和田はさっき買ったビールや牛乳を、冷蔵庫へ押し込んでいる。
「・・・風呂、沸かそか?」
・・・どうだろう。汚いだろうか俺の身体は。昨晩入ったはずだ。
「・・・いや、ええわ」
「・・・そうか」
淡々と、セックスへの話が進んでいく。床に転がっているアダルトビデオ。『完全なる飼育』、
『汁だく桃尻娘』、『淫乱スチュワーデス』。・・・ふーん。・・・何か見ようか。身体が全然興奮
していないから、このままの状態でセックスをしても、つまらなそうだし。和田はまだ、何か
ウロウロしているし。テレビをつける。アナウンサーが、真顔で原稿を読んでいる。中学3年
の女の子が、テレクラにふざけて電話をした所、相手がヤクザだったらしく、リンチにあっ
にあったらしい。このアナウンサーも、男の前では淫乱に喘いでいるだろうか。物凄くMで、
男に縛られて、鞭で身体を打たれるのを喜んだり、男の前で喜んで排泄をしたりするんだろうか。
「・・・何か見る?」
和田が、両手にコーヒーカップを持って、こっちに歩いてくる。
「うん」
適当に選んだアダルトビデオを、和田がビデオデッキに入れて、再生ボタンを押した。
渋谷でスカウトされた素人の女の子が、安そうなラブホテルの中へ男と入っていく。女の子
は素人という割には、なかなか慣れている。恐らく新人のアダルト女優かなんかだろう。
「・・・なぁ、和田」
身体を縄で縛られ、後ろから犯されている。随分と巨根の男だ。
「・・・俺の事、こういう風にしてみたい?」
「・・・・・・どうやろ。反対かも」
和田はMで、俺はどちらかというとS。でも、何時も受身になるのは俺の方。
「・・・俺、ほんまに和田の事好きなんかなぁ」
和田は興奮してきたのか、俺に覆いかぶさり、キスをしてくる。
「・・・何で?」
「・・・ほら、何か聞かへん?女子校にはレズが、男子校にはホモが何組かおるって。俺等の
劇場ってさ、男子校みたいなもんやん。・・・周りの雰囲気で、勘違いしてるんとちゃうんかな
ぁって。・・・ほんまは、別にすきとちゃうんちゃうかなって」
和田は俺の服を脱がしながら、つまらなそうな顔になる。・・・ごめんな、そらそうやんな。
「・・・ごめん。忘れて」
そう言って、キスした。和田の事が、嫌いなんじゃない。むしろ好きだ。セックスも気持ちい
いと思う。でも・・・この感情が本物やないんやったら、セックスも無駄に思ってしまうだけ。
「・・・・・・何か町田、色っぽいなぁ・・・」
・・・考え事をすると、色っぽく見えるんだろうか、俺。まぁあんまり、こんな変な事なんて考
えたくないけど。答えが見つからない。あるかも微妙。そんな悩み事なんて、時間の無駄だ。
*
「・・・お早うございます」
翌朝。劇場で缶コーヒーを買っていると、中山功太に声をかけられた。
「お早。随分早いな?」
「・・・何か暇で」
会話が無くなる。昨日の事を思い出す。俺は何か考えていた事が気になって、なかなかセッ
クスにのめり込めず、面白くなかった。和田は気持ちよかったのか、何回も迫ったけど。
「首。キスマークついてますよ」
「・・・・・・誰も気にせんやろ。特に此処はな」
何でこんなに、同じ様な人物ばかりが集まっているんだろう。妙な劇場だ。
「・・・笑えないですねぇ」
全くそうだ。
「・・・きついなぁ」
中山が笑う。俺も笑う。見た目は皆、至って普通なんだが。
「・・・なぁ。・・・俺、勘違いしてるかもしれん」
「勘違い・・・ですか?」
「うん。・・・周りに影響されて、和田の事が好きやって、勘違いしとるんちゃうかなって」
「・・・・・・ああ」
ほんまはこんな事、考えたくないんやけど。どうしても気になって。
「・・・でも。もし勘違いだとしても、町田さんがそんなに気にする事、ないんじゃないです
か?・・・別に町田さんは、傷つかないでしょ?」
・・・それは。
「・・・和田が傷つく」
中山が笑う。
「・・・そう思ってる時点で、好きなんじゃないですか?」
・・・あ。
「・・・ほんまや」
「よかったじゃないですか。・・・まー、まともな恋愛感情じゃ無い事は確かですけど」
*
「・・・和田」
「ん?」
「おめでとう。勘違いやなかったよ」
「・・・何が?」
・・・全く。まぁええか、覚えていない方が。
END