恋愛話。W


もうすぐ番組の収録やってのに、矢部はまだ来ない。きっと、また寝坊だ。携帯の電源を入れる。
矢部の番号は、未だに非通知設定になっている。何度、番号を聞こうと思ったやろ?
・・・その気持ちは怒りとか、冗談とか、色々違ってたけど。でも今更、相方の番号なんて
聞く気にはならない。今、番号を教えてくれと頼んだら、きっと矢部は笑い飛ばすやろう。
 「岡村さん、・・・何や今日は早いっすね」
俺の悩みの元、矢部が楽屋に入ってきた。矢部の煙草と、俺の煙草の匂いが混ざり合う。
この匂いが好きなんて、・・・俺はきっと変なんやろうな。矢部は俺の身体を持ち上げ、抱き締め。
 「子供扱いすんな、大体なぁ、何で俺なんか、可愛いって言うんよ?絶対可笑しいで」
矢部は頬にキスをして、こう言った。
 「可愛いんだからしょうがないでしょう?」
逃げようとするが、相方に足をしっかり掴まれている為、俺は矢部に下半身を抱き締められたまま、
床に上半身を倒してしまう。矢部は首筋にキスをしながら、俺の身体の上に乗ってくる。
絡み付いてくる、相方の身体。逃げようとしても、きっと無駄だろうから、・・・俺は抱き締められるままになる。
矢部の息は、また荒い。・・・ほんっまに年がら年中絶倫なんやから。
 「岡村さん・・・
矢部が、鎖骨に何度も軽いキスをする。嗚呼また、するんか。・・・・・・矢部が、急に鎖骨の上に頭を乗せた、
それと同時に楽屋に吸い込まれていく、寝息。矢部の眼の下には、うっすらとクマみたいなもんが出てきてる。
・・・あ〜あ、ほんまに、今日だけやで?こんな事すんのは。きっと矢部は、いつまで経ってもこんな感じなんやろなぁ。
でも、そこが一番大好きだから、矢部、このままで、ずっと変わらないでいて。

仕事が、終わる。仕事はいつも夜に始まり、・・・朝方に終わる。俺等の番組はほとんど深夜が多いから、
もう身体も、こんなリズムに慣れてしまった。とは言っても、別に仕事が嫌じゃなかった、まぁ時々めっちゃ嫌やけど、
サラリーマンとか普通の職業よりは、面白いと思う。お袋と親父は最初、芸人になる事に反対だった。
けど、俺も親の意見を理解できない、っていう訳やなかった。芸能人というのは、人気が無くなればはいさようなら、
特に芸人なんて職業は、アイドルや歌手みたく、煌びやかとちゃうし、・・・多分芸能人じゃあ一番辛い。
俺も、芸人の真似をするのは好きだったし、いつかなりたいとは思っていたけど、乗り気じゃなかった。
けど、矢部の話を聞いているうちに、吸い込まれてしまった。・・・ええなぁと、思ってもうた。
 「岡村さん、これから俺ん家来ません?」
矢部は、へらへら笑いながら、そんな下心が丸見えの言葉を放った。やっぱこいつは、助平だ。
変態だ。絶倫野郎だ。けど、・・・嗚呼、俺は何でこんなに、素直にええって言うてまうんやろ?
 「岡村さん・・・」
矢部は、適当に選んだ(だって、全然興味ないもんまであったから)DVDを、横に流しながら、ソファに俺を押し倒す。
首筋に、キスを重ねられる。DVDでは、もう出逢ってから数十分のカップルが、・・・厭らしいことをしていた。
パッケージを見る。18歳未満閲覧禁止。
 「そんなもん、見るの止めよう・・・」
BGM代わりとして掛けられていた淫猥な映画は、矢部の其の言葉によって、消された。
矢部は、そのまま俺を後ろから抱き締める。俺と矢部は、上にシャツぐらいしか着ていなかった。
 「ベット、・・・行くん?」
どうしてこの人が、たまらなく愛しいのか?いつも岡村さんと自分達の家に遊びに行くと、
必ずついてくるものはセックス、という形になってしまう。ベットの上の岡村さんは、可愛い。
もちろん普段もそうやけど、・・・性交中はもっと、なんやろう。
俺は朝起きた時に考えてしまう、どうしてあの時、あんなに興奮していたのか?これは、俺でもよう分からへんけど、
多分それだけ、・・・この人、岡村さんが好きやから、なんやと思う。でも多分これは、俺の自己満足やろう。
 「矢部〜・・・好きや」
岡村さんが、俺の膝に頭を乗せたまま、吐息を立て始める。きっと、この感情が俺の自己満足だと
してもええんやと思う。性欲が一晩の感情だとしても、この恋愛感情さえ、永遠であれば。






Xへ