三週間後。
・・・又、してしまった。
『大好きや・・・』
又、嬉しいと思ってしまった。好きにならなければ、何度そう思ったことか。でも、それは後の祭り。そう思っ
た時、すでに数回、情事を交わしていて。もう別れるのは無理。結婚した相手よりも、一緒に居る時間が長い
から。年月の長さで何かが変わるとは思わないけど、確実にこの心は、あの人の元へ。
「・・・好きや・・・」
マンションのエレベーター、玄関、廊下、風呂場、フローリングの床の上、ソファの上、ベットの上、ベットシ
ーツと布団の間・・・抱き合って、キスをした。お互いの身体を愛しいと思い、一つになりたかった。
「・・・好きや・・・」
・・・いけないんだろうか、こうする事は。だんだん、分からなくなってくる。法律とか常識とか、そんなものを
超えてる感じ。不倫。そう、不倫だ。でも大体、男に浮気するな風俗店に行くなっていう方が、理不尽だ。
『ピンポーン』
・・・岡田だろうか。・・・だといいのに。
「はぁい」
・・・ドアの前に居たのは、岡田ではなく松口。
「・・・何?」
そういえば最近、あまり会っていない。岡田は家が近いから大上とよく会うみたいだけど、俺は特に。
「・・・んぅっっ・・・!!」
いきなり顔を持ち上げられ、
「・・・変態!!」
最近、ある限られた人物にしか許されていない唇は、意外な来客によって奪われた。
「・・・何・・・やねん、いきなり・・・」
松口の目が異様に怖くて、ギラギラしていて、少し引く。
「・・・・・・よく言えるなって」
「・・・は?」
「・・・・・・不倫してるくせに」
・・・どうして!!
「・・・お前には関係ない。帰って」
気分が悪く、ドアを閉めようとするが、松口は無理やりドアを抑え付け、帰ろうとしない。
「・・・貴方は『変態』じゃないんですか?」
「・・・帰って!」
「あんなに色目を使って!!・・・妻も子供も居る男と、やりまくってるくせに平気な顔して!」
「帰れ!!」
そう言って更に強くドアを閉めようとした瞬間、松口はタイミングよく部屋の中に入り、俺を床の上に押し
倒した。・・・獲物を捕獲しようとしてる、ライオンみたいな目。血走って、そのまま噛み付かれて、皮を引き剥
がしてしまいそうな。痛いキス。自分では見えないけど、ひりひりしていて、・・・多分赤く腫れているはず。
「・・・変態」
きっと睨みつける。
「・・・いい目ですよ、厭らしくて。そういう目つきで見られると、・・・・・・苛めたくなる!!」
頭を殴られ、瞳孔がフラフラして、視界が揺れる。
「・・・止めて・・・
「・・・犯して欲しいんでしょう?あんなにやりまくって・・・飢えてるんでしょう?!!」
飢えている。・・・そうだったかもしれない。やっていなくて、溜まっていたといえば溜まっていた。でも、やり
たい奴は最初から決まっていた。多分他の奴とやっていたら、適当に次々と相手を変えていただろう。
「・・・松口・・・」
・・・分かっていたんだ、松口の気持ちは。でも、ウザイとしか思えていなかった。傲慢だった。俺には一人しか
見えていなくて、他の奴はあくまで『他の奴』、ただ好きだといわれても、好きではないし、好きになる気も
ないし、嬉しいとも思わないかもしれない。冷たい奴だろう。・・・だから、好きになんてならないでくれ。
『ピンポーン』
・・・誰だろう。
『・・・・・・増田ぁ?・・・おーい、どうしたん?飯食いに行こうって・・・
岡田はこの家の合鍵を持っている。いとも簡単にドアは開き、穏やかな岡田の顔が、一瞬にして歪む。
「お前・・・!!」
松口は、何も言わずさっと出て行った。きつく握られた岡田の拳は無意味なものになり、下ろされ、俺の身体
を抱き寄せるものとなった。・・・さっき過去形でウザかったと言ったが、俺は多分、今もそう思っている。
「・・・何もされんかったか?」
・・・そして多分、少し憐れんでいる。
「・・・・・・犯された。無理やり・・・」
利用するのに、丁度いい相手。そうとしか思えていない。
「・・・そうか・・・」
この、真っ直ぐで俺の言う事なら大抵は疑う事無く信じてしまう、馬鹿素直な人を騙すための。
「・・・怖かったか?」
「・・・・・・」
「・・・痛かった?」
「・・・・・・うん」
「・・・・・・可哀想に・・・」
その可哀想とやらを、演技しているとも知らずに。
「・・・もう、させへんからな」
可哀想なのは、松口だというのに。
「・・・・・・うん」
髪を撫でる手。この手は、俺を慰めるために差し出され、動かされている。・・・被害者を責めて、加害者を庇う。
松口も馬鹿な奴だ。他の奴だったら、こうはいかなかっただろうに。・・・嗚呼、『可哀想』な奴。
「・・・Hしよ?」
・・・怒りに満ちた目から、穏やかな目へ、そして、厭らしい目に。
「・・・んんっっ・・・!」
・・・不倫の何が悪い?遊びの何が悪い?一人の奴しか愛せないような性不能者、ダサくてクソ真面目で吐き
気がする。あの回数が多い奴の方が、よっぽど魅力がある。理解できる頭のいい奴は、少ないけど。
continue...