卒論という名の邪魔者。
毎年、この季節になると、やってくるもの。
「宇治原―。まだやってるん、卒論?」
卒論である。俺はほとんど大学なんて行ってないから、まじめにやってないけど、宇治原は
違う。もう九回生生やしええんちゃうの、とは何度か言っているが、本人としては納得が
いかないらしい。全く、糞真面目な奴。
「そないすぐ終わらんわ。菅ちゃんはええん?」
・・・そして、自分の価値観で人を評価したがる。
「めんどい」
呆れたような顔。
「・・・なぁ、宇治原ぁ」
返事は帰ってくるものの、目はすっかりパソコンに向かってる。
「・・・なぁ」
そんなに、パソコン見るのが楽しい?そんなに、パソコンが可愛い?
「うわっ!?な、何???」
顔に被せたのは、脱いだばかりのトランクス。
「・・・・・・あー・・・良かったー・・・。消えてない・・・」
宇治原は顔の上のものを取ると、パソコンを確認した。・・・そして。
「すーがーちゃ―――ん・・・!?」
・・・怒ったって怖くないもん。
「何でこんな事、するん?」
「・・・だってー・・・」
凄んで睨みつけられても、怖くない。
「・・・だってやないやろ?ほら、言うて」
寂しいから。そう言った所で、お前はその作業、止めてくれるん?・・・止めへんやろ?
やから言わない。自分の胸に手ぇあててよぉく考えてなんて言うけど、本当にそう。
誰のお陰で俺が寂しい思いをしているか、『自分の胸に手ぇ当ててよぉく考えなさい』。
そして、三百字程度にまとめよ。俺が後から、採点して進ぜよう。
「・・・あ!お風呂!!」
まず、この状況から逃げねば。
「・・・誤魔化してもあかんよ」
宇治原は右手に俺のトランクスを掴みながら、怒る。
「・・・トランクス、何時まで掴んでるん?」
水色のトランクス。宇治原は慌てて、トランクスを投げた。
「・・・エローい」
「エロいって、お前が・・・」
・・・さすが頭がいいだけはある。・・・もー、気付いたみたいやね。
「・・・俺、今ノーパンやねんなぁ」
しかもジーンズ。嗚呼、擦れる。
「・・・ほ、ほら、早よ服着替えっ。風邪引くやろっ」
これだから、こいつをからかうのは面白い。見た目好青年のくせに、むっつりやもんなぁ。
トレーナーを脱ぎ、ジーンズを脱ぎ、そのままジーンズを放り投げた。身体を密着させる。
・・・背中に、下半身を擦り付ける。
「・・・なぁ、しよ?」
強張る身体。
「・・・セックス、したいなぁー」
わざと耳元で囁く。・・・と、宇治原はノートパソコンを閉じ、くるっと後ろを向き、覆い被さってきた。
「・・・やらしー」
「・・・うっさい。痛くすんでー」
そう言って、宇治原はキスをした。・・・卒論が勝てないもの。それは、性欲である。
END