PM1:30。
舞台前。・・・ここ数年で、俺は嘘をつくのが得意になってしまった。
・・・恋愛の対象が、未だによく分からない。俺は藤本さんに抱かれていると、『ああ、好きだ』と思う。
でも、原西さんに抱かれている時は、『やっぱりこの人だ』と思う。浮気じゃない。
本当に幾ら考えても、どっちがより好きなのか、分からない。
「・・・・・・」
セックスを媒介とした恋愛だと、つくづくそう思う。人は眼をそらしたがるが、恋愛とセックスは、
人が思うよりもっと、深く結びついている。俗に恋愛感情と言われる『好き』という感情だが、こ
れは元々相手を『欲しい』と思う感情から来ている。そしてその感情は又、人がセックスを欲しが
る時の感情と似ている。『欲しい』と思った瞬間から、恋愛はすでに始まっていると思う。
「茂雄、・・・どーしたん?元気ないで?」
八木の呑気な声。
「・・・んー?別に?」
俺は、明らかに二人に恋愛感情を持っている。このままで居てはいけないという事も知ってる。でも、決め
られない。原西さんは多分、俺が浮気相手に原西さんを利用しているんじゃないかと疑っている
だろう。でも違う。断固として言う。俺は藤本さんが好きだし、同じ様に原西さんも好きなのだ。藤
本さんの全てが好きで、原西さんの全ても愛しいと思う。俺の身体が二つあったら、と何時も思う。
それなら、きっと二人とも愛せることが出来るだろうから。でも実際、俺の身体は一つしかない。
「・・・・・・」
自分が、信じられなくなる。俺はこんな決断でさえ、まともにできない。俺がどう弁解したって、二
人は俺が二股をかけていると思うはずだ。でもそれは、多分正しい。俺は怖いんだ。藤本さんに走
ったら、原西さんを失う事になる。原西さんに走ったら、藤本さんを失う事になる。どちらか一人
でも、失う事が怖い。・・・之は、俺の独りよがりの願望で、二人はそんな事、望んではいない。
PM2:30。
ロケ中、喉が渇いたので、自動販売機へ向かった。缶珈琲のボタンを押す。横から、藤本の声が聞こ
えてきた。藤本も同じ理由で、珈琲を買いに来たという。・・・複雑な気分だ。昨日、茂雄を抱いたか
らだろう。藤本はきっと、俺が合間合間に茂雄を抱いているなんて事、少しも知らないだろう。
『・・・あっ、ああっ、・・・原西さんっ、・・・はっ、あぁっ・・・!』
そう考えると、相方がたまらなく哀れに思えてくる。こいつは知らないのだ。茂雄が藤本に告られ
た後、俺にも告られ、未だにどちらにも断れて居ない事を。俺は茂雄が好きだから、一人に絞れな
いと嘆く姿を、信じている。だが、藤本はどうだろう。・・・相方として、信じて欲しいのはあるが。
「・・・なぁ」
身体が強張る。知らないだろうと確信していても、もしかして・・・と思ってしまう。
「・・・ん?」
顔を作る。本当は、呑気に応答さえできない。背中に、冷や汗が走り、・・・頭には、
『・・・はあ、・・・いいっ、いいっっ・・・!!・・・原西さん、好きっ、大好きっっ・・・!!』
ああもう。自分が嫌いになりそうだ。
「・・・この前、矢部に会ったんやけど、・・・妙な事言われて」
藤本の声が、耳に入っては抜けていく。
『・・・原西さん、・・・もっと、・・・あっ、あぁんっ・・・!』
白く濁る茂雄の身体。茂雄が好きや。俺は元からモテる方じゃなくて、茂雄の時も、半分あかんか
なぁと思っていた。でも運が悪かったのかよかったのか、俺の告白は受け入れられた。しかしその
後、茂雄は判断に苦しみ始める。俺と藤本の間で両挟みになって、頭を抱え続けている。茂雄を苦
しめたくないと思うが、俺は一方で、早く決断してくれとも思う。自分でも、嫌な奴だと思う。
「・・・茂雄が、浮気しそうな顔してるって」
言葉が、そのまま心臓に響いた。・・・浮気。まさか藤本の口から、浮気なんて言葉が出るなんて。
「・・・そんで?」
・・・俺はどうして、茂雄が好きなんだろう。理由は分からない。フェロモン・・・とでも言うんだろう
か。俺だけならまだしも、茂雄の身体(結局二人とも、セックスを媒介としているから)は、藤本も
酔わせている。あの白くて細い身体が、俺以外の奴に抱かれるなんて許せない。そう思わせる。
「・・・何も無いけど・・・俺には、そうは思われへんのよ。あいつが浮気・・・っていうのが」
本当は、お前の側に居る、俺にも抱かれてるんよ。出来る事なら、今すぐ言おう。俺が藤本の相方じ
ゃなかったら、今すぐ言おう。俺が藤本に茂雄との関係を告白した後に、何も起こらなければ。
「・・・そうか」
俺に、何も起こらないと確信させてくれるなら。
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