PM8:00。
原西の様子が、可笑しい。気付いたのはつい最近だが、それは明らかに可笑しい。俺が茂雄と口に
しただけで、原西の目が怯えている。固くなっている。・・・浮気。・・・まさか、相方が浮気なんて。
 「・・・藤本さん?」
後ろから、身体を絡ませてくる茂雄。キスをする。・・・抱きしめる。そうだ。他の奴ならともかく、相
方である原西が、茂雄の浮気相手な訳が無い。八木でも俺はキレるだろうが、原西なら、どうなる
か分からない。この白くて可愛い身体が、俺以外の奴に抱かれている?・・・信じられない。でも。
 「・・・茂雄」
顔に触れる。又キスをする。・・・茂雄。
 「・・・俺の事、好き?」
 「・・・藤本さん?」
自分でも、馬鹿馬鹿しいと思う。何言うてるんやろ、俺。・・・でも。
 「・・・好き?」
一言言ってくれたなら、俺は騙されよう。
 「・・・はい。好きですよ」
茂雄が、軽く微笑む。・・・良かった。やっぱり俺の思い過ごしだ。大体、ほぼ初対面の矢部に、『浮気
する顔だ』って言われて、本当に浮気してるんかって疑って、俺、阿呆やん。そんで原西の事も、変
に疑って。阿呆な事したわ。・・・茂雄が、身体を摺り寄せてくる。可愛い身体。・・・ずっと離さない。
 「・・・茂雄・・・」
抱き寄せた途端、タイミングを計るように、茂雄の携帯が鳴った。茂雄が廊下へ歩いていく。

 『・・・茂雄?』
聞こえてきたのは、原西さんの声。
 「・・・どうかしました?」
・・・嗚呼、びっくりした。普段は『好き?』なんて聞かない藤本さんが珍しく聞いてくるから、俺と
原西さんとの関係に気付いたんかと思った。・・・まぁ上手く誤魔化せたし、気付いてへんやろ。
 『・・・今から、逢える?』
・・・どうするかな・・・。
 『・・・Hしたい。・・・あかん?』
・・・してもいいか。
 「・・・いいですよ」
 『・・・そうか』
多分藤本さんは、俺と原西さんの関係に気付いたら、すぐ原西さんとは縁を切ろと言うだろう。原
西さんはきっと、縁を切ろうとするだろう。・・・俺は二人が好きだから、二人が望むなら、奉仕して
あげたいと思う。セックスがしたいと言うなら、行ってあげたい。藤本さんの方が回数が多いから、
今は原西さんの方に行くけど。大体、どうして一対一でしか恋愛は許されないんだろう?一対二
の、何が悪いんだろう?俺は二人が好き。どっちも、同じ様に好き。浮気のつもりも、全く無い。両
方とも本気で好き、この状態の何が悪いんだ?・・・之は一般に、『開き直り』なんだろうか。
 「・・・藤本さん、すいません、・・・ちょっと、用事ができて・・・」
俺がこうやって弱弱しく言うと、
 「・・・ああ、ええよええよ。またな」
こう返ってくる。俺は藤本さんに、信用されてる。愛されてる。・・・嬉しいと思う。同じ様に、原西さ
んにセックスを求められてるって事は、愛されてるって事で、俺は嬉しいと思う。・・・こんな関係
を続けることは、本当に駄目なんだろうか?・・・之が一番、傷つかない方法なんじゃないか?
 「・・・それじゃ、また」
傷つけたくないだけ。二人が好きだから、・・・二人とも傷つけたくない。絶対に。



END