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最近、ほんっとーに世の中、何がどう転ぶか分かんねぇなぁって思う。
 「・・・・・・」
例えば・・・今の俺とかね。
 「・・・板倉?どうした?」
二つのノート。二つのシャーペン。二つの缶ビール。柿ピー。・・・午後六時。堤下の家で、ネタ合わせ。
どうした?って言われても・・・・・・どうもしてないんだよね。何も言う事が見あたらず、先端を噛む。
 「止めろ。食いもんじゃねぇだろ、これは」
・・・自由を許してくれるようで、許してくれない相方。俺の気持ちを分かってるようで、分かってない。
 「・・・いいよ。何も無いなら、言わなくても」
・・・ほんとに、・・・馬鹿。
 「・・・・・・おい、板倉!?どうしたんだよ、おい!」
・・・拗ねさせてもくれない。
 「・・・腹減ったから、コンビニ」
本当は、腹なんて減ってない。・・・ねぇ、気付いてよ。
 「・・・・・・どうしたんだよ、マジで!・・・あ。答えねぇと通さないからな、ここ」
・・・意地悪だ。・・・本当に、意地悪。堤下なんて、大っ嫌いだ。
 「・・・ほんっとーに腹減ってんのっ!」
 「嘘吐くな」
・・・・・・分かってて、聞いてんだろ?その目が証拠だよ、その目が。
 「・・・怖いんだよ。何か」
・・・あ――――恥ずかしいっっ!人生最大の屈辱っっ!!
 「・・・んむっ・・・・・・ぁ、んんっっ・・・!」
正面から、左から、右から、・・・下斜めから。
 「・・・・・・へんたーい」
変態ブタゴリラ。
 「・・・変態でいいよ、別に」
・・・・・・何だそれ。その、俺は何もかも分かってるよ〜、拗ねなくてもいいよ〜、恥ずかしがらないで甘
えておいで〜、っとでも言いたげな慈悲溢れた目はよっ。・・・あーむかつく。ほんっと、むかつく。
 「でっ」
膝を蹴り上げた。
 「・・・お前なー!痛いんだぞマジで、ここは〜!」
・・・痛いだろうから蹴ってんじゃん。何当たり前の事主張してんの、お前。
 「・・・やってる時は可愛いんだけどな、ほんとに・・・」
・・・何だよそれ。そりゃあさぁ、俺、やってる間は可愛い声出してるかもしんないよ?・・・でも、幾ら痛
いからって、そんな事、言うなよ・・・。だってそれじゃあ、普段の俺、全っ然魅力ないみたいじゃん。
 「・・・お、おいっ!?・・・・・・・・・お前なぁ、・・・こんな事でいちいち・・・」
こんな事?・・・・・・ふーん、こんな事、か・・・。
 「・・・待てってっ!」
両手首を強く握られ、逃げる事を禁止される。
 「・・・・・・ごめんて。マジでさ。・・・もう、あんな事、言わないから」
 「・・・本当に?」
うわー、かっこ悪。涙声ってのが、サイアクだわ。
 「・・・うん」
だーかーらー。そんな優しい顔、しないでよ・・・。
 「・・・・・・本当は、腹なんか減ってないんだろ?」
・・・分かってんなら、最初から聞かないで。
 「・・・・・・でもだんだん、減ってきてるだろ?」
・・・・・・。
 「・・・・・・うん」
 「・・・外、出よう?・・・少し歩いて、美味いもんでも食いに」
・・・この目が、嫌いになれたらいいのに。
 「・・・・・・うん」
どうしても、好きになってしまう。

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ペットボトル、冷凍料理、カップラーメン、おにぎり、トランクス・・・。世の中便利になったもんだねぇ、全
く。最近の一人暮らしの子とか、楽だよなぁ、自炊なんかする必要、無いもんなぁ。・・・あ、フリスク。
 「板倉?・・・それ、買うのか?」
堤下のカゴには、お茶のペットボトルが二つと、・・・・・・コンドーム。
 「・・・いや、別に」
フリスクを、棚に戻す。
 「・・・ゴム、丸出し」
 「・・・いいんだよ、別に。・・・お笑い芸人が、コンビニでゴム買っちゃいけないなんて、ないだろ?」
・・・無いけどさ。・・・別に、いいんだけどさ。
 「・・・先、外出てるわ」
 「ああ、うん」
外に出て、タバコに火をつける。・・・あー、うめぇ。他のもんはそうはいかないけど、タバコと金って、ほ
んっとーに、人間を裏切らねぇわ。うめぇなぁ。肺ガンだとか身体に悪いだとか、そんなもん抜きに美
味いね。禁煙なんて、クソ喰らえだ。副流煙?んなもん、知った事か。タバコの煙が嫌いな奴は、鉄の
仮面でも被って外に出ればいい。見るのも嫌なら、外になんて出なければいい。・・・あー、・・・美味。
 『ありがとうございましたーぁ』
呑気な女の声。ドアが開く。
 「・・・お待たせ」
ペットボトルを、受け取る。初夏の晴れた日ほど、ジーンズが嫌になる日はない。
 「・・・店員さん、何か変な目で見てたよ」
嗚呼、気にしないでいるつもりだったのに。どうして、気になってしまうのか。
 「・・・そうか?」
・・・見られてるこっちは、イライラするくらい鈍感だしさ。
 「・・・テレビでよく見る顔が、普通にコンビニでコンドーム買うから?・・・気になるんじゃない?」
文句言いたげな、堤下の顔。気持ちは分かるよ、気持ちはさ。でもね、世間って可笑しいもんでさ、男
二人がマンション借りるって不動産に言ったら、向こうに『ホモ』だって思われてさ。今みたいに、コン
ビでコンビニ入ってゴム買っても、変な目で見られてさ。女同士はそうでもないのにね。・・・変だねぇ。
 「・・・ここでナンパでもしたら、・・・変わんないか」
・・・理不尽。
 「・・・変わんねぇだろぉなぁ」
・・・同性愛者と異性愛者って、どこが違うんだろうなぁ。同じ形をした身体を愛すのが、そんなに気持
ち悪いか?大体、異性愛って気持ち悪くない訳?そりゃ、美男美女は見てて気持ちいいけどさ・・・
時々いるじゃん、デブと美人とか、ブサイクとイケメンとか。あんなに比べたら、同性愛の方がいい。見
るに耐えないカップルほど、嫌悪感、吐き気をもよおすもんって、無いよなぁ。・・・悪いけどね、嫌い。
 「・・・ねぇ」
スタスタ歩く。只ひたすら、何の目的も持たないで。
 「・・・ん?」
 「・・・俺のザーメンが出なくなったら、・・・どうよ?」
 「・・・は?」
 「・・・この前さ、ローションプレイ、したじゃん」
 「・・・あ、うん・・・」
 「・・・俺、すげぇ出したじゃん。・・・ザーメン」
 「・・・ああ」
 「・・・無くなるかなって」
 「・・・馬鹿か。無くならねぇよ」
 「・・・そっか」
 「・・・そうだよ」
・・・・・・初夏の夜。腹が、本格的に減ってきた。・・・堤下にアイコンタクト。・・・手を握られ、すっと路地
に入って、居酒屋の前に。・・・嫌いに、なれたら。・・・無理かな。・・・多分、・・・無理だな、俺には。



END