第二話 さくらさくら
漢字が、ずらずら小さく並んでいる。教科書と睨めっこしながら、ノートに次の授業の内容
をメモしていく。教師になりたいと思うまでは、教師がこんなに忙しいとは思わなかった。
「・・・み〜ずぐちっ」
本坊に、後ろから抱きしめられる。
「重い。邪魔。どいて」
本坊と知り合ったのは、此処の教員試験の時だった。本坊は司書の面接に来ていたのだが、
教室を間違えていて、俺が教えてやった。話していて楽しかったので、友人関係を持つよう
になった。同性愛者とは、知らなかった。・・・俺もその影響で、本坊とくっついてしまった。
「・・・冷た〜。なぁなぁ、構って〜」
構ってられるか。
「邪―魔―や―言うてんのっ。お前は仕事ないん?」
図書室で、仕事するんやなかった。本坊は抱きついたまま、離れようとしない。
「今は俺の勤務時間とちゃうもん。なぁ、構ってよ〜」
「あぁもう!ほんっ・・・・・・んっ、何す、んんっっ・・・」
一番後ろの席でよかった、俺と本坊しかいなくてよかった。こんな所を、生徒に見られでも
したら・・・。何とか唇を離そうとするが、がっちり捕まえられていて、逃げる事が出来ない。
「・・・んふっ・・・んんっ、んっ、んん・・・」
胸を揉まれ、ぷちぷちシャツのボタンを外されていく。何とか離れようとする。抑えられる。
胸を揉まれるのが、気持ちよくなってくる。あかん、ここは、下手したらバレるからっ・・・!
「・・・んんっっ、ぅんんんっ、んっ、んっ・・・!」
ズボンのボタンを外され、その中へ手を入れられる。チャイムが鳴る。
「・・・はっ、はっ・・・」
身体が楽になる。すっと服を元に戻す。
「・・・この続きは、今晩な」
「・・・はいはい」
荷物をまとめ、教室へ急ぐ。さっき愛撫された感覚が、くっきり残っている。本坊の奔放さは
知っていたが、図書室で、あんな事・・・あああかん!もう授業なんやから、しっかりせな。
小さい頃から、本に囲まれて生活してきた。あれも読んで、これも読んで・・・何も読むものが
なくなって、その時ぐらいにできた友人、原田とよく遊ぶようになった。・・・で、くっついた。
「下林?・・・何してんの?ぼーっとして」
原田の声で、気がつく。
「何でもない!・・・ちょっと、考え事・・・」
最初は、ただの仲のいい友達だった。ほんの数時間遊んでいたのが、一日中遊ぶようになり、
気づいたら、好きになっていた。原田から、告白された。身体を重ねるのも、時間はかからな
かった。父親は一人息子の俺を酷く可愛がっていたから、原田を自分の秘書にしたい、一緒
に住みたい、という事に関しては特に何も言わなかった。目の前に、沢山の書類が置かれる。
「またぼーっとしとる。・・・昨日、やりすぎたか?」
『原田、原田ぁ、・・・もっと、もっとぉ・・・!』
・・・あんな事っ・・・。『もっと』って、『もっと』ってっ。
「・・・顔、赤くなってる。可愛いなぁ」
からかわれる。何時もこうだ、原田の方が全然余裕で、俺がからかわれて。
「さ、仕事しよな。何時までも、赤くなっとる訳にはいかんやろ?」
父親は、何も知らない。母親は、気づいているかもしれないが。二人で勉強をすると言って、
何度も身体を重ねた。今も、メイドや警備員の目をごまかして、隠れて身体を重ねている。
「・・・原田ぁ」
目の前に、今月の後半と来月に出版される本のリストが並んでいる。
「何?」
顔が、ぐっと近い。息が近い。
「・・・原田は、ええの?俺と・・・いちゃいちゃ、しなくても」
嗚呼恥ずかしい。こんな事言いたいんとちゃうのに、口が勝手に動く。
「・・・ふぅん、
「んんっっ・・・・・・はっ、原田・・・」
深く、口付けられる。
「俺は別にええよ?決められた分だけ、お前が書類に判を押してくれれば」
その目は、じっと俺の目を見つめる。柔らかい目なのに、俺の心を全て見通してしまいそう。
少し怖くて後ろに下がるが、ぎゅっと抱きしめられ、口付けをされる。・・・嫌や、気持ちいい。
「んっ、原田っ、んんぅんっっ、・・・あかんっ、駄目っ・・・」
口付けをされながら、ゆっくりと押し倒されていく。
「・・・あかん?駄目?・・・こういう事、して欲しかったんちゃうの?」
違う。そういう事、望んでたんじゃなくて・・・・・・でも、望んでいなかったと言えば、嘘になる。
少しはしたい、という気持ちはあったから。でも、こんな所で、するのは・・・。抵抗しようとす
るが、抱きしめられ口付けされ、すっかり気持ちがよくなり、抵抗する気がなくなってくる。
「・・・鍵、閉めんの忘れたけど・・・ま、バレたらバレたでしゃあないな」
・・・おーい!鍵、閉めてよ!暴れるが、また口付けられる。手首を、しゅるっとまとめられる。
「・・・頂きます
ドアが開く。中山が、原稿を持ったまま、突っ立っている。
「・・・へぇ〜。昼間っから、ご盛んですね〜〜〜」
中山は、笑顔で怒っていた。何とか体勢を立て直し、誤魔化す。中山は、しばらく相手にして
くれなかった。・・・中山には悪いけど、スリルがあって、勿体無い事したなぁ、と思った。
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