第1章 下 次の日。 セルエルに命令書が渡された。 彼はその命令書をいったん懐になおす。 その前に、13部隊の人間との面通しをするつもりであった。 先程も言ったように第13部隊は正式な部隊ではない。ガルストンが勝手に集めた、いわば私兵である。 正式には、まだ他の部隊に所属しているのである。 たとえ書類上であっても契約という効力は強いため、それを解き放たなければならない。 それだけだけではない。 一人一人の人間の個性や特技なんかを知っておけば、今後の作戦での役に立ってくれるだろう。 そう思っている。 自分の部隊は遊撃部隊である。ただ、戦争だけをするだけではない。時には情報収集等で屋敷に潜入したり遊郭などに行かなければならないかも知れない。その方法を少しでも知っていたら、何かと有利に物事を持っていけるはずである。 セルエルの心には今だけではない。次のことも考える余裕があった。 彼はガルストンとリュースを伴って13部隊の集まっているところに行く。 手には、それぞれの人間の契約書を持つ。リュースが集めてきたものである。 その場所は、城で使われなくなった大広間である。はじめは使われていたらしいが、日当たりの良い場所に同じ部屋を作ったものだから、貴族たちはそちらを使うようになった。主に晩餐や会議に使用されるところである。 ガルストンがドアを開ける。中には約300人の男たちがいた。それが一斉にドアの方向を向く。 「ほう?」 リュースは、一声感嘆する。男たちは、そこいらの騎士に負けないぐらいの膂力を持っていると感じたためである。 「おい、おまえら喜べ!俺たちは正式に部隊として認められたぞ!」 「部隊だって?で、その軍将様って誰ですかい?」 「私だ」 セルエルが前に出る。そのとたん、笑いが起きた。 「はっはっはっ!これは可笑しいぜ。これからこのガキのお守りをするのか?ガルストンさまぁ?」 「そうだ。俺たちゃ、はぐれ者だ。けどなぁ、そのはぐれ者でも良いと言っている」 「で、そのガキ・・・本物か?」 「俺はそう見ている」 男たちは、セルエルを値踏みするように見る。 「解った。おまえさんがそういうんだ。間違いないだろう」 セルエルとリュースは驚いた。何かあると思われたが、ガルストンの一言で丸く収まったのである。 「で、おまえらに話があるそうだ」 ガルストンが言うと、セルエルは二人を伴って、一人一人を隣の個室に読んで話を聞いた。 一人ずつ、その性格や特技などを聞く。並大抵な根気である。朝から始めたのだが、終わったのは日が沈んで、夕食が終わった頃である。 一人だけ、気になる人物がいた。 個室に呼んだが、やってきても黙ってセルエルの前に座る。 名をシルル。まだ少年のような顔つきで、セルエルが話しかけても相手しなかった。しかし、セルエルはその悲しんだような表情が気になっていた。 しかし、何も返答がない。 「すんません。大将」 突然ガルストンが話しかけてきた。 「言うのを忘れておりやした。シルルは話が出来ません」 「は?」 「こいつは・・・・どういう訳か喋れないんです。以前は第6部隊にいました。そこで部隊の連中に殴られてるところを俺が引っ張って来ました」 「第6部隊?」 セルエルはその部隊のことを思い出す。 第6部隊軍将ベイヘムはたとえ味方の兵でも容赦しない人間である。また、噂では好色であることで知られていた。 部隊の雰囲気も軍将の性格に反映しており、問題児が多かった。 現在西の国境で、第7部隊と共に守りについていた。 「ほう?」 セルエルは興味深い顔をして、シルルを見た。 「解った。シルルよ、おまえは私の側にいて護衛せよ」 は?という風な顔をしながらシルルはセルエルを見た。 「ほ、本気ですかい?いきなりそんな・・・」 「仕方がない。ガルストンとリュースには部隊を率いてもらわなければならない。おまえ達は、その時私が一人でいることに心配をしないのか?」 声を上げたガルストンにセルエルは冷静に答えた。 「確かに・・・私たち二人が行くと殿下を危険にさらします・・・しかし、このような者一人を殿下におつけするわけには参りません。せめて、100人単位で護衛をさせてください」 「心配はもっともだ・・・しかし、私を護衛する人数を割いて、戦いに負けたという事にならいのだな?私は、どうせ負けるのなら、全員であたって負けたい」 リュースとガルストンは、なにも言えない顔になった。 「それに、100人と一緒にいて『おまえだけ逃げてた』なんて言われたくないのだ。大丈夫、決しておまえ達を残して死にはしない」 セルエルは微笑んだ。 「それにな・・・300人で100人削って見ろ?部隊を全滅させたいのか?」 その言葉にガルストンは苦笑する。 「まいった。そうだな、そうさせて貰いやしょう」 「ガルストン・・・?待て、殿下をそんな危険な目にあわせるつもりか?」 「仕方ありませんや。大将の方が正論だとおもいますぜ」 「しかしな・・・殿下は・・・」 「リュース!今の私はアロールの王子じゃない。アロール軍第13部隊「軍将」だ」 セルエルが締めくくった。 シルルは一言も発せず、この光景を見ていた。ただ、口は少しほころんでいることを自分では知らなかった。 数日後、3人の相談で部隊編成が整った。 50人の騎馬軍を率いるリュース。そのほかの歩兵を率いるガルストンである。 シルルは軍将付きの従者扱いとして、セルエルに付き従うことになった。 そして、そこで初めて命令書の中身を告げた。 「北の国境で防衛している、クライス将軍を助けよ」と・・・。 |
第一章あとがき さて、いかがだったでしょうか? では、次回まで・・・。 |