24. 何もしない時間

 突如ポッカリと口をあけた時間の狭間に落ちたボクは、どうしようもなくてため息をついた。
 忙しない現代は、やる事を見失った人間には居心地が悪くて。
 口では「休みたい」といいながら、いざ休みとなると手持ち無沙汰な自分にイライラする。
 趣味など当然持ち合わせてなく、テレビにも小一時間ほどで飽きた。
 ………何をすればいいのか。
 何もすることない時間に秒針の音だけが落ちていく。
 ………あぁ、そうか。何もしなくても時は進むのか。
 唐突に思ったのはそんなことで。
 いつだったかに買った水槽のエアーがボコボコと音を立てるのに聞き入る。
 その中に生きていたはずの魚は絶えて久しいけど、コンセントを抜き忘れた虚しい機械は、いつまでも自分の役目を繰り返していたのか。
 あるいはコンセントを抜き忘れられているのはボク自身なのかもしれない。
 いつまでも我武者羅に与えられた仕事だけをこなして。
 それを諾とするほど枯れてなく、打開するほどの若さもない中途半端なボクは、結局のところこうして、もがくしかないのだけど。
 まだ空気を送り続けるエアーは、いつ己の不必要さに気付くのだろうか。
 それとも「いつコンセントを抜かれるか」という恐怖を抱えながら、必死に働いているのだろうか。


 何もしない時間は、思いのほか早く終わりを告げた。
 遠くに聞こえる音色が、子供たちの帰る時間を告げる。
 またボクに仕事が出来た。
 ボクはいつまでも与えられた仕事を続けるのだろう。
 コンセントを抜かれるまで。
 何もしない時間がなければ、ボクはまだ何も気付かずにいられただろうか。
 いや。
 何もしない時間がなければ、ボクはまだ何も気付けないままでいただろう。