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Love Domination



カイジは決して目の前にいる男から視線を反らさなかった。
既に覚悟は出来ていた、この計画を立てた時から。
この状況も、予定調和に過ぎないのだ、恐れることはない。
カイジが現在いる場所は、帝愛の裏カジノの奥、従業員のみが 出入りする事務所である。
客であるカイジが何故、ここに連れて来られたかというと、 ほんの10分ほど前に、カジノの目玉商品である、 千倍レートのパチンコ台“沼”に破壊の限りを尽くしたからだ。
正確には、破壊行動を起こしたのはカイジの仲間・坂崎で あるが、共犯者としてこの事務所に潜んでいた所を 発見された。
カイジの目の前に立つ男に。

男の名は一条、このカジノの最高責任者である。
「カイジくんはオレがやろう・・・!」
一条の声を受けて、今まさにカイジの頬に飛ぶはずだった、 カジノの主任・村上の拳が止まった。
彼らの脇では、坂崎が既に数名のカジノ従業員より袋叩きに 遭っている。
カイジもそのつもりでここに来ていた。
彼らの暴力がどの程度まで及ぶかは予想出来なかったが、 殺されることはないはずだ。
命さえ保障されるのであれば、腕や足を折られようが、あるいは 歯を全部折られようが、耐える。 耐えてみせる。
“沼”を攻略する為であれば。

だからカイジは、薄い笑いを表面に浮かべて、殺気立っている 村上を諭す一条を、努めて平静に見ていられた。
むしろ安堵さえした。
一条は長身だが、腕力はなさそうだ。 村上に暴行を加えられる よりも軽症で済むかもしれない。
「寝かせろ・・・・・!」
一条の言葉に、カイジの後方で控えていた従業員たちは 素早く反応する。
3人の従業員によって、カイジは背後から床に押さえつけ られた。
それでもカイジは眼前に立つ一条から決して目を離さない。
「何をされると思う・・・?」
一条はゆっくりと歩み寄り、ひざを折るとカイジの髪を 掴み上げた。
カイジは変わらず一条をにらんでいる。
その様子に一条は更に笑みを深めると、カイジの髪を後方に強く 引き、その拍子で反り返ったのど元に歯を立てた。

最初、カイジは何をされているのかわからなかった。
のど仏を軽く噛まれ、そこから首筋に歯が移る。
小さく小さく噛みながら首筋を伝い上がり、最後に耳たぶを 甘噛みされた。
「――――ッッ!!!」
その瞬間、背中に電流のようなものが走り、カイジは目を 見開いた。
「――ッ、何、しやがるっ!?」
カイジの肌に脂汗が浮かんだ。
その反応を一条は面白そうに眺めている。
「何だと思う・・・?」
かすれた声で呟くと、一条は舌を伸ばしゆっくりとカイジの 耳の淵をなぞった。
そうしながら開いている手を腹側に回し、Tシャツのすそを 2本の指でつまんだ。 そして残りの指でカイジの腹を 撫でながら、ゆるゆるとTシャツをたくし上げた。
「うああっ! ちょ、ちょっと待てよっ!?
おまえマジで何するつもりなんだ!?」
今度は固く目を閉じながらカイジは言った。
「本当にわからないのか、それともわかっているが、 認めたくない、か・・・?」
胸元までTシャツをまくると、一条は現れた胸の突起物を 指でこね始める。
カイジは一層背を反らせた。 上から押さえつける従業員ら の腕に、より力がこもる。
「・・・正気、かよっ・・・!?
お、男同士、だぜっ・・・!?」
「カイジくんは、男とやるのは初めてかい?」
「あ、当たり前だろーがっ! 離せ!」
「これから罰を与えるのに、何で離さなきゃならないんだ?
“沼”を破損するなんて大それたことをした罪は、償って もらわないと」
「それなら腕の一本でも折れば済むことだろうが!
こんなっ、こんなのは・・・嫌だっ」
「バカがっ・・・! だからやるんじゃねえか。
おまえが一番嫌がることをしなけりゃ、罰にならないだろう?」
一条は、髪を掴んでいた手を離し、それでカイジの口を 少し開かせると、その隙間に舌を差し入れた。

こんなことは全くの想定外だった。
暴行される覚悟は出来ていたが、性的な暴行に対する 心の準備などある訳が無い。
「くっ・・・見るなっ、見ないでくれっ・・・」
自分を取り囲むカジノの人間たちにカイジは懇願していた。
その時である。
「カイジくんっ・・・!
頑張れ、頑張れっ・・・・・!」
頭の先から檄が飛んだ。 その声に、カイジは非常に 聞き覚えがあった。
そちらに視線を飛ばすと、ボコボコにされていた筈の坂崎が正座で カイジを見守っていた。
「カイジくん、辛いのは最初だけやっ・・・!
辛抱しいやっ・・・」
「おっちゃん!? 何で・・・」
よく見れば、坂崎だけではない。 坂崎を袋叩きにしていた カジノ従業員たちも正座をして、カイジらを見学している。
「コ、コラァっ!? おまえら、何見てやがるっ!?
おっちゃんをフクロにしてるんじゃなかったのかよ!?」
しかしカジノ従業員たちの目線はカイジにはない。
「店長、カッコいい!」
「店長、ステキです!」
「よっ、テクニシャン!」
一条は背後から掛かる声援に、軽く手を振って応えた。
「全く・・・仕方の無いヤツらだ。
気にしないでくれ、カイジくん」
「気にしない方がどうかしてるだろーがっっ。
せめてアイツらを何処かにやってくれっ」
「カイジ、こっち向け、こっち」
カイジの足先にある、部屋の入り口の方から別の声が上がった。
うつ伏せた体勢で後方を見やると、そこにはビデオカメラを 片手に笑顔を作っている遠藤の姿があった。
「なっ、何でアンタがここにいるんだよ!?
アンタの出番はもう少し後だって言ったろ!?」
「おまえが大人の階段を登るって聞いてな。
その思い出をDVDに焼き付けておこうと」
「ふざけろっ!!!
そんなことより助けるのが先だろ!?」
「あー、コラコラ暴れるな・・・フレームに入りきらない だろうが」
ベストショットを収めようと対象物に近寄る遠藤を、カジノ主任の村上が制した。
「すみません、父兄の方の撮影は白線の中でお願いします」
いつ引かれたのか、確かにカイジらは白線の中にいて、 坂崎やカジノ従業員ら野次馬は、律儀に白線の外から見物 しているのであった。

カイジは恥辱よりも怒りに身を震わせていた。
「一条っ、頼むからコイツら全員追っ払ってくれ!
その後はおまえの好きにしていいからっ」
「そういう訳にはいかん。
オレは分け隔てるのが嫌いでね。 見たいヤツは見ればいいし、 見たくないヤツは勝手に出て行くだろう?」
「オレは嫌なんだよっっっ」
一条は、カイジを押さえつける3人の従業員に目配せをした。
機械の様な迅速さで彼らはカイジの戒めを解いた。
いきなり体の拘束を緩められて対処出来ないうちに、カイジは 今度は仰向けにさせられていた。
一条は上からカイジの腹にひざを乗せて動きを封じる。
「安心しろ、すぐに気持ち良くなって、ギャラリーなど 気にならなくなる」
「何だよその自信!? ていうか本当にやる気なのか?
男同士で出来るわけねえよ、オレなんかに興奮しないだろ?」
ひざに体重を入れられて、むせながらカイジは叫んだ。
「大丈夫、大丈夫やでカイジくん。
一条はんに任せておけば上手くいくさかい」
心配そうに坂崎が声を掛ける。
「ウチの店長は百戦錬磨なんだぞ!?
おまえなんか朝飯前だよ!」
カジノ従業員たちが怒りを交えながらわめく。
「カイジ、こっち向いてVサインしろ」
村上の制止を振り払おうとしながらも、遠藤はカメラを 回し続けている。
「てめーら全員黙ってろ!!!!!」
青筋を立てながらカイジは怒鳴った。

事務所のドアが開いて、別のカジノ従業員が恐る恐る室内に 入ってきた。
彼は白線のギリギリまで歩を進め、立ち止まった。
「あの・・・店長にお話があると、あちらの方々が・・・」
彼の言葉に、一条は自らのジャケットを脱ぐ手を止めた。
従業員が示した方向の先、部屋のドアの向こう側に、 黒尽くめの男が3人ほど立っているのが見える。
「何だ・・・? あいつら・・・・・」
作業を中断された一条の表情に憤慨の色が浮かぶ。
「何でも・・・カイジを見物するため本部から派遣された 方々とか・・・」
「ククク・・・そうか、入ってもらえ」
一条の命を受けて従業員が動き、間もなく入り口にいた 黒服3人が入室する。
「ご苦労様です」
カイジの上に乗ったまま、一条は会釈をした。
「問題ありませんよ。
ドアさえ固めれば、コイツはもう袋の鼠。 逃げれやしません。
まあ・・・とはいえ・・・
×××の瞬間はジタバタと大暴れし、手こずらせるかも しれませんが・・・」
先頭に立つ黒服が、一条の言葉をさえぎった。
「いえ・・・その点は・・・我々も心得ていて問題ありません。
そういうことでなく・・・
要請があります。 本部から・・・!」
「は・・・・?」
黒服の、予期せぬ言葉に一条は眉をひそめた。
「ライブで・・・つなげ・・・という要請です・・・!」
「つなぐ・・・?」
ますます一条は不可解そうな顔をする。
「今、防犯カメラで撮っている、この修羅場の画像を、 ネットで送信しろという要請です・・・・・!」
「はあ・・・。
そりゃあ、できなくはありませんが・・・
しかし、こんなものどこへ・・・?」
「地下・・・・」
黒服は即答した。
「送信先は地下・・・・!
帝愛の王国・・・・! 地下強制労働施設・・・・・!」

その施設のある場所を知る者は、極わずかしかいない、帝愛の 地下強制労働施設。 そこには“王国”と称される、これまた 更に極少数の者しか出入りを許されない場所があった。
その“王国”に、壁一面がカメラのモニターに なっている部屋がある。
そこにいるのは、一人の老人、兵藤和尊、 この“王国”を支配する主である。
モニターの真ん前で鎮座する兵藤の後ろには、10人以上の 黒尽くめの男たちが立ち控えている。
兵藤は、男たちに純金の巨大な盃になみなみとワインを注がせた。
そして、モニターの画像が全てカジノから送信されてきた 事務所の様子に切り替わると、四つん這いになり興奮した様子で ワインを犬のように飲み始めた。
「お〜〜〜〜〜っ・・・!
懐かしい、懐かしい・・・!
わしもやったぞ・・・! これ・・・!」
老人の背後に立つ男たちに激震が走った。
モニターに映し出されているのは、一条に組み敷かれている カイジの姿なのである。
だが、 「誰と?」「やったとして、どっちの役を?」と 聞き出せる兵(つわもの)は、ここには一人も いなかった。
兵藤は、一条の体の下であがくカイジを薄ら笑いで眺めて いたが、やがてタガが外れたかのごとく、かしわ手を打ち始めた。
「カイジくん・・・! カイジくんだ・・・!
やっとるの・・・! 相変わらず、バカなことを・・・!」
それから、狂気とも取れる笑顔を背後に立つ部下たちに 振りまいた。
「皆の衆・・・・! よく見ておけよ・・・!
この男はこう見えてもなかなかの兵(つわもの) での・・・!
その男が貞操を賭けて最後の勝負・・・
この土壇場・・・・!
ヤツがどうジタバタするか・・・・・?
それをよく見ておくのだ・・・・!
後学のため・・・・・・!」
再び、黒尽くめの男たちの間に緊張が走った。
老人の最後の言葉に動揺したのは言うまでも無い。
しかしながら、 「後学のためってことは、自分たちも男に 襲われる可能性があるってことですか?」などと 質問の出来る兵(つわもの) は、やはり存在しなかった。

“王国”と同じ空間に存在しながらも、兵藤のいた場所が 文字通り天国であれば、最下層に位置するここはまさしく 地獄であろう。
借金という足枷に捉われた亡者たちが、黙々と重労働を 課せられている、死と隣り合わせの場所。
そんな場所にも、ささやかながら休息の時間が与えられていた。
そこに、黒服の男たちが数名現れた。
彼らは手早くそこにテレビを設置し、ケーブルを引く。
亡者たちはその様子を不安そうに見つめていた。
黒服の一人が口を開いた。
「本来・・・休憩中にテレビ観賞など、ここでは許されない。
ありえないことだ・・・そんな娑婆っ気は・・・!
しかし・・・今日たまたまここに来られている、御会長の 配慮で、今回は特別に許されることとなった・・・!」
借金に苦しむ亡者たちが更にざわめいた。
「まあ・・・この中の何人か・・・にとっては、非常に 興味深い中継になるだろう。
ありがたく拝観するように・・・・・!」
事態が飲み込めていない亡者たちは、口々に中継内容を 予測する。
「説明しよう。
皆も覚えているはずだ・・・。
この施設を、ほんの2週間ほど前に一時外出した男のことを ・・!」
黒服の言葉に、彼のすぐ側で休憩を取っていた一群の顔色が 変わった。
「その男が・・・今・・・
我が帝愛の経営する、裏カジノで強姦されようとしている ・・・!」
「ええっ・・・!?」
黒服の目の前に座る集団が、腰を落としたまま彼らににじり 寄った。
「ちょ・・・・・ちょっと・・・!
マ、マジですか・・・? それ・・・!」
先頭に座る、一番若い男が声を荒げた。
「本当だ・・・・・! 嘘を言ってどうする・・・?
まあ見るがいい・・・その様子をこれから流す・・・・・!
ライブ・・・生中継だっ・・・・・!」
一瞬、水を打ったような静けさに包まれてから、辺りは再び 騒然となる。
「おいおい・・・!」
「バ、バカなっ・・・!」
「聞いたことねえぜ・・・そんな話・・・!」
その時、テレビを操作していた黒服が言った。
「映ります・・・・・!」

テレビの前に陣取っている集団は、慌てふためきながらも 砂嵐の画面を凝視した。
彼らはここでは“45組”と呼ばれる集団で、ほんの少し前 までは、カイジと行動を共にしていたのだ。
「カ、カイジさん・・・・・・!」
彼らは口々にカイジの名を呼びながら、画面を見つめ続けた。
砂嵐の画面が瞬時に変わり、そこに現れたのは懐かしい人の 変わり果てた姿であった。
黒服が言った通り、カイジは長身の男の腕の下にいて暴れて いる。
45組は目に涙を浮かべて叫んでいた。
「カイジさん・・・! カイジさんっ・・・!」
「がんばれっ・・・! がんばれっ・・・!」
「初めは痛いけどがんばれっ・・・・・!」

再び場面は裏カジノの奥にある事務所に戻る。
カイジは相変わらず抵抗を続けていた。
「いい加減あきらめたらどうだ? ん?」
カイジのへそを重点的に舐めながら一条は言う。
カイジは歯を食いしばって声を殺し、体の上に伏せる一条の 肩をギリギリと掴んで耐えている。
「カイジくん、怖くないで!
痛みはすぐに快感に変わるんやで!」
正座する坂崎の拳は固く握られている。
隣で同じく正座しているカジノ従業員たちが、坂崎に鋭い 視線を送った。
「オッサン、バカ言うなよ!
ウチの店長が痛い思いさせるわけ無いだろ!?
すぐにアイツもアンアン言い出すよ!」
「ウチのカイジくんは敏感なんだっ!」
ギャラリー同士でつかみ合いが始まろうとするのを、カジノ 主任の村上は呆れ顔で見ていた。
「コラ、おまえら黙って見ていろ!」
「おいカイジ、そこは小指をくわえて上目遣いだろ!?」
ビデオを回している遠藤から指示が飛ぶ。
すかさず村上は体を張って遠藤を阻んだ。
「オッサン、アンタも白線踏んでるんだよ、出ろ!」
一条の肩を掴む手が、わなわなと震え始めた。
「おまえら〜〜〜〜〜っ
本当にどっか行きやがれっっっ」
カジノの事務所に、カイジの怒声が轟くのであった。


〜この後、カイジが貞操の危機を回避出来たか否かは、
皆様のご想像にお任せします〜



《 END 》


パラシュートgood timeの浜本みんさんより頂きました。家宝であります。