好き。

 百万回言っても足りない。




 好き。

 あなたが、好き。










 桜の花びらが舞っていた。
 その門を潜って、初めての場所へと踏み込んだその時、ジュドーの目は釘付けになっていた。

 おしゃべり好きな割に語彙の少ないジュドーには、何と言えばよいのか分からなかったが、とにかく。



(…………きれー…………)


 満開の桜の花も霞むようだった。
 とにもかくにも美しい顔立ち。氷の様に冷たく、透明な……。

 早くしなさい、などと母親に言われても、一歩も動けない



 ジュドー・アーシタ3歳。それは、運命だった。











 何とか足を踏み出して、運命の相手の手を掴む。

「ねえ、あんた、なまえ……」

「……なんだよ、おまえ」

 その、とんでもなくキレイなヒトは、その冷たい顔立ちそのままに、とても冷淡だった。
 それでも、ジュドーは気にすることもできなかった。

「おなまえ、おしえて」

「……僕の?」

「うんっ!」

 何度も繰り返し頷く。そして、ドキドキしながらそのキレイな顔を見つめ続けた。

 姿によく似合った柔らかな声が心地いい。何でもいいから、もっと聞きたかった。
 名前を知れば親しくなれるだろうか。同じこの保育園に通うのだから、仲良しの友達になれるかもしれない。



 しかし。


「いやだ」

 つん、と顔を背け、そのキレイなヒトはジュドーの手を振り解いて走り去ってしまった。



 それはあまりにも鮮やかな印象だけをジュドーに焼き付けて消えた。

 次の日から、ジュドーの日課が決定したのは、言うまでもない。



続く

作 蒼下 綸


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