「ねえ、お願い」
「断る。君とのクリスマスを邪魔されるだけではなく、あのガキ共の相手をしろだと? 冗談ではないぞ!」
「……じゃあ別れる」
「なっ……卑怯だぞ!!」
「じゃあ、してくれる?」
「…………アムロ……君は本当に私のことを愛してくれているのかね?」
「疑うの?……本当に別れようかな……」
「ま、待て! 早まるなっ!!」
「別に夜まで邪魔されるわけじゃないし……ね?」
「うむ…………」
「ね、じゃあ、決まり! いいよね」
「私はまだO.Kしたわけでは……」
「いいでしょ、ね……」
 額に残る傷跡に軽く唇が触れる。
 寒い夜の、温かいベッドの中での会話は、まだ暫く終わりそうになかった。







「オッケー出ましたよv」
 朝の職員会終了直後のアムロの一言に、一部の保育士達と事務員達が色めき立つ。
「やっぱり毎年ガトー先生では、年長さん達は誤魔化し切れませんものねぇ」
「……よく兄さんが承諾したわね、アムロ」
「承諾?……ええ、させましたよ」
「そう。ならよいのだけど」

 そのやりとりを聞いて、「よくないぞ!」と叫んでいるシャアの姿が想起され、上座に座っていた園長のブライトはこめかみを押さえた。何となく厭な予感がする。予感というより確信か。何かひと騒動起こるのだろう……と思うと、しくしくと胃が痛み始める。

「じゃあ、もう少し小さいサイズのサンタ服を用意しなくてはいけませんね」
「あいつじゃどうせ、嫌味なくらいスタイルいいんだから、この際詰め物でもして太ってみればいいんだよ」
「……私は別に太っているわけではないのだが……」
 この場合、ガトーの声を聞いているのは精々ブライトくらいのものである。
「あいつの髭面ってのも見物だろ?」
「…………アムロ、お気を付けなさい。あの兄さんがこのまま黙っている筈がなくてよ」
「大丈夫。『別れる』って言うの、結構効くみたいだから」
 何となく、その場の誰もが、二人が何故付き合っているのかよく分からなくなった。
「それにあいつ、当日は結構ノると思うよ。赤色好きだし。案外道化役も好きだし。それに今まで、ちゃんと髭のある顔なんて見たことないから……どんなのか気になるし、最後でごねても引きずってくるから」
 髭の下りで少しトーンが落ち、頬がうっすらと紅くなる。それはもう壮絶に愛らしく、居合わせた全員がこの一瞬の眼福を神に感謝した。

 が。

「…………見事なノロケだな」
 皆の心の声をブライトが代弁して、呆れたように呟いた。
 うんうんと、周りの皆も同調して頷く。
 シャアにアムロは勿体なさ過ぎる、というのが総員の同意である。
 アムロほどの人間なら、シャアなどとわざわざ付き合ってやらなくとも、もっと優れた相手は掃いて捨てるほど見付かるだろう。それが何を好き好んであんな、園児と対等に張り合うような男を選ぶのか……顔が全てだと言われればそれまでだが、かなり解せない。
 それがまた、アムロも毎朝のように喧嘩しているくせに、かなり天然にのろけて見せたりするものだからよけいに分からない。陰で涙を飲んでいる者も多かった。

「あ、あと、園児達へのプレゼントなんだけど……アレ、出来たから、一教室に1体でいい?」
 シャアについて話すときより更に生き生きと、満面の笑みで小さく首を傾げてみせる。……何故かカメラのフラッシュがそこかしこから瞬いた。
 しかし、ブライトは嬉しそうなアムロを眺めて複雑な表情を見せ、暫くして大きな溜息を吐いた。
「……安全面に問題はないな?」
「ないよ。別にメガ粒子砲もつけてないし」
「小型ミサイルや、自爆装置もなしだぞ。ビーム兵器類も禁止、と言ったな?」
「やだな、ブライト。信用してよ」
「前科があるから言っている」
「まあ…………不審者に対しては、それなりの措置は執るけど……」
 アムロの目がふぃ〜〜、と泳ぐ。
 ブライトは胃の辺りを押さえながら、更に大きな溜息を洩らした。
「…………法に抵触しない程度にな」
「分かってるよ。見付からないようにやるからv」

 ………………。

 暫くの沈黙の後、ブライトは椅子に座り込み、デスクに突っ伏した。
 そのまま顔も上げず、アムロを追い払うように手を振る。
「……程々にな…………。誰か……レインを呼んできてくれ。行く気力がない……」
 とてつもなく力無いブライトの様子に、アムロ以外の全員が心の中で合掌した。



 波乱のクリスマス会は、これからである。



作  蒼下 綸


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