「おなまえ、おしえて」
「いや」
「ねえってば、おしえてよぅ」
「い、や、だ!! おまえなんか、あっちにいっちゃえ!」

 これもまた、日常のこと。









 初めて会った時から、ジュドーはその人のことが気になって仕方がなかった。
 年上だろうというのは、自分より少し大きな身体と着慣れたスモックとで何となく分かった。
 けれど、そんな事より何より、その綺麗な顔立ちに目が釘付けになっていた。
 しつこく聞いているけれど、入園した日に出会ってからもう何カ月も経っている。本当は、名前だって知っていた。ジュドーの大好きなアムロ先生が呼んでいたのを聞いたから。
 その人は、本当に、ジュドーなんかとは比べものにならないくらいアムロ先生のことが大好きなようで、クラスの先生でもないのにずっとアムロ先生と一緒にいた。
 さすがに先生に張り合えるとは思っていない。だけど……けれど。
 その人の口から、名前を教えて欲しかった。ジュドーはかなり、頑固な子供でもあった。

 カミーユ。
 それが、その人の名前だった。

 カミーユは、ただ綺麗なだけの子供ではなかった。
 もうひらがなが読み書き出来たし、とても簡単な漢字だったらそれもできた。
 手先は器用で、一人でもちゃんとプラモデルを成形できた。
 運動神経も良かったし、何か習っているらしく、腕っ節も強いようだった。
 あんまり綺麗だったし、その上名前が少し中性的だからからかわれることが多いようで、その度にその腕前は遺憾なく発揮されていた。
 アムロ先生の口から呼ばれるその名前は、とても優しくて綺麗な響きだったから、ジュドーはとても気に入っていたのだが。
 だがしかし、そうしてからかわれる所為で、彼はすっかり自分の名前が嫌いになってしまっているようだった。
 だから、名前を尋ねるととても不機嫌になる。
 そこまで分かっていても、それでも、ジュドーは本人から名前を聞きたくて仕方がなかった。

 大好きなアムロ先生が口にしただけでとても素敵だと思うのだ。
 ましてや、そんなアムロ先生よりも更に、きっと、ずっとずっと大好きだと思う本人の口から聞いたら、もっと優しくて、綺麗で、素敵だと思う。だから。

 だからジュドーはめげずに名前を尋ねる。
 いつか教えて欲しいから。
 嫌なことでも教えて貰える、そんな「特別」になりたいから。

続く

作 蒼下 綸


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