南様 279Hitありがとうござました!!
「ジュドカミでエロ」
SRW/Cross Road番外編2-2の後の設定でお送りします。

 カミーユの姿が見えない。
 探している時に限って、カミーユは姿を消す。
 いつも追いかけ回す様にしているから、逃げられているのは分かる。だが、今の、この時間だけは逃せない。

 自室にも、食堂にも、談話室にも、トレーニングルームにも、デッキにも、ブリッジにも見当たらない。
 どう考えてもおかしい。
 艦内の場所など限られているというのに。

「ねぇ、ファさん〜」
 デッキの手摺りにずるずると寄りかかりながら、目の前でメタスの整備をしているファに話しかける。
 ファは、ちらりともせず、適当に返した。
「カミーユの居場所なら知らないわよ。アムロさんも探してたんだけど」
「……さいですか」
 アムロが探して見付からないのなら、ジュドーに見付かる筈もない。
「でも、艦内にはいると思うわ。ここは宇宙だし、乗り物もノーマルスーツも減っていないから。……だけど、何処かのダクトから壁の裏にでも隠れていたら探しようがないわよね。…………カミーユなんか置いておいて、貴方だってZZの整備があるでしょう? カミーユは後は休むだけだけど、貴方はこれからなんだから」
「分かってますよぅ〜。だけど、今はカミーユさんが先!!」
 ファの小言は何処か母親を想起させる。
 ジュドーは軽く肩を竦めながら、デッキを走り去った。

「ああ、ジュドー、見つかった?」
「あ、アムロさん……」
 消沈して廊下をとぼとぼと歩いていると、アムロに行き当たる。
 カミーユを探している原因は、まさに、アムロの一言にあったのだ。アムロも書類を脇に挟みながらでも探してくれていたらしい。
「艦内放送で呼び出す? 許可は出してあげるよ。後……十五分しかないし」
 ちらりと腕時計に目を遣る。
 ジュドーは勢いよく頭を横に振った。
「そんなコトしたら絶対怒っちゃうよ!」
「……まあ……そうだろうね…………教えなきゃ良かったかな」
「ううん!! 教えてくれて嬉しかった! だから、カミーユさんにも見せてあげたかったんだけどな」
「そうだねぇ……場所と時間が合わないと見られないものだからね。ジュドーの気持ちは良く分かる。……仕方ないなぁ。奥の手使う?」
 優しく柔らかく微笑む。温かくて綺麗な笑顔に、ジュドーの苛立ちが溶けて消えていった。
 アムロの力は絶対だ。カミーユがどれだけアムロを好きでも仕方がないと思うし、張り合おうとさえ思わなかった。
 だが、その微笑みの裏が何となくちょっと怖い。
 いやな予感がして、恐る恐る尋ねてみる。
「奥の…………って、何?」
「赤いのが、俺と一緒に見たいって言ってたからね。見るだけじゃ済まないだろうし…………そこで君が、カミーユを慰めてあげればいいんじゃないかなって」
「………………却下です! そんな怖いの、俺、ヤダ! アムロさんは知らないだろうけど、不機嫌な時のカミーユさん、めちゃくちゃ怖いんだから!」
 赤いの……クワトロとアムロの関係は周知の事実である。そしてそれはカミーユが認めるものではない。確かに出てくるだろうが、そんなどす黒いプレッシャーを纏った人間と、何をどうできるというのだろう。
 そんなジュドーの恐怖心を知ってか知らずか、けらけらとアムロは笑う。
「……駄目か。まあ、カミーユが可哀想だしね。艦内にいる事は確かだから……うん。後十分だね。ジュドーが本当にカミーユを思ってれば引き寄せられるよ、きっと。手を貸して」
 まだ笑いながら、ジュドーの手が取られる。
「手伝ってあげるよ。俺も、カミーユの事は心配だしね。ジュドーがついててくれるなら安心だって思ってるんだけど」
「……そうかなぁ……俺、カミーユさんの事怒らせてばっかりだし」
「カミーユはあれでも外面を保とうとしてるからね。だけどジュドーには壁がないって思うんだよ。だから好き放題言っちゃうんじゃないかな。……俺も……クワトロ大尉も、どのみち、カミーユの希望には応えてあげられそうにないから」
 掌を重ね合わせる。
 途端に広がる二人の感覚が、ゆったりと柔らかくラー・カイラムを包んだ。

 ラー・カイラムが自分の身体と解け合った様にすら感じる。
 隅々にまで行き渡る感覚。
 それ程上手くコントロールが出来ないだけで、ジュドーの力はアムロ以上との話もあった。完全に自身で制御できるアムロが手伝えば、力の範囲は無限大に広がる。
 その感覚の片隅に、確かに澄み切った氷の様な感じがあった。
「…………いた」
「…………うん。なーんだ……」
「……探して損した」
「そう言わないで。良かったじゃないか。手間が省けた」
 手が離れる。
 ジュドーはぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさい。手間かけました」
「いいんだ。……ねぇ、ジュドー」
「はい」
「カミーユの手を離しちゃ、駄目だよ」
 アムロは何でも知っている。  ジュドーは満面の笑みで返した。
「はいっ!」

「カミーユさんっっ!!」
 自室のドアがスライドすると同時に中へ駆け込む。
 室内には消した筈の明かりが満ちていた。
「もー、来るなら来るって言ってくれれば良かったのに」
 ベッドの上に座って枕を抱き、何処か一点を見詰めている人物の隣に座る。
「どしたの?」
「…………お前、アムロさんと何してた」
 ぎろり、と睨まれる。凄味のある目にジュドーは一瞬身を竦ませたが、疚しい事など何一つない。
「え? あ……ああ、さっきの? カミーユさんを探してたんだ。それで手伝って貰った。入れ違いになっちゃったんだな。ごめんなさい」
「違う! さっきのはいい。何してたのか分かるから。その前だ、その前!」
「その前…………ええと、カミーユさんを探して艦内中走り回ってた」
「もっと前!」
 カミーユを探し始める前。
 首を傾げる。
 ジュドーはおやつを食べに、食堂に行っていた。
 そしてそこで、アムロに会ったのだ。しかし、それでも何もない。ただ、いい事は聞かせて貰った。

「食堂のこと?」
 尋ねるとこくりと頷かれる。
「いたんだ。声掛けてくれたら良かったのに。そうしたら走り回らなくても良かったのにさ」
「アムロさんと何話してた。楽しそうにしやがって。アムロさんにお前、抱きついただろ」
 思い切り枕を投げつける。難なく受け止めて、ジュドーは首を捻る。
 確かにした覚えがあるが、ここまで怒らなくてもいい様な気がする。
「えー、そんなのまで見てた? だって嬉しかったんだよ。凄いいい事聞いたから」
「何だよ、それ」
「えっと……うわぁ、時間だ!! カミーユさん、こっちこっち!」
 枕元のデジタルクロックに目を遣って、大慌てでカミーユの手を引く。
「何すっ」
「いいから早くっ!」
 急ぎながらクロックの隣のスイッチに手を伸ばして照明を切る。
 小さく作られた窓に、ともかく無理矢理引っ張ってきたカミーユの顔を押しつける。
「だから、何なんだ!」
「外、見てよ! うわぁ!!」

 暗い宙。その中に浮かぶ美しい星。
 その窓からは地球が見えたが、それ自体は珍しい光景ではない。
 だが、そこにあったのは、光だった。

 地球を光が縁取っている。その縁から洩れ出た光が一点だけ、やけに大きかった。
 カミーユはその圧倒的な美しさにただ息を呑んで立ち尽くした。
「ダイヤモンドリング、って言うんだって。本当のとは、ちょっと違うらしいけど……」
 魅入るカミーユの肩に顔を乗せる様にして、ジュドーも窓を覗き込む。
 背が温かい。
 その感覚に我に返る。
 漸く自分に血が通った様な気がして、カミーユは少しだけ、ジュドーに身体を押しつけた。
「…………本当の、って?」
「地球で見える、日食とかいうのの、凄いヤツ。俺には良く分かんないけど」
 ジュドーなりの説明が耳元を擽る。カミーユは小さく頷いた。
「ああ…………分かった。金環食の前後に見えるって……本で読んだ事がある。地球の日食は月と太陽の配列で見えるものだから……これとは確かに少し違うな」
「やっぱ凄い、カミーユさん。何でも知ってるんだ! 宇宙なら、場所さえ合わせたらいつでも見えるらしいけど……航路は決まってるからさ。食堂で、アムロさんにはこれを教えて貰ったんだ」
 窓の外から目が離せない。
 美しい、美しい光……。
「俺達は宇宙に住んでたけど、コロニーからじゃこんなもの、全然見られないし、珍しいと思って。それに、その、ダイヤモンドリングって名前聞いたら、もう、カミーユさんと一緒に見たくなって仕方なくってさ」
 言葉を一生懸命に探すジュドーを、素直に可愛いと思える。
「おやつ食べに行った時に、コウさんとかウィンさんとかとそう言う話してて、何か凄い嬉しくなっちゃったんだ。それで、アムロさんに抱きついたりして…………えっと…………ごめんなさい。カミーユさんが見てるとか知らなかったから」
 カミーユはジュドーの言葉に応えず、ただ窓の外を見ていた。
 光はもう随分地球に重なって、地球を包む衣の様になっている。
 本来の日食ならもう少し時間の掛かるものだが、この宇宙空間ではこちらも移動している。入りも出も、見られる時間はほんの僅かだった。
 地球の青が、際立って見えた。

「……あーあ。終わっちゃった」
「うん…………でもまた、もう少ししたら見える」
 二人は何処か離れ難くてそのまま窓辺で立ち尽くしていた。
「……あのね、カミーユさん。俺は貧乏だし、カミーユさんに何もあげられない。ダイヤモンドの指輪なんて、真面に見た事もない。だけど……今の光を、カミーユさんにあげる。カミーユさんの目の色と同じ色をした星と、その周りに輝いていたダイヤモンドリングをあげる。そういうのじゃ、駄目か?」
 ジュドーの腕がカミーユの身体に回される。
 女の子を抱くのとは全く違う確かな筋肉の分かる身体は、それでもジュドーより些か骨格が細い。
 カミーユはジュドーの腕を振り解きはしなかった。
「…………アムロさんは、誰と見るって?」
「え?…………聞いてない。クワトロ大尉に誘われてるとは言ってたけど、ちょっと厭そうだったし」
「ふぅん…………」
 クワトロの部屋はこの丁度真上の辺りにある。
 厭そうでも、きっとアムロはクワトロとこれを見ているのだろう。自分達二人の様に。それ程変わらない事を囁かれて。
 そんな感じがする。上から漂う気配はやけに濃密だ。
 きっと、自分の方が幸せだ。そう思う。
 ジュドーは、こんなにも温かいから。
 背中をそのままもう少しジュドーに押しつける。
「カミーユさん?」
 寄り添ってくれるカミーユというのが不思議で、ジュドーは肩越しにカミーユを伺おうとする。
 しかし、凭れてくれているとは言え、僅かばかりカミーユの方が背が高い。成功しない。
 ただ頬と頬が触れ合う。その暖かみは嫌いではなかった。

「っ、ぁ…………え?」
 カミーユが僅かに振り返った。
 何かとても温かいものが唇に触れた。
 直ぐに離れる。
 目の前にあるのは伏せがちの、瑠璃色の瞳。長い睫が触れる程近くにある。
「なっ……何…………今の」
「…………こうしたかったんだろ。お前」
 上の気配に煽られている、そう思いたい。
 だが、それ以上にジュドーの暖かさにもう少し包まれていたい。

 美しい美しい光。
 白く、強い光。
 自分の目の色に似た色の星。今自分を包んでいるものに似た強い光。
 暗く孤独な宇宙の中にぽつりと、一人で寂しそうに浮かぶ星を包む、光。

「…………こう、したかったんだろ、俺に」
 その囁きは、毒にも似ていた。
「分かって言ってるんだろうな。指輪なんて贈る意味」
 やっと上げられた視線の強さに、ジュドーは微かな目眩を覚える。
 挑発的で、堪らなく…………堪らなく不安げな。
 ジュドーはぎゅっとカミーユを抱き締める。
「……分かってる、と思う。今言われるまで考えてなかったけど。だけど」
「マセガキ。分かってるのか、って聞いてるんだよ」
 カミーユは苦々しげにそう呟くと、再びジュドーに顔を接近させた。
「っ、ん……んー……」
 口が塞がれる。
 ジュドーは目を白黒させて、それでもなされるがままだった。
 ぬるり、と温かく湿ったものが口の中に入り込んでくる。
 カミーユだと思えば、気持ちが悪くなどはない。ただ、どうすればいいのか分からないから任せるしかない。

「っ……あ……、ああっ、カミーユさん!」
 ただ翻弄されるばかりのジュドーの視界に、窓の外が入る。
 思わずカミーユを引き離した。
 カミーユは酷く不機嫌そうに舌打ちをする。
「……何だよ。こんな時くらい大人しくできないのか。だから子供は厭なんだよ」
「そーじゃないって! 見て!」
 ぐいっとカミーユの首を窓の方へ無理矢理向ける。

 光が満ち始めていた。
 もう一つのリングが姿を現す。

「これも、カミーユさんにあげる」
「馬鹿かお前。全部お前のだなんて思い上がるなよ」
 目を細める。
 光が闇に満ち始める。
「俺の目に見えてる景色は、全部俺のだ。それくらい、思ったっていいじゃん」
「このリングは一対なんだから、俺の。……だから、お前にやるよ。ここにはファもアムロさんもいないから」
「俺にくれるの!? すっげぇ!!」
 子供そのものの反応に、カミーユは苦笑を浮かべる。こういう反応は嫌いではない。
 アムロやクワトロを相手にしているのでは、こんなに自分に主導権はない。それが心地よかった。
「んで? どうするつもりだ」
「どうって?」
「キスで終わり? マセガキ」
 見詰める視線は紛れもなく誘っていた。
 ジュドーの顔にかっと血が昇る。
 そんな反応が堪らなく気持ちいい。
 上からの熱はどうしようもなくカミーユを煽っている。
 アムロはクワトロに抱かれている。
 なら、自分は?

「俺が欲しい?」
「欲しい!」
 大型犬……の仔犬の様な目でキラキラと、期待に満ちて見詰めて来る。
 とん、とジュドーの胸を小突く。
「分かって言ってるか?」
「……俺、カミーユさんが思ってる程子供じゃないよ」
「っ!」
 気を取り直したジュドーは、にやりと笑った。
 男の顔になり、そのままカミーユにぶつかる様に抱き締める。
 居住区の室内には重力が効いている。問題はなかった。
「…………いいのか? 俺、初めてなんだけど」
「指輪、交換したろ」
 ぶっきらぼうな返事はそれでもYes。ジュドーは満面に笑みを浮かべて、カミーユをベッドへと導いた。
 体重を掛け、どさりと二人して寝転がる。
「くそっ、重いぞ」
「我慢してよ。俺、女の子とする方法しか知らないし。カミーユさんが女の子の役でいい?」
「……逆でもいいんだぞ、俺は」
「それは俺がヤダ」
「だったら聞くな! 恥ずかしいだろ!!」
「いてっ! 殴らなくてもいいじゃん」
 押し倒している、という体勢で、容赦なく背や頭を殴られる。体勢からそんなに力は入っていないものの、痛いものは痛い。
「大体、この間は…………俺にあんな事……したくせに」
「あんな事?……いってぇーー!!」
 直ぐには思い至らずに軽く首を傾げると、間髪入れず本気で容赦なく殴られる。目に火花が散った気がした。
 カミーユの顔は真っ赤になっている。外からの微かな光とクロックの明かり程しかないのに、何故かそれだけは分かった。
「……もー……そんな本気で殴らなくても」
「殴り殺されたいか」
「い、いや……それはちょっと…………でもさぁ、もうちょっと雰囲気出してくれてもいいじゃん」
「そんな事はお前が気を使えよ!」
「えー……俺にそれ言う?」
「……………………俺が悪いのか? そうなのか?」
「どっちも悪くないと思うけどな」

 額を合わせる。互いの息が触れ合う。
 指を絡めてカミーユの手をベッドに押しつける。
 伝わり会う体温が心地いい。
 カミーユは目を閉じ、少し頤を上げた。それだけで唇が触れる。
 瞼の裏に広がるのは、宇宙。
 窓の外に見える寒々しい宙と違い、何処までも温かい闇が広がる。
 ふわり、ジュドーに包まれる。
 さっき見た金の光に包まれる地球の様に。
「…………するなら……さっさとしろよ」
 幸せとは程遠い上から降って来る熱に惑わされたくない。自分は、今、温かくて心地いい。
「可愛くないの。そこが可愛いんだよなぁ、カミーユさんって」
「年下のくせに」
「それでもさ。可愛いんだもん、カミーユさん」
 滑らかな頬に口付ける。
 こうして触れられるだけで、ジュドーはそれなりに満足だった。その辺りは、まだ子供だ。
 だが、今はカミーユが誘ってくれている。顔を赤くしながら、不器用に。
 意を決して、カミーユの服を脱がせに掛かる。カミーユは大人しくしていた。
「明かりつけていい?」
「絶対厭だ」
「……そういうと思った。消すんじゃなかったかな」
「暗くないと綺麗に見えないだろうが」
「そう思ったから消したんだけどね」
 カミーユの顔をはっきり見たい。指先で、カミーユの目鼻を辿る。
「綺麗なカミーユさんを見たいんだけどな」
「顔なんか、いつも見てるだろ」
「……知ってる? カミーユさん、感じてる時、いつもなんか目じゃないくらい綺麗なんだよ」
「知るか、馬鹿……っ……」
 指一つを挟んで唇が触れる。
 それだけでもう何も言えなかった。カミーユは目を閉じ、ジュドーから顔を背けた。

 ジュドーの知識も、所詮は雑誌とホロテープ程度である。
 乳房ではなく胸板としか表現のしようもないものを目の前に戸惑いを隠せない。
 ただ、薄暗い中にぼんやりと浮かぶカミーユの皓い肌は綺麗だと思った。
 知識を辿り、ランニングシャツを捲り上げる。身を屈めて、唇を押し当てた。
「んっ……」
 辿々しい。掛かる息が擽ったく微かに身を捩った。
「これ…………この間、アムロさんが付けたの?」
 鎖骨の下辺りに僅かな陰を見つける。
「ん、っ……ぁ…………や、厭だっ……」
 重ねて口付けようとするジュドーの顔を掴んで引き離す。
 ジュドーも無理強いはしなかった。
「ごめんなさい……。大切なんだもんな」
「…………お前、馬鹿か」
 こんな時でも悪態を忘れないのは、ある意味天晴れだ。
「あんまりバカバカ言われると、俺もちょっと傷つくんだけど」
「無駄なんだよ、お前、ホント…………」
 腕で変わらす顔を覆っている。口元だけが見え、それはへの字に曲がっていた。
 可愛い。
 軽くキスをする。

「……あのさぁ……カミーユさん、経験とかあるの? 初めてって痛いとか言わない? 痛いんなら、俺、厭なんだけど。カミーユさんが痛がるのとか見たくないし」
「だから、無駄なんだって! 聞くな、馬鹿っ!!」
「……あるんだ。アムロさん?」
「俺がアムロさんに抱かれてどうするんだよ!」

「じゃあ、誰? クワトロ大尉、とか?」

「〜〜〜〜っっ!!」
 余りな質問に、カミーユは容赦なくジュドーを殴りつける。
「くっ……ぅ〜〜〜〜…………効いたぁ……」
「クソガキっ! もうナシだナシっっ!!」
「えー、ひどっ」
「酷いのはどっちだ、このクソ馬鹿!! ふざけんなよ畜生! だからガキなんか嫌いなんだよっ!」
 とうとう圧し掛かるジュドーを蹴り上げてベッドから振り落とす。
「ごめん! ごめんなさいって!! ねぇ、カミーユさん! ホント、謝る!!」
 図星だったんだろう。聞いてはいけない事だったのも、よく分かった。
 ベッドの上に這い上がろうと試みるが、その前に顔面を思い切り蹴り付けられる。
「っ〜〜…………死にそうだよ、俺……」
「死ねっ! いいから、今すぐそこで沈め!」
「…………クワトロ大尉かぁ………………俺、自信なくなってきた」
「まだ言うかっ!」
 脳天に一撃を食らい、打たれ強いジュドーも床に沈む。

「………………マジで死ぬ……」
「ったく…………せっかく気分良くお前に任せてやる気になったのに! 何でお前は俺の神経逆撫でする事ばっかり」
「だって気になるじゃん」
 まだ床から起き上がれないながら、反論を試みる。
 カミーユの頭に昇った血は、全く引きそうになかった。
「誰かのお下がりだって言いたいのか! この俺が!」
「そんなんじゃないっ! 満足して欲しいじゃん。やっぱさぁ……こう、男としての俺のプライドっての? 初めてだから自信ないし。……それが、前の相手がクワトロ大尉だとか言われたら、もう完全自信喪失っつーかさぁ……」
「馬鹿か、お前は! いや、間違えた。お前は大馬鹿だっ!」
 ジュドーの首根っこを掴み、無理矢理引き上げる。そしてその頭をベッドに強く押しつけた。

「俺がいいって言ってるのに、お前が何でその他の事を気にしなきゃいけないんだよ! 俺が今選んでるのはお前で、あんな腐れド変態じゃない! お前とあんな変態を比べてたまるかっ!!」
 ぐりぐりと押しつけられる手の力はやたらと強くて、ジュドーは意識が遠のくのを感じた。
 しかし、その前に。
「……ほんと? クワトロ大尉より、俺の方がいい?」
「聞くなっていってるだろ! この大馬鹿野郎!」
「ヤってから、やっぱり大尉の方がいいって言われたら超ショックだし」
「絶対言わない、そんなこと! だって、」
 そこまで言って、ふっと我に返る。
 頭の血管が切れたかの様な、ふわりとした感覚に焦る。
「……だって?」
「何でもないっ!」
 何を言おうとしたのか、自分は。
 動揺してジュドーをまた殴る。

 ジュドーの方がずっと温かい。
 ジュドーの方がずっと優しい。
 ジュドーの方がずっと力強い。

 力任せに殴りながらも、ジュドーの温もりが恋しい。
 ジュドーは自分より体温が高いのだろう。多分。こんなにも温かいのだから。
 これ以上離れているのが厭になって、更にジュドーをベッドの上へと引き上げる。
 力に任せてぐいぐいと腕で締め上げる。
「ぅ……ちょ、っ……カミーユさん……??」
 カミーユとしては抱き締めているつもりだが、腕力は並ではない。
「……お前でいいから……」
 カミーユの身体は何処かひんやりとしている。
 殴られ続けてあちこちが打ち身に火照っている身体には、それが心地よかった。
 ジュドーもカミーユの身体へと手を回す。
 自分もそれなりに鍛えている方だが、カミーユの身体は輪を掛けて撓やかな無駄のない筋肉に包まれている。
 力強い弾力のある身体は女の様な柔らかさには随分欠けるものの、ジュドーにはとても魅力的に思える。
 これが惚れた欲目と言うのだろう。
 するりと腰へと手を伸ばす。やはり、手に触れる感触は細いながら力強い。
 誘われているんだからいいのだろうと判断して、恐る恐る尻にも触れる。カミーユは微かに身動いだが、抵抗はしなかった。
「えーっと…………ここ、でいいのか?」
 他に穴などないだろう。
 暫くして、カミーユの頷きが返ったのが分かる。
 ジュドーの背中にあった手が強く爪を立てた。「聞くな、馬鹿」そう言いたいのだろうが、言葉はない。
 ズボンの前のボタンを外しファスナーを下げて、その中へと手を入れる。
 離れていたくない。
 動き辛くても抱き合ったままだ。

「……っ……」
「ごめっ……痛い?」
 探り当てた窪みへ指を引っかけると、思った以上にきつい。それ以前に、指の一本すら入りそうにない。
「本当にここでいいのか?」
「…………そのまま入れたら、ホントに殺すぞ」
「どうすればいい?」
 ジュドーとしては、ただ素直に聞いたつもりだった。
 しかし、途端に強く背中を引っ掻かれる。ジャンパー越しだというのに、握力も洒落にならないらしい。肉を抉られる様に痛い。
「ホントに分かんないから聞いてるんじゃん」
「……………………考えろよ、馬鹿。……ちょっと濡らすとか、何とか…………あるだろ」
「濡らす……か。ああ、そっか。女の子じゃないんだから、濡れないよなぁ」
 濡らすもの……というのが思い浮かばず、一度引き抜いた指を舐めて濡らし、もう一度触れる。
「……んっ…………」
 頼りなく身体が震える。
 今度は、指先くらいは入り込んだ。
「大丈夫?」
 そう聞くと、カミーユの方から足を絡めてくる。
 了解は得られたのだろう。
 だが、まだまだ潤いは足りていない。
「えっと……腕、離してよ。全然こんなのじゃ濡れないから」
 厭だと首を振るカミーユの背中を撫で擦って窘める。僅かに力が緩んだのを感じて、腕を解いた。
 カミーユが堪らなく不安げなのは分かる。
 それが自分の幼さと経験不足からなのだろうと思って、ジュドーは申し訳なさそうに首を竦めた。
 それでも、ここまで来ては引ける筈もない。
 少し離れて、カミーユの足からズボンとブリーフを引き抜く。

「カミーユさん、綺麗な足してんねー……」
 思わず掌で太腿から膝裏、脹ら脛を撫でる。
 ひくりと震える身体を愛おしく思いながら、その足を持ち上げ、自分の肩に乗せる。腰が浮いた。
「真っ白…………俺の方が毛深いんだな」
「……うるさい……」
「ごめんごめん。えっと、濡らすんだよな」
 丁度顔の横に来た内腿に唇を押し当てる。滑らかでありながら弾力が凄い。
 歳は三つ程違うが、カミーユのソレはまあ、自分とそう大差ない。まだ大した反応は見せていない。
 その更に奥、窄まった場所を見つけた。
 抵抗は感じず、そこに口を付ける。
「っ、んっ……」
 反射で閉じようとする足を押さえ、舌を差し込む。
 溜めた唾液を注ぎ込む。
「ぅ……く……」
「やっぱきつそうー……ホントに入るのか?」
「だったら慣らせよ……痛かったら容赦なく蹴るからな」
 顔は見せない。何処かほっそりとした指が顔を覆い尽くしている。
「……蹴られるのはヤダ。えっと慣らす……慣らす、か。じっとしててね、カミーユさん」
 唾液で濡らしたそこへ、指を入れてみる。
「ぁ……っ…………」
 切れ切れの微かな声が、本当に可愛いと思う。
 入れる、出す、普通とは逆の動きに襞は抵抗を見せる。
「ふぁ……っ……ぁ……っ」
 小指で広げながら、舌をもう一度差し入れて更に唾液を流す。
「んっ……ぅん……」
 いいのか、苦しいのか、判別のつかない声だ。
 ただ、ジュドーの背にぞくぞくとした震えが走る。
「やば……何かすげぇクる」
 少しきつくなった自分のズボンを寛げる。
 と、カミーユの手が伸び、下着ごと膝まで引き摺り下ろされた。
「俺ばっかり脱がせやがって……」
「ん、ああ、ごめん。……引っ掻かないでよ。何か、カミーユさんに引っ掻かれたら肉まで剔れそう」
 器用にカミーユの足を肩に乗せたまま、ぽいぽいと来ているものを脱ぎ散らかしていく。
 素肌の擦れ合う感覚が心地よくて、カミーユはジュドーへ手を伸ばす。
 ジュドーはそれを分かって、指を搦めて手を繋いだ。
「ぅ……ん……っ……」
 くちくちと、細くした舌先だけでそこを解す。
 繋いだ手から、じわりと熱が広がっていた。
「あ、っは……っ……ん……」
 カミーユから繋いでいる。その事が、ジュドーには堪らなく嬉しい。
 自分ばかりがカミーユを好きで、カミーユを求めているのではないと確信できる。
 見れば、カミーユは次第に昂ぶり、とろとろと茎の先端から蜜を零し始めていた。
「大好きだよ、カミーユさん」
 握り返して答えの代わりにしてくれる。
 流れ込む感覚がどうしようもなく心地いい。

 ボルテージは一気に上がり、そこから口を離す。
「もう……いい?」
 掌が熱い。
 その感覚は、媚薬にも等しく二人の思考を徐々に溶かしていく。
 カミーユは熱い息を吐き出した。
「……ゴム持ってるか」
「ゴム……? 輪ゴム?」
「馬鹿っ! コンドームだよ、コンドーム!!」
「え、あ……あー……持ってない。要る?」
 何も分かっていない様子にきりきりと眉が吊り上がるが、火照った身体は限界だった。蕾が疼いている。
「……中で出したら……殴り殺す」
「うぇ!? えっと、貰ってこようか。誰なら持ってるかな。……クワトロ大尉とか?」
「その名前を二度と口にするなっ!!」
 肩の上の足が艶めかしくも絡んできたと思えば、強く締め上げられる。
「っく、ギブ! ギブ!!」
 本気で苦しそうな声に少し力が緩んだ。
「…………もういい。するなら……しろよ…………早くっ」
「ん……もう、ちょっとだけ待って」
 もう少し自分の昂ぶりが足りない気がして、カミーユから片手を解く。
 自身のそれに触れる、その前に。
「っ!! カミーユさんっ!」
「じっとしてろって。爪立てるぞ」
 少しばかり昂ぶりを見せた雄に、細い指が絡む。
「ぅ……っ……カミーユさん〜〜」
 撓やかな指が、根本から先端へと扱き上げ、先端を弄る。
 ジュドーは呆気なくその手に落ちた。
 他人にまだ触れられたことのないそこは、ひどく素直な反応を示す。
 十分な硬度が出て来、更に弄り続けると先がじわりと濡れ始める。
「っ、ヤバいって、ねぇ!」
「…………根性なし。いいぞ、もう。そろそろいけるだろ。お前も」
「う……うん。じゃあ、行くよ」
 足を肩から下ろし、代わりに腰を抱える。撓やかではあるが、細い。
「苦しくない?」
 入れやすい様に膝が胸に付く程に身体を折り、圧し掛かる。
「ん……平気……」
 ジュドーの首にぶら下がる様に腕を伸ばす。

「んっ……ぅあ、っあ……」
 押し開かれる。
 ぐっとジュドーの身体を引き寄せた。
「ぁ……っ……っう…………」
 引き攣る様な声が洩れるたび、ジュドーは動きを止めてしまう。
 カミーユは自ら腰を押しつける様に浮かせた。奥まで一気に貫かれた方が幾らか楽だ。
「っぁ! ん、っっ」
 華奢な頤が仰け反り、背が撓う。
 ジュドーを銜え込んだそこは、みっちりときつく、しかし熱く包み込み引き込んでくる。
 何もしなくても、そのまま放ってしまいそうな感覚に、ジュドーは必死で堪えた。
 それより、カミーユのことが心配になる。
 少し体勢を変えて、苦しくない様に気を使う。
 しかし。
「だ、大丈夫?」
「やっ、ぁ、動くなっ!」
 驚いてジュドーは腰を引きかけた。
 途端にカミーユが寄り強く縋る。首筋の辺りに弾みで爪先が引っ掛かり、引っ掻くことになる。
「っつ……」
 カミーユは呼吸を整えようと荒く肩で息を継いでいる。
 深くカミーユに埋め込んだのを感じて腰から手を離し、ゆっくりとした動作でカミーユに覆い被さる。
 顔の横に手を付いて、目線を合わせた。
 瑠璃色の瞳に涙が浮かんでいる。引き寄せられて、目尻に口付けた。
 涙など全て吸い取ってしまいたい。
 こつり、と額を合わせる。カミーユは目を閉じた。

「っ、わ……ぁ…………」
 目を閉じているのに、ぱっと視界と自分の周りが広がった様な感覚に陥る。
 NTの交歓。
 天もなく、地もなく、ただ、煌めく星々の空間に二人きり。
 身体の中を流星が過ぎ去っていく様な感覚に、ジュドーは訳も分からないまま身体を震わせる。
「カミ……ユさん……」
 流れて行く星の雫。
 涙の様だ。
 流れ、溶け合い、入り交じるお互い。
 肌をどれだけ合わせても、肉体の境界というものは如何ともしがたいというのに……今の二人には、そんなもの、何の関係もなかった。
 溶ける。
 一つになって、流れて、拡散して……そうして、何もかもがなくなってしまったら。
 そうしたら、幸せになれるのだろうか。
 今こうしてカミーユに全てが熱く包まれている様に。

 ずくり、と茎を食んだ襞が蠢き、ジュドーは我に返る。
 泣き出しそうな顔をして、カミーユが睨んでいた。
「え……と」
「……動けよ。もう……だいじょ……ぶ、だから……」
 まだ少し頼りない熱杭に貫かれ、カミーユの瞳は潤んでいた。水を湛えた地球の様に。
 ジュドーはまた口付けて、僅かに腰を引く。
 襞の粘膜と擦れる感覚が、もうどうしようもなかった。
「ぁ、っ……ぅ…………」
「んっ……ぅ……も、っ……と……ジュドー……」
 もっとしっかりと翻弄して欲しくて、カミーユは自ら腰を動かす。
 半端な熱。半端な行為。半分の現実。
 それは、カミーユにとって受け入れ難いものだ。
 好き好んで男……それも年下の子供に抱かれるなどと、天より高いプライドが許す筈もない。
 現実味など欲しくない。ただ、何もかも……上からの熱すら分からなくなる程に、身体の境界がなくなる程に、翻弄して欲しい。考える頭など要らない。
 ただ、この温かい腕一つあれば。

 溺れる、と言うのは、こんな感覚なのだろう。
 何処までもカミーユの中に取り込まれ、沈んでいく。
 抗える筈もない。
「ぁ……っ……ぁは……」
 男の、それでも少し高く耳の奥に残る声。
「んっ、ぁ……ジュ……ド……ぉ……」
 名を呼ばれることが、こんなにイイなどと、知らなかった。
「あ、っ……んぁ……ぁ……」
 抱き締める腕は離れてくれない。
 綺麗な顔が見えない。だが、艶めかしく濡れた声が、ジュドーを耳から犯してくれる。
「ご、ごめ……も、俺……持たないよ……」
 情けないとは思う。カミーユは達する兆しもない。
 だが、熱く濡れた肉の洞に包まれた自身は、最早限界だった。
 確かな手触りの身体を強く抱き締め、一際強く突き上げる。
「ふぁ、ぁっ……っ……」
 どうやらカミーユのいい所に当たってくれたらしい。高い声を上げ、撓う身体が艶めかしい。
 しかし、そう感じる間もなく、ジュドーの若い性は弾けた。
「……っ……く…………ぁ…………」
 手での処理しかしたことのない青少年には強すぎる刺激だった。
 幾度かに分ける様にして、大量に放たれる。
「……ふ……はぁ…………」
 荒い息を吐き出す。蕾は蠕動する様に蠢き、ジュドーを仕舞いまで絞り上げる。
 開放感の余韻に、ジュドーはどさりとカミーユの上に覆い被さった。

「んっ……ぅ………………ジュドー………………お前……」
 声が震えている。
 カミーユのものは二人の腹の間で擦れ、べたべたとした蜜液を零していた。あと少しの刺激が足りない、そう訴えているかの様だ。
「ジュドー…………どけ……」
「ん……もーちょっと…………カミーユさん、ごめん、すげぇ気持ちよかったー……」
「退け! この馬鹿っっ!! っ!! ぁ……」
 ジュドーを蹴って退かそうとした途端、ずくりと後庭に刺激が走り留まる。
 萎えたものは、それでもまだ引き抜かれていない。
「何……?」
「お前…………中で出したろ…………」
「……………………ぁ」
「中で、出したろ、てめぇ!!」
 激昂した口調とは裏腹に、カミーユはまだ昂ぶりを解放できずに目元を紅潮させ、うるうると涙目になっている。
 凄絶に、綺麗で可愛い。
 ジュドーのナニが、再び反応を示す。
「っ、ぅ……ジュドー……殺されたいか、ホントに」
「え、ヤダ。でもさ……仕方ないじゃん。そんな綺麗な顔で、おめめ潤ませてさ……睨まれたら、その気が失せてても復活しちゃいますって」
「この、クソば、っ……ぅ……んんっ……」
 唇を塞がれる。舌が絡め取られる。
 緩く腰を突き上げられ、カミーユは頭を打ち振るった。

 殺す。
 絶対殺す。
 そうヒイロ宜しく心に誓いながらも、ジュドーに翻弄されるしかない。
「や、ぁ……ああぁ……っ……」
 悲鳴に似た声を聞いて可哀想になり、ジュドーは震えているカミーユの茎をそっと握った。
「あ……あ、やっ、ぃ……や、っ……」
「…………ごめんね、先にイっちゃって」
「ん、っ……んぁ……あ……」
 カミーユが入れる前にしてくれた様に、根本から扱き上げ、濡れる先端を弄る。
 びくびくと震える腰に、ねっとりと絡む襞に、ジュドーは再び完全に臨戦態勢になる。
 先程カミーユが一際高い声を上げた場所を探りながら、腰を動かす。
「っあ……ん……ぁ……」
 背中に回された手が、容赦なく皮膚を切り裂いていく。
 それがカミーユがどれだけ感じてくれているかのバロメーターの様にも思えて、ジュドーは益々カミーユに溺れる。
「あ、っぁ……ん、ぁあ、っあ!!」
 とくり、と幹が震えジュドーの手の中に吐精する。
 強く締め上げてくる蕾の感覚に、ジュドーはまだ今宵が終わらないことを期待した。

 若い二人がそれから何ラウンドしたか、カミーユの腹が無事だったか、ジュドーの背中も無事だったのか、それは秘密の話である。

−終−
蒼下 綸 作

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