・若手フリーライターN氏の体験 〜H国現代奴隷品評会見聞録 その1

マスター:お仕事ではどのような文章を書かれているんですか。
N氏  :そうさね。僕の専門は犯罪だ。マフィアとかの組織犯罪を追いかける。
マスター:正義の筆を振るうといったところですか?
N氏  :正直なところそんなかっこいいものじゃないんだ。危険の少ない範囲で、扇情的なネタを拾って文章にして売り込む。どんなものでもね、飯のタネにしてしまうと腐ることが多い。僕もそんな一人だよ。ただ、職業上とても公にできないような秘密に触れることがある。もちろん公表はしない。そんな秘密に触れること自体が僕の楽しみなんだ。だから腐ってると思ってもこの仕事にかじりついてるのかも知れない。
マスター:秘密ですか・・・
N氏  :お、目が光ったね。そう、とっておきの体験談がある。ここの客ならみんな興味がありそうな話だよ。
マスター:ぜひ、じっくり聞かせください。
N氏  :ふふふ、僕が日本とH国の大麻密輸のコネクションを追っていたときのことだ。Hは小さな島国・・・いや正確に言うと国ではないんだが、そこの黒社会の発達ぶりは相当なものだ。まあ、経済的な力量の影の部分とも言えるな。そこから、日本のQ州との間に船による大麻密輸ルートがあった。ごく小さな船舶で、密輸するんだ。外海からモーターボートで海岸に乗り付ける。
 その船舶を利用して、密輸業者たちがサイドビジネスを行っているという話を聞いた。
マスター:サイドビジネスですか?
N氏  :そう。そしてその商品は何と人間だとね。日本国内で家出人を騙したり、時には誘拐したりして商品を確保し、麻薬密売船に載せて、向こうの人売業者に売り渡す。そうして副収入を得るわけだ。
マスター:日本で、人身売買が行われていると?
N氏  :信じられないだろう? だが国内では、人がいなくなるだけだ。しかもその大半は、家出人とか、家族を離れて水商売で身を立てている人間とか、ほとんど事件にならない人間ばかりだ。実際に売買がされるのはH国の中だ。この商売には、もちろん日本の組織もかかわっているよ。なんとQ州では有名な一大財閥が元締めだ。驚くべき裏の顔だね。
 僕は、あるつてをたどって、H国内で行われる奴隷オークションを見学できることになった。それは、あるH国の黒組織が運営する巨大ホテルの地下で行われる。そこに連れてこられた奴隷たちは、品評会の家畜のように検分され、落札されていくんだ。購入する客の中にはは、世界に名だたる資産家、権力者がいるという。もちろん僕ごときにその名前が明かされようはずもない。結局、弱者が権力を持つものの横暴に踏みにじられる構図は表の社会でも裏の社会でも変わらない。力を持ったものは一種の勘違いをする。どのような人間も自分の力で自由にできるとなれば、それが当然の別種の人間だと自分を位置づけるんだ。だから何をやっても許されると思うんだろうね。
 僕はホテルに連れられ、品評会の会場に入った。地下に下りる階段の不気味な暗さと、会場のきらびやかな熱気が何ともアンバランスだった。会場の中心は小さなステージだ。ここに奴隷が連れられ、品定めをされるというわけだった。商品は、基本的には若い女が中心だ。だが、日本人の美しい少年というのは、ことのほか商品価値が高いのだという。僕は手引きをしてくれた人間に自分の趣味を伝えて、少年中心のオークションが行われる日を選んで、会場に入れてもらった。
 客の半分くらいは、仮面を着けて正体を隠している。そんな連中の異様な視線が注がれる中、熊のような男に鎖を引かれて、透き通るように肌の白い少年がとぼとぼと歩いてくる。もちろん全裸で、首に巻いた鎖にはナンバーのついたタグが付けられている。少年の性器にはまだ毛は生えていない。寒くもないのに鳥肌が立っていて、瞳はガラスのように精気がない。やがて少年はステージの上に横たわらされる。係員らしい男が少年の膝を開いて性器と肛門がよく見えるようにしたり、四つん這いにさせたり、いろいろな姿勢をさせて「商品」を見せる。係員が何か英語で言うと、何人かの「紳士」が静かに手を上げる。指名された三人ほどがステージに上がって、「商品」を吟味するんだ。体や、顔や、性器に触れる。肛門に指を差し込む。
 「味見っていうところだね」と、僕はホテルに案内してくれた「友人」に言った。ところが彼は、
 「なあに、本当の味見はこれからさ」と薄く笑って言うんだ。
 彼によると、この「吟味」はまだこれから希望者がいる限り数組行われる。その中で、「味見」したい者を募って代表がそれをやる。その「味見」の意味するところはもちろん性交だ。あまり何人もに「味見」させるわけには行かないので、代表がそれをやり、後は見物する。そして、落札が行われる。まあ、骨董品のオークションみたいに大声を張り上げるわけじゃなく、一種の名刺に書いた値段一発で決まる。無論もっとも高い値段を付けた者が落札するんだ。
 そんな話を聞いている間にも、ステージには男どもがかわるがわる上がって、無遠慮な「吟味」を続けていた。その間少年は全く無抵抗で、時に太い指が肛門を蹂躙した時など、ピクリと反応するだけだ。声一つ立てない。ほとんど、人形のようでさえある。
 友人の話によると、全くの手つかずでこの品評会に出される「商品」はほとんど無いと言っていいらしい。というのは「密輸」を担当する船員らが、「明日をも知れぬ根なし草」といった雰囲気の中にいることと無縁ではない。手つかずの「商品」は確かにそうでないより価値があるだろうが、目の前にエサをまかれて大人しくしている野犬もいない。友人が新入りの船員から話を聞いて、それを僕に教えてくれた。密輸ドキュメントだね。
 その時の獲物は中学に上がったばかり位で、ゲームセンターなんかに入り浸ってた所を人売組織とゆかりのある組員に目を付けられて、うまく拐かされたらしい。船に乗せられたときはまだ薬が効いていて酩酊状態に近かったらしい。丁重に毛布にくるんであったのを、外海に出るや、甲板に連れ出して、大人三人がかりでびりびりと服を引き裂いてあっという間に裸に剥いてしまった。新入り君はただ唖然としてその様子を見ているばかりだったらしい。少年は叫び声をあげて、悪態をつくけれど、四方を海に囲まれた船上で、その声はむなしく空にこだまするだけだった。やがて少年はよってたかって四肢を甲板に押しつけられて、足には、鉄球のついた鎖が縛り付けられた。これは絶望の枷だ。「商品」として船に乗せられた人間の中には、万に一つの望みをかけて、海に身を投げるやつがいるそうだ。もちろん助かるはずもないが、商品としてはそれでパアだよね。ところがこのボール&チェーンによって、身を投げても、死あるのみということは確実となる。吹きっさらしの寒い船上で、少年は全裸で股を広げられて、よってたかって犯されるんだ。乗組員は7、8人だが、彼らが交代で少年の口や肛門を使う。仕事の合間のできたヤツが順番待ちで次々に少年に襲いかかるから、少年は一晩中休むことを許されず、男たちの者をくわえさせられるんだ。新入り船員も最初こそ呆然としていたが、「お前もやれよ」って仲間に言われて、初めて少年のバックを犯した。苦しみあえぐ少年の姿を見る内に、嵐のような感情に襲われて、狂ったように腰を使ったって言うよ。朝が来たとき少年は男たちの精液にまみれて、それこそ、体中の穴という穴、前後は言うに及ばず、耳や鼻の穴に至るまで白濁に犯されて、死体のように横たわっていたそうだ。
 僕はそんな話を思い出しながら、今目の前にいる品定めされている少年のガラスのような瞳を見た。そして考えた。彼はここに連れられるまで、どんな仕打ちを受けてきたろう。そしてこれから売られていった先で、どんな運命が待っているんだろうってね。だけどそんな、センチメンタルな思いが砕け散るような光景を、僕はその日、見ることになったんだ。