・新聞記者S氏の話 〜ある猟奇的少年殺害事件の真相
その1
S氏 :もうかなり前の事件になるが、河原で少年の死体が発見された。その状況がかなり異常だったんで、新聞や雑誌でもちょっとの間騒がれていた。 マスター:異常と言われますと? S氏 :雑誌の見出しによると「生傷全裸両足縛り 河原で少年変死」といった具合だ。私は死体発見現場に行ったんだが、ちょうど橋の影になったようなところで、結構草がぼうぼう生えている。そこの川べりに少年はうつぶせで倒れていた。顔は水に浸かって、両足を突き出す格好で。見出しの通り一糸まとわぬ全裸で、体は擦過傷や打撲で傷だらけ、それも新しいものや古いものが入り混じっていた。そして両足は足首のところでロープで縛られていた。さらに、これは報道されていないが、性交の形跡があった。 マスター:それは・・・異様ですね。犯人は捕まったのですか? S氏 :捕まった。が、それはどこの新聞にも雑誌にも報道されていない。事件のあまりの異様さと、被害者が少年であったことが、報道されなかった理由だろう。 マスター:興味深いですね。 S氏 :ふふ・・・。私はこの事件を追いかけて、完全に解決するところまで真相を掴んだが、それを公開することはできなかった。ここでその話をしようと言うわけだ。 まず、まだこれは報道に含まれていた事件の情報だが、当初から、少年の周辺には「やさしいおじさん」という存在が浮かび上がっていた。 マスター:「やさしいおじさん」・・・ S氏 :少年は、家庭に恵まれていなかった。四年生の時だかに両親が離婚して、母親の元に引き取られたが、母親はすぐに、別の男を家に引き込んで、内縁関係となった。男はかなり若くて、やくざ風の男だった。少年はこの男と全く相性が合わず、男の方でも彼を煙たがって、何かというと暴力を振るっていたらしい。それで、少年は少しずつ帰りが遅くなって、だんだんと家に帰らず、深夜徘徊をするようになった。 母親と喧嘩になって、家を飛びだすとき、「僕にはやさしいおじさんがいるんだ」というようなことを捨てぜりふで残していったことが、事件後の母親の証言で明らかになった。当然、警察ではこの人物の正体を確かめるべく捜査が進められた。一方で、事件間近のある日、事件現場の近くの河原で、しょんぼりとしてしゃがんでいる少年の姿が目撃されている。シャツから出た少年の腕にかなり目立つ傷が無数についていたことも。 マスター:するとその「やさしいおじさん」が・・・ S氏 :結論から言うと、その男が犯人だった。そしてその男は事件に至る数日前までの記録を詳細に残していた。大学ノートに記された日記という形でね。逮捕後の供述と照らし合わせて、かなりはっきりと事件の全容を捕らえることができる。 男は無職の四十男で、資産家の両親を早くに亡くして以来、遺産で食いつないできた人物だ。家宅捜索で、大量の少年の写真やビデオ、雑誌などのコレクションが発見されている。彼は成人してからの人生のエネルギーの大半を、そうした少年趣味のために費やしていたんだ。ある意味、うらやましくもあるが、食わんがために働かなくて言い人間は、破滅に向かっていきやすいのかも知れないとも思う。 それらの写真やビデオの中には、彼が自分で撮影したものも相当数含まれていて、被害者の少年のものもあった。これらの写真も、彼の犯罪の履歴を克明に物語るものといえる。被害者の少年の写真を時系列に追っていくと、当初は単なるスナップに過ぎなかったものがだんだんとヌードになり、きわどいポーズが増えてくる。Tシャツに半ズボンの笑顔の少年が、ブリーフ一枚の裸になり、全裸になり、股を開いてまだ発達しきっていない性器や肛門を大胆にさらす写真となる。自慰行為を連続撮影したもの、男と少年が抱き合っているもの、挿入している場面をセルフ撮影したものや、固定したビデオで撮ったものもある。ただし、このあたりまでは少年の表情は快感や喜びを表現するものではあっても、苦痛や暗さを感じさせるものはない。ところが、時が事件の一ヶ月前くらいに至ると、だんだんと男の「愛情表現」がエスカレートしていく過程が読みとれる。アクロバティックな立ちポーズでの肛門性交。太いディルドによる肛門拡張。手錠や、首輪による拘束、縄を用いた縛りや吊り。男の欲望がエスカレートし、少年の死によってしかとどまることのなかった嗜虐的行為の過程をうかがい知ることができる。少年の表情は暗くなり、苦痛を表すもの、悲しみを表すもの、助けを求めるような哀切なものもあった。 これらの写真を見ると、私の心の中に、この少年に対する何とも言えない愛情が沸き上がってくるんだ。同情じゃない、紛れもない愛情だ。これほど哀しみの表情が似合う少年にかつて会ったことがあるか。変わり果てた死体としか対面していない、写真と、ビデオと、「やさしいおじさん」のノートの中の物語でしか知らない少年に、恋いこがれるんだ。 この哀れな少年は、いったいなぜ、どんなふうにして、男の手に落ちていったのだろうか。 |