#02
処刑の日

 むき出しのコンクリートの壁はそこかしこがひび割れていて、そこから水が染み出している。
 明かりといえば、天井から下げられた石油ランプの炎だけで、その揺らめく光が、壁にもたれ眠るように目を閉じている少年の体を、様々な陰影で彩るのだった。
 両手首は体の後ろで枷にかけられ、両足首も同じく、鉄製の枷で拘束されている。厚い革製の首輪から伸びる鎖は、この地下室の隅に伸びる柱に、固定されていた。身に着けている物といえば、腰の周りのボロ布だけで、それを取り去れば全裸だ。14歳になるのに、見かけは10〜11歳で、性器の周りに発毛はなかった。栄養状態のため、発育が遅れているのだろう。
 栄養状態は悪く小柄だったが、少年はみずみずしく美しい肌をしていた。その肌は、ここ数日の拷問を克明に記録したかのごとく、新しい傷や古い傷で縦横に覆われていた。太股の刺し傷は、もっと古く、鉄屑を拾って路上で生活していた頃、警官に刺されたものだった。
 
 あれから何時間たったのか。殴るのをやめた軍服の男が、少年の公開処刑の決定を告げた。明日、正午、お前は多くの観衆の前で縊り殺される、と彼は言った。それが決まっているなら、なぜ自分を殴るのか、それを聞くことは無意味だと、少年は知っていた。

 黒いローブを着た二人の女が、階段を下り、少年を迎えに来た。あれは、喪服なのだろうか?

 小規模だが、古代のコロシアムのような円形競技場の中心に、処刑台はあった。少年は罵声と、投石が止まぬ中、喪服の女二人に、処刑台に導かれる。

 彼が一体何をしたか。反政府ゲリラに捕らえられ、通信と食料を運ぶ役を強制させられていただけだ。鉄屑を拾っていた時より、少しよい食事にありつけただけだ。

 これが、その報いか。
 絞首台は、よくある底が抜けて一気に首に体重がかかるものではない。少年の首にかけられた縄は上部の滑車にかけられ、そこから伸びたロープを屈強の処刑人の男が引っ張るのだ。通常は二人がかりだが、この小柄な少年を吊り上げるには一人で十分だった。

 観衆の興奮は目に見えるもののごとく伝わる。天に向けた銃声とともに、少年の体は徐々に吊り上げられていく。静かだった心は、急に恐怖に満たされ、苦しみに身を捩り、少年の体はブランコのように揺れて、やがて腰のボロ布は落ち、全裸の少年はまだ意識のある自分を呪った。性器が、むくむくと力を得る。危急に際しての反応だった。酸素が欠乏した少年の脳が、彼にせめてもの、最後の、至福の幻覚をもたらし、その一瞬を通り過ぎて、少年は永久に息絶えた。観衆の怒声の中で。

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