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 点滴は初日を含め二日。次の日からは飲み薬に切り替えた。その日の晩、下半身の処置をしたあと、全部脱がせて光をあててチェックした。皮膚炎や膿は、からだのどこにもなくなった。翌朝、二人して飯を食い、金が外出している間に、昌巳はいなくなった。一週間分の薬の袋も、なくなっていた。
 あちこちを探しまくった金だったが、昌巳の姿はこの街自体から消えていた。
 午後、疲れ果てて帰宅した金は、思わず家のボロ壁を蹴った。
 (バカが……途中でやめたら全部台無しになるかもしれないんだぞ)
 薬を持ち出しているのは救いだ。自暴自棄になってるわけではない。治す気はあるんだ、きっと。
 金は、昌巳の寝ていた布団をも蹴飛ばしたが、その動きで起きた風に、敷き布団の下になっていた小さな紙切れが舞った。
 金は、それを拾い上げた。
 白い横罫の紙きれの、上部の連なった穴は破れ、下部の両端は、茶色く変色して、上に反っている。丁寧な鉛筆の文字で、たった三つの単語が並んでいた。

 先生 ありがとう マサミ

  顔立ちはかわいいが、愛想がよくない、口が悪い、性格が悪い、という客の評判だった昌巳。どんな笑みよりも、たった五文字の彼の誠意が心に沁みた。漢字、ひらがな、カタカナ。三語の書き方の違いが、彼の生きてきた世界を、物語る。金は、紙切れをぎゅっと握りしめた。
 冷たい雨もだけど、暖かい太陽の光も、誰にも平等に降り注ぐ。お前だって照らしてくれるはずだ。どこで暮らしても、どこで生きても。
 金は、昌巳の寝ていた布団を敷き直して、どっかと身を横たえ、しばらくまじろぎもせず天井を見つめていた。

少年の街 金と昌巳 完 

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