合鍵 第1話
俺、健介。十三歳になったばかりだ。 いつになく寒いその日、俺はまたふらっと‘奴’のマンションに足を向けた。しゃれじゃないけど、ふところも寒かったし。そしたら、‘奴’はいなくて、慎太がだらしなくソファに座ってTVを見てるみたいだった。 「あれ、奴は?」 「知らね。来たらいなかった」 「ふうん。何見てんの?」 興味もないけど、何となく会話の継ぎ穂に聞いてみた。 慎太は、俺より一つ年下らしい。この部屋で、偶然出会ったんだ。 俺たちは、時々‘奴’に会いに、ここにやってくる。他にも、何人かいるらしい。実際会ったのはこいつだけだけど。 「俺たち、会ったのも偶然だったし」 「だね、鉢合わせ。どっかん」 慎太が、リモコンを面倒くさそうに押して、TVのチャンネルを変えた。ブラウン管の向こうでは、やたらと媚びがうざったい小学生が変な衣装を着て遊んでいる。俺は何となく立ち上がった。 「あ、ビール取ってきて」 「ああ」 (アル中小学生・・・) と、思いながら、俺は自分の分と二本、冷蔵庫から缶ビールを出して、一つを慎太の前に置き、自分の分のプルタブを引き上げた。プシュ、という軽い音がして、新鮮な泡が染みだしてくる。 大人が酒をどう思って飲んでるのかは知らないけど、別に大していいもんでもない、と思う。別に旨くもないし。でも、酔った状態になると、風呂よりはいい気分かもしれない。目の前で舌鼓を打ちながらビールを味わっている慎太は、オヤジくさい。ま、こいつは自分のオヤジのマネでもしてるんだろう。 「ね、さ」 慎太は俺の顔をのぞき込む。 「あいつ、お前にもいろいろするでしょ?」 「あ? うん」 「入れられたりする?」 「する。痛いからいやなんだけどさ」 ‘奴’は最初先輩の知り合いで、ピンでゲーセンにいた時声をかけられて、一人でこの家に連れてこられたんだ。大人の知り合いとしては、奴はおいしいと思ってた。ゲーム代や飯おごってくれるし、ややこしい先輩みたいにおっかなくなかったし。 この部屋は、ちょっとした天国に見えた。でかいTV、いいステレオ、ゲーム。とりあえず俺らが欲しがるようなものは何でもあったし、奴は何でも好きにさせてくれた。酒やタバコも咎められない。それでいて無理強いもされないし、落ち着けた。いつの間にか、入り浸っていた。 あいつが俺らみたいな子どもを、SEXの対象として見てるっていうことは、何かされる前からわかっていた。噂もあったしね。でも実際、俺自身があいつにどうこうされるようになった頃には、この部屋は俺の生活の一部になってたんだ。 嫌じゃないのかって? 別に、気持ちいいこともあるし、そんなに抵抗ないし。あいつが俺の体欲しがってるうちは、わがまま言えるしおいしい思いもできる。いいんじゃないかと思うよ。ただ、痛いのはイヤなんだけどね。確かに。 ぼーっと考えが宙に飛んで、俺は慎太の次のセリフを聞き逃していた。 「ね、入れてみていい?」 「は?」 「ダメ?」 「何、バカ言ってんだよ・・・」 俺は珍しい動物でも見るように彼を見ていたはずだ。 でも、なぜか結局することになっちゃった。 慎太は、俺の見ている前でいそいそとうれしそうに服を脱ぎはじめた。しょうがねえな。俺も、服を脱ぎ捨てる。 ソファに俺が仰向けに横になると、慎太が体をかぶせてくる。あ、と言って慎太はいったん立ち上がり、小物入れからローションの容器を持ち出してきた。 俺の体に覆い被さる慎太は、俺より一回り小さくて、華奢な体をしている。色白だから、ビールでほんのり体が染まっているようだ。まあ、俺も一五〇ちょいしかないんだけど。 「うれしそうだね」 俺は、小さなペニスの皮をむいてしごき、いそいそとローションを亀頭の先に塗っている慎太に、そう言った。 「だって初めてなんだもん」 愛嬌のある笑顔だ。やっぱ小学生だよな。俺も一つしか変わらないけどね。 目の前で勃起させてる慎太を見ていると、俺のチンポもちょっと硬くなってきたみたいだ。慎太は、まだ毛は生えていない。俺は、申し訳程度に生えてきたところだ。‘奴’に出会った頃はまだ、まったくツルツルだったっけな。 「よし、行くよ!」 「ああ」 「ね、気持ちよかったら声出していいから、ね」 (こいつ、ホントにバカかも・・・) 俺は、それでも慎太の首に手を回した。そして彼が華奢な体を覆い被せ、濡れたペニスを押しつけてくる。 でもねえ。慎太が気分出してあんあんいいながら俺の腹の上で暴れていると、何かかわいいんだけど、俺の気持ちは何となく冷めていった。 (何か、入れられてるってよか、押し当てられてる感じだな) ちっこいからな。‘奴’のが入ってくると、調子によっては痛くて逃げ出したいぐらいだし、それでなくても何か体が壊れそうで、今でも毎回恐い。でも、これはこれで頼りないかな。 (今、眠いっつったら怒るだろうな) 俺の体の上で腰を振る慎太の頭を軽く抱きながら、俺は思った。 その日、結局‘奴’は戻らなかった。二人で奴の悪口を言いながら帰った。寒かった。 奴の部屋の合鍵は、今日もポケットの中にある。 |