合鍵 第4話

  
 僕は功、もうすぐ、中一。今日も、慎太と一緒にベッドにいる。

 慎太が高校生で、僕がまだ小四ぐらいだったと思う。最初に、慎太からSEXらしきものを、初めて教わったのは。

 あの頃、慎太の家は僕の家の斜め向かいだった。小学校の低学年ぐらいから何回か遊びには行ってたけど、たいがいは二人ともてんでに漫画読んでるかゲームしてるか。一緒に遊んでるって感じはなかった。
 何となく、その慎太の部屋に行くことが、僕にとって秘密めいたことになってきたのは、慎太が、僕の真横でオナニーをするようになってからだった。どこから買ってくるんだか、普通の本屋には売ってない「ビニ本」ってのを見ながら、僕に背中を向けて、盛んにあれをこすってるワケ。バカだよね。
 最初は、何をしてるのかもわからないし、興味もないし、何かごそごそやってるなあと思いながらも、自分は漫画を読んでた。でも、何か普通じゃないことやってるのはわかるし、何回目かには気になって、ごそごそ這っていって、慎太の背中から彼の手元を見たわけ。おちんちんの皮を何回もかぶせたり剥いたりしながら、何かハアハア言ってる。独特のあのニオイもする。慎太は僕が見てるのに気づいても、ちらっと僕を見るだけで手は止めないんだ。
 精液が出る瞬間ってのは見てないんだけど、いつものようにティッシュをガサガサ引っ張り出すので、終わったのがわかった。僕は、慎太の背中からごそごそ這っていって、彼が見てたビニ本をすっと持っていった。今までも、別に見るなって言われたことはないんだけど、ことが終わるとすぐ引き出しにしまっちゃうし、今まで自分から見せて欲しいって言ったこともなかった。でも、ずっと見たいと思ってたんだよ。だんだん見たい気持ちは強くなっていってた。
 それは、女の人のおまんこが修正なしで載ってるエロ本だったんだよね。わりと大人向けの漫画雑誌にさ、最初の二、三ページ水着とか載ってるのがあるじゃん。あんなのさえ、見たことあったかどうかだから、けっこうショックだった。気持ち悪いって言った方がいいくらいかな。今でも、ああいうの好きじゃない。でも、その本自体より、何かそれを見ておちんちんをこすっている慎太の方が、僕にはなんか、すごく心に残って離れなかった。
 その夜、僕はお風呂で、慎太のマネをしておちんちんをこすってみた。気持ちよかったのかどうか、よく憶えてないっていうことは、大して気持ちよくなかったってことかな。
 とりあえず、次の日から、僕は毎日のように慎太の家に行くようになった。慎太が「終わった」あと、僕もその本を取って、慎太のマネをして、おちんちんこするんだ。そのうち、コツがわかってきて、けっこう気持ちよくなってきた。でも、セイツウしてないから、精液は出ないし、慎太が味わってる感覚とは全然違ってたんだって今ではわかるけど、でも気持ちはよかった。じわじわ、って体が震える感じ、今では逆に味わえないかも。
 ビニ本の方も、最初に見たようなやつばっかじゃなかった。女の人が、気持ちよさそうに、とか苦しそうにして、エッチな格好してるの見てると、やっぱ何もなしより興奮した。慎太も、僕が来るときは最初から、何冊もそういう本、積み上げておいてくれるようになった。
 僕がしてるのを、慎太が黙って見てる時もあった。
 そのうち、だんだん彼がいろいろ命令するようになった。全部脱いでやれ、とか。お尻の穴見せろ、とか。僕は何でも言うことを聞いた。こわかったわけじゃないよ。全然、こわいと思ったことなんかない。ただ、何か「ヒミツ」に興奮してた気がするよ。

 それが、いつから「SEX」になったんだろう。はっきりした境い目はないんだよね。そもそも、「SEX」って何? とか言い出したら、ちょっとテツガクシャの気分だよね。
 とりあえず、「俺が触ってやろうか」とか慎太が言い出して、僕が「うん」って言って、全部脱いで裸の僕を、慎太が抱きかかえて、僕のちんぽをいじくった。その時は僕も、はっきり気持ちいい、っていう感覚を実感できて、おちんちんの先がじとじと濡れてた。うん、あれはもう、SEXだよね。

 くわえること、入れること。何だかんだで、新しい知識は慎太が仕入れてきて、僕を「実験台」にするんだよね。
 おしり入れるのって、すごく難しいものなのかな。僕らの場合は、あまりにも簡単だったから。
 慎太はエロいよ。どこから持ってきたんだか、中学生の頃からちゃんとローション持ってたもん。
 あれ、好きだったな。はじめての時から気持ちよかった。冷たいローションをお尻に入れるの。何かね、おちんちん入れられるより、その前のあれがいい。

 そんな風にして、慎太が大学に入って、ちょっと離れた町に引っ越しても、僕らは会い続けた。斜め前から、電車で三十分の距離になったけどね。

 でもなあ・・・

 「どうしたの?」
 ベッドでタバコを吸ってた慎太が、たぶんぼんやりしてたであろう僕に訊く。
 「うーん」
 「?」
 「最近、何か変なんだよね」
 「チンポはちゃんと勃つじゃん」
 僕は、相手にしないで続けた。
 「何かね、いつもし終わった後みたいな感じ」
 「何だそりゃ?」
 「何でだろうね。こうして、会って、SEXまでしてるのに」
 慎太はタバコをもみ消して、沈黙する僕の肩を軽く抱いて、囁いた。
 「いっちんもね、大人になりはじめたんだよ、きっと」
 「大人になって、気づき始めたんだ。罪悪感に」

 帰り道、すいた電車の中で、僕は彼の言葉を反芻した。
 
 大人になって、気づき始めたんだ、罪悪感に…… 罪悪感? ちょっと、違うと思う。
 
 僕は、自分が変態だと認めるのがこわいんだ。