合鍵 あとがき

 

 この連作集は前書きにもある通り、藤々京太さんの同名コミックに着想を得て書き始めました。この機にこのへんの事情をもう少し詳しく書き記します。
  コミックは「破邪大星」という藤々さんの旧作コレクションのような同人誌に収められていました。この頃の藤々さんは個人で本を作らず、他の人の本に寄稿する形で活動しておられたようで、 この「破邪大星」自体が、出来合いの本からコピーを取って再現したようなものを多く含み、「それでも藤々さんの作品を残したい」という編集者の思い入れが感じられたものです(この本は藤々さん自身ではなく、K氏というかなり有名な同人作家さんの手による編纂です)。

 藤々さんの諸作が気に入ってしまった私は、手紙を書きました。そうです、メールではありません。紙の手紙です。そしたらなんと、藤々さんから返事が! そして僕の作品を知っていて、某短編がとても気に入っていて、パソコン持ってないけど友人宅からだか、読んだことあると。で、紙でゆっくり読んでみたいと。それで、そのプリントアウトを送ったり、藤々さんがイラストや、昔の同人誌送って下さったりと交流ができました。
 「非ピリン系」を小説化したいとお話させていただき、承諾をもらったあと、破邪大星にすら載っていない「非ピリン系」の完結編二回分の原稿を、送っていただきました。ここに、「合鍵」の軸になる二人の兄弟の話が、載っていました。ある方が、他のパートに比べて、あの兄弟の部分は異質な感じがする、とおっしゃいましたが、弟が兄を監禁して云々、という設定自体は、僕の創作ではなく原作マンガそのままです。

 ラストは、この上なくブラックになりましたが、元々おおむね、こうなる予定でした(もう少しぼかすつもりでしたが。つまり9話で終わるような感じ)。
 話を重層的に絡ませようと考えたのが、結果的には失敗でした。一話完結か、何話かでがらっと人物も変わるようにして、「あいつの部屋」という舞台設定のみ共通にしておけば、もっともっと使えたネタがあったのに、と。そこで本編を兄弟の話を軸に終わらせてしまい、もったいなかったネタは、外伝で、と考えました。その第一弾が、同人誌「灰色の瞳」です。機会があればこちらもお楽しみ下さい。WEBでも、外伝は書きたいと思っています。

 失敗、と書きましたがそれはあくまでも全体の構成上の話で、退廃的な空気感や、僕には珍しい少年の一人称視点、(最終章をのぞき)過激な行為には頼らない、「淡々としていながら濃い」リアルな性描写など、自分なりには収穫の多い作品群でした。

 停滞期の多い連載に長い間おつきあいいただき、ありがとうございました。そして何よりも藤々さま、ありがとうございました。

2007.5.8 とりさん拝