少年の街 チビ玉とジョージ 6

 

 チビ玉の口から、ベッと唾液と混じった精液が吐き出され、あごを伝って落ち、シーツにしみた。
 その口を拭いながら頭を上げたチビ玉の視線が、ほんの一瞬ジョージと合う。そんな気もなく、そんな余裕もあるはずがなかったが、ジョージは自分を責める色をわずかそこに見た気がして、思わずうつむくのだった。

 嗚咽を抑え込んで、すぐにチビ玉もうつむく。男の声は、途中からしか届かなかった。
 「I feelin' good.You are realy nice boy. OK,now You can take a shower...」
 チビ玉の頭を撫でながら、男は穏やかに話しかけていたが、通じなかったのはすぐにわかったのだろう。チビ玉の肩を軽く揺すりながら、ジョージにあごで合図をし、助けを求める。
 「……チビ玉……。チビ玉。あのな、おっさんがもうシャワー浴びてええ言うとるねん」
 ジョージの言葉の途中から、ゆっくりと手をついてからだを起こしたチビ玉は、飛び降りるようにベッドを離れ、床に足をつき、一度もジョージを見ずにバスルームによろよろと歩いていった。小さな尻の谷間から内股に、乾ききらないローションが流れ伸びていて、蛍光灯の光を、鈍くはね返すのだった。

 バスルームのドアが、静かな部屋に大きな響きを残し閉じられる。間もなくシャワーの水音が聞こえた。
  茫然としていたジョージの耳には、やはり男の声は途中からしか届かない。
 「...Now your turn.We have long time till morning...Can you hear me? George?」
 すり寄ってきた肩を引かれ、ようやくジョージはローションのついた自分の指を、チビ玉のアナルに押し込んでいた指をぼんやり見つめていた視線を、男の方に向ける。
 男はソフトにジョージの肩を抱き、うつ伏せにさせた。
 (We have long timeか……ショートやったらもう何とか言うて逃げるとこやったけど、無理やわな……)
 あきらめて男の愛撫に任せていたジョージだったが、男の手指が彼のアナルを撫でさするに及んで、慌てて制止の手を突き出す。
 「Ah,No...You don't fuck...」
 「Yes,that's your job.」
 男はジョージの言葉に言葉を重ねて、それから静かにくどくどと話し始めた。手はジョージのアナル周辺と肩を這い、軽く肉を握る。
 要するにチビ玉のアナルセックスを拒否したのは、当然君が引き受けるということだろう? 朝まで時間がたっぷりあるのに、君たちは他にどんな仕事をしてくれるんだい、と、口調は穏やかであっても、結局は有無を言わせない感じを含ませて言うのだった。
 ジョージは疲れ切っていた。普通は複数で一人の男の相手をすると、精神的にも肉体的にも負担は分散される。気の弱い、この街に慣れない客なら、ペースはこっちのものだ。しかし、ジョージは、チビ玉というこれまでにない守りたい(守りたかった)、何も知らない少年を気遣い、初めての客であるこの大男にすっかりペースをにぎられ、まだ一、二時間というところで、くたくたになってしまっていた。

 力を抜いて、少し足を開き、枕に頭を押しつけて。視界を闇に閉ざす。
 男の指がアナルの襞をしばしもみほぐし、次には、ローションのついた指が、押しつけられ、こすりつけられる。必ずしも不快感とは言い難いその感覚に、ジョージのからだには鳥肌が走り、肩や足首に力がきゅっと入っては、からだを歪めた。

 バスルームのドアが開く音がした。
 欧米人向けにホテルが用意しているバスタオルは、彼らの体格に合わせたかなり大きなもので、チビ玉が肩に掛けると、端が床につきそうだった。

 ドアの音はジョージの耳に入っていたが、羞恥と苦悶を相手に戦っていたジョージにその音の意味がが理解できるまで、少しかかった。
 ゆっくりと枕にこすりつけた首をそちらに向けると、ぼやけたような視界に、凍りついたように立ちつくすチビ玉の姿が見えた。
 (……!)
 ジョージは、わずかだが漏らしていた声を、唇をきつく閉じ、必死に漏らすまいとする。同時に首を、チビ玉と反対に向けた。

 リズミカルに動かしていた二本の指を止め、一度その指を拭った男は、チビ玉に柔らかい笑顔で話しかける。
 「キレイニナッタ? ...You can put on your clothes now...ah...服、ね?」
 (裸だが)自分の襟のあたりに手を添えるジェスチャーを加え、男はチビ玉に意図を通じさせる。

 ちょっとの間動けなかったチビ玉だが、自分の服を拾い、のろのろと身につけた。大した枚数もないのだが。

 男は彼をベッドから一メートルほどの位置に置いたイスに座らせると、「今は友達の番だから」「そこでちゃんと見ていなさい」と英語にジェスチャーを添え、彼が理解したと見て取ると、うつ伏せのジョージの足を開かせ、両膝をその間について、二本指でアナルをならす作業を再開し、また彼の脇腹から手を入れ、下腹部から胸まで、布団との間で手を動かし愛撫した。

 ジョージは泣いていた。理由はわからなかった。というより、ありすぎるほどあったと言っていい。ただ男にもチビ玉にもわからないようにと、枕に顔を押しつけ、声を殺し、顔を見せず、泣いていた。が、男にもチビ玉にも、それはわかってしまっていた。ばれないようにしよう、としていることもあわせて。

 ジョージの腰を男が引き寄せるようにし、少し足を開いた四つん這いにさせられた。頭を、シーツについた肘の間に入れ背中を丸める姿勢。いくら触られても萎えるペニスを、男がローションまみれの手でいじっている。アナルに押し込まれた指が二本、肛門の襞をなぞる指が一本、ぐるぐる回って、ほぐして、その部分を熱く柔らかくほぐしている。
 男が膝を進める。スプリングが軋みベッドが揺れた。逆さの視点から、自分のペニスと男の足は暗がりに見えるが、もちろん男の勃起したペニスと、その行き先は見えない。最初は、先端が押し込まれたのもわからないくらいだった。しかし、亀頭の部分が肛門を目一杯まで押し拡げていくと、鈍い痛みがじょじょに鋭く強まっていき、ジョージは恐怖に姿勢を崩しそうになる。
 軽く肩を叩く男の手。その手が肩を引き寄せ、姿勢を直させる。その直後、男はぐっと一気に腰を突き出し、少年のからだにはあまりに巨大なものを、その竿の半ばまで一気に押し込んでしまった。
 「ぎっ! ぁ!」
 再び本能的に前に逃れようとするからだ。無慈悲にそれを引き戻す両肩に添えられた手。ピストン運動が始まった。
 「Oh. wooh...good!」
 締めつけをむさぼる男。
 男がふと横を向くと、チビ玉はかたく目を閉じうつむいている。
 「Look this! チビ、タマ」
 男は頭を上げた彼に、大く腰を振ってジョージのアナルを突く様を見せつけた。言うことをきかないとこれが終わらない、と伝えたかったのだ。
 「う、く! あ、ぁッ!」
 「……ジョージ……!」
 苦悶の声を漏らすジョージ。心配のあまり、漏らしたチビ玉の声は、彼には届かない方が楽だったのだ。

 大きなグラインドは、ジョージの丸まった背中をも前後させながら、長く続いた。痛みはじんわりと鈍く、時折全身に微電流ような刺激が走るようになる。
 息を殺すジョージの鼻から荒い息。甘い喘ぎともとれるくぐもった呻き。
 チビ玉には、自分がされていた時のことを客観的に振り返ることなどできない。初めての、想像を超えた体験であったからだ。
 古い絵図で見たような男同士の性的な遊戯を、目の前で演じているのは、坊主と小姓とは似ても似つかぬ残酷な対比を持つ大小の肉体だった。チビ玉は何も考えられず、まばたきもしないかと思われるほど目を開き、その光景を見つめ続けていた。歳上の少年と男の息遣いが、リフレインして頭の廻りを駆け巡り、現実感を失わせる。

 「...Now I'm coming...ooooh!hoh!!」

 男が唐突に大きな声を出し、ジョージの腰を抱えてピストン運動を短く速くした。ぐちぐちぐち、というようなローションと体液と粘膜の奏でる淫らな短いビートを、チビ玉は放心して聴いている。
 ジョージは歯を食いしばって悶えた。全身が熱かったのに、今度は氷水でも浴びせられたかのように冷たくも感じる。おかしくなりそうだ。

 男が自らのモノを、ぐいと根もとまで押し込み、腰を細かくひねった。その腰がぶるぶるっと震え、彼のスペルマが腸内で爆発するのを、ジョージははっきりと感じた。これまで、数回程度、中出しされてしまった時は、後にアナル周辺に不快感を感じたり、排泄時に白く濁ったそれを確認することはあっても、出された瞬間など、全くわからなかったが……。

  ――――

 二人が何ら演ずることなく見せた反応と、自らが得たいつもにも増した直接的な快感は、男をいたく満足させたらしかった。
 ジョージにもシャワーを浴びさせ、一度わざわざ服を着せたチビ玉をまた裸にし、二人を両脇に抱いて、時折手指や舌による愛撫を両者に加え、二人にも自分の唇や乳首などにキスや手指の愛撫を求めながら、このあとは穏やかに朝を迎えた。
 ジョージが立てなくなるほどの痛みを臀部に覚えたのは、ホテルを出てからだった。あいにくとバイクで、彼らはホテルに来ていたのだった。

 男は、約束にさらに増して五千円を持たせ、小銭もプラスした。
 チビ玉と二人で目一杯遊ぼう。ちょっと遠くにバイクで走って。それで何もかも忘れればいい。
 ジョージは、朝の冷たくも心地よい風を切りバイクを走らせながら、そう考えていた。腰に手を回し、へそのあたりで小さな手を結んで、しっかりと背中にしがみつくチビ玉が、何を感じ、何を思っているのか、ジョージにはわからなかった。