稚児狂いの庄屋様〜その3


 蔵の中の恐ろしい光景を見せられた虎之祐は、男の仕打ちに耐え続けました。逃げればあの蔵の中の少年達のように、この世の地獄を見せられたあげく死にゆく運命。そして、生き続ける限りは男のおぞましい腕に抱かれ、虐げられる日々がいつまでも続く無間地獄でありました。
 初春の微かに暖かい日差しの降る日のことでありました。雪解けの進んだ庭に、縁側から一枚の戸板が斜めに寝かしかけられ、虎之祐はその上に寝かされていたのでございます。両の手を開き、戸板の上の隅と隅に、巧みに縄を回し、縛り付けられております。体は十分に引き延ばされて、脇のあたりからは肋骨の浮き出るのがうかがわれます。両足もまた、同じく、地に近い戸板の隅に、縄かけて縛り付けられておりました。一糸まとわぬ全裸の姿で、大の字に縛られ、肌寒さに震えていたのでございます。
 栃森は、何か奇妙な唄を口ずさみながら、大小のかめを縁側に並べております。そして、子どもの頭ほどの黒いかめを一つ手に取り、ふたを取りました。
 芳香のようでもあり、微かに腐臭のようでもある、濃い匂いが、かめから立ち上ります。男はそのかめにはけを差し入れ、蜂蜜のような液体を十分に馴染ませると、そのはけを虎之祐の体にはわせたのであります。
 虎之祐は悪寒に震え、自分の胸をはうはけを不安げに目で追います。濃い茶色の粘液が、首筋や脇の下から、全身に塗り込められていきました。さよう、陰部にもくまなく、前にも後ろにも。穴の中にはけが差し入れられた時には、さすがにかすれた高い声で、小さな悲鳴を漏らすのをこらえることができませんでした。
 茶色の粘液の表面がほどよく乾くまで待つと、男は少しおおぶりなかめを手に取り、長い菜箸をそこに差し入れるのです。かめから引き出した菜箸の先には、赤黒い蜈蚣が一匹、うねうねとのたくっています。その虫が虎之祐の白く柔らかな腹に微かに触れますと、「いやっ」という小さな声を、虎之祐は漏らしました。心のうちを大きく表に出すのには、ここに連れられたあの日から、過ごした日々がつらすぎました。
 その次には、小さな赤虫の固まりが、あるいは、足のない巨大などば蚯蚓が、次から次へと、虎之祐の体に乗せられ、のたくる虫どもが粘液をかいくぐり這い回るのです。耐え難い悪寒、恐怖に虎之祐は震え、それでもまた、その彼の小さなまらはむくむくとそそり立ちはじめるのです。
 最初は彼は気づきませんでしたが、虫たちは明らかに粘液の香に導かれながら、ある方向を目指して蠢いていたのです。毒虫どもは、陽の光を嫌い、暗い穴を目指すのです。そこへ導くべく、匂う粘液は体に線を描いていたのです。ある蚯蚓は股の間を割り、蟻の戸渡りを経て、収縮する肛門へ頭を差し入れます。そして小さな丸虫は食いしばる口元へ。長い蜈蚣は二つの熱い息を吐く鼻孔へ。ずるずると少年の柔らかな肉体を這い、本能のままに殺到するのです。
 体を這い回るおぞましいものどもの意志を知るや、虎之祐は縄目が腕や足に食い込むのも構わず力一杯全身を捩り、壊れた笛のようにけたたましく叫びました。
 「助けて、やめてぇ! ご主人様ぁ! いやだぁぁぁっ・・・」
 虎之祐は、戸板が割れるのではないかと思うほど激しく体を震わせます。そうしている間にも感情も知恵も持たぬものたちは、鼻腔に、肛門に、口に、我がちに殺到するのです。
 やがて虎之祐を縛る縄で皮膚が裂け、血がにじみ、虎之祐の叫ぶ声も、だんだんと人間のものではなくなってくるようでありました。
 栃森は、その一部始終を、菜箸を弄びながら、目を細めみとっていたのでありました。
 虎之祐の目の中に白い稲妻が走り、やがて唖のように、口をぱくぱくとさせても何も声を漏らさぬようになり、よだれがだらだらと、虫のたかる口元から流れ出します。股間から温かい湯気が上り、小水が戸板に染み、ゆるんだ肛門から虫たちとともにべとべとと糞が漏れ出しました。
 しかし虎之祐にはもはや恥じらいも悲しみもないのであります。苦痛すらもないかのように、その目は虚空を見つめ漂うのです。

  栃の木 森には近づくな
  子を食う鬼が いてごじゃる
  紅殻 蔵には 近づくな
  手足もがれて 帰れやせん
  鬼に 魅入られ 虎之祐
  あわれ 狂うて 土の下
                                                   (了)