2001年クリスマス企画参加作品
クリスマスに帰る


 雅哉は僕のうちの隣に住む大学生だ。僕が四年生の時に隣に引っ越してきて、しばらくは単なる顔見知りだったんだけど、僕が五年生になって、町のサッカースポーツ少年団に入ってから、急に仲良くなっちゃった。雅哉は、そのサッカーチームのコーチに、だいたい週一回来てくれるんだ。中学校も高校もサッカー部だったらしくて、すごくうまいんだ。太股だってすごい筋肉なんだよ。
 最初顔を合わせたとき、ちょっとびっくりしてる僕に、「よう、悠太じゃないか」って声をかけてくれた。練習の時は明るいけど厳しいコーチで、他の子と比べてひいきしたりとかはしないんだけど、練習終わった後の土曜日の夕方とか、うちに呼んでくれたり、一緒に遊んでくれるんだ。
 僕はなんだか、お兄ちゃんができたみたいでうれしかった。一人っ子だし、夕食の時も一人のことが多いから、隣の家で雅哉と一緒に夕食をよばれたり、いっしょにお風呂に入ったりするの、とても楽しかったよ。おばちゃんも優しかったし。
 雅哉はね、太股やすねにいっぱい毛が生えてる。おちんちんにも、もちろん。僕と比べるとすごく大きいし、皮が剥けてるんだ。僕は雅哉に、おちんちんの皮を剥いてきれいにするの教えてもらったんだ。はじめて剥いてもらった時、痛くてびっくりしたけど、今はお風呂に入るたびに、自分で剥いてきれいにしているんだ。そう言えば誰にも言ってないけど、うっすら毛が生えてきたみたいなんだ。雅哉に一番に教えようと思ってるのに、あいつは遠くに行っちゃった。
 留学だって。ワシントンっていうところ。遠すぎてどこだかわからない。僕が六年生になって、夏前ぐらいに、急に遠くへ行くんだって言い出すんだ。それを聞いたとき、僕はとてもショックだった。雅哉の前では「ふうん」って言ってうなずいただけだけど、うちに帰ってからベッドで泣いちゃった。自分でもびっくりしたよ。
 雅哉がいなくなって、とても寂しくなったけど、いいこともあった。雅哉のおばちゃんは、自分も寂しくなるせいかもしれないけど、僕にとっても親切だった。雅哉の部屋もおもちゃも、何でも使っていいって、僕に言ってくれたんだ。雅哉がそのこと知ってたのかどうか、僕にはわからない。多分旅立つ前に、おばちゃんにそう言ってくれたんだと思うんだけど。
 最初は何だか気が引けた。雅哉がいなくなって一週間目の日曜に、はじめておばさんに言って、部屋に入れてもらった。雅哉のいない部屋は、がらんとして寒かった。六畳かそこらしかないのに、なんだか広い感じがしたっけ。
 デスクと、本棚。ベッドとテレビにステレオ、パソコンも。自分のテレビとステレオとか、鍵のかかる部屋、あこがれだった。雅哉がいないことが寂しかったけど、あいつのベッドで寝ころんで漫画を読んで、ステレオでMDなんか聞いてると、何だか満たされる気がした。アメリカってどんな国だろう。雅哉は何をしてるんだろう。僕のことたまには思い出すのかな・・・そんなこと考えながら、ぼんやりと部屋の天井を見つめていたこともある。
 ある日のこと、僕は何となく雅哉の机の引き出しを開けてしまったんだ。いけないことだってわかってたし、そんなに興味があったわけでもないけど、自分の部屋みたいに何度も出入りをしてると、何だか感覚が麻痺しちゃって、思わず開けちゃった。ノートやグラフ用紙みたいなのが、普通に入っていたけど、それを何となく手にとって、その下にあったスケッチブックみたいなのを引っ張り出したとき、ページの間から何かがばらばらとこぼれ落ちたんだ。床に落ちたのは、写真だった。古いものから新しいものまで、十枚以上。調べたら、もっと挟まってるみたいだ。全部僕の写真だった。僕と出会ったばかりの、四年生の時からあるみたいだった。玄関で撮った写真、サッカーの試合の写真。部屋で二人で、セルフタイマーで撮った写真。お風呂上がりのタオルを腰に巻いた写真まであった。
 僕は何となく、胸の奥が暖かいような、逆に締め付けられて苦しいような、不思議な気持ちになった。僕が知っている以上に、雅哉は僕のこと、思ってくれていたのかも。そう思った。
 次の写真。僕がふとんで寝てる。この部屋に泊まったとき、雅哉が撮ったんだ。僕が知らない間に。次の写真を見て、僕は「あっ」と声を上げそうになった。間違いなく同じ時の写真だ。ふとんが捲られて、僕のパジャマのボタンがはだけられている。パジャマのズボンとパンツが膝まで下ろされて、僕のおちんちんが上を向いているのが写っている。お尻と、おちんちんと、僕の寝顔がアップになった写真が、一枚ずつあった。僕は、他に写真がないかと思って、スケッチブックを開いた。胸がどきどきして、顔が熱くなってる気がした。
 スケッチブックの一枚目は、正面を向いた半ズボンの男の子。顔のアップのラフなスケッチも添えられている。僕は、震える手で次のページをめくった。サッカーのユニフォーム。背番号も添えられてるから間違いなかった。何となく漫画化されていて、とても似ているとは僕には思えなかったけど、この絵のモデルは僕なんだ。次のページ。絵の中の僕は、全裸で膝を立てて座り、両手を頭に添えて、ちょっと上を見ている。心なしか、悲しそうな顔をしているように見える。
 僕は、勢いよくスケッチブックを閉じて、部屋を片づけるのも忘れて、雅哉の家を飛び出して、自分の家に駆け込んだ。ふとんに突っ伏して、僕の見たものの意味を考えた。最初、写真があるのを見たときは、僕のこと、好きでいてくれたんだと思って、うれしかった。でも・・・僕に、あんなことをして、あんな絵を描いて、雅哉・・・雅哉の気持ちが、僕にはわからなかった。その日の夜、僕は寝床で、ずっと眠れなかった。悲しいんじゃなくて、なんだか動揺して、涙が出て来ちゃったよ。
 次の日僕は、学校から帰るとすぐ雅哉の家に行った。幸いおばさんは家にいて、僕をすぐ入れてくれた。部屋の床にスケッチブックが出したままだった。おばさんに見られたら大変だ。僕を迎えてくれた様子では、まだ大丈夫みたいだった。
 部屋に飛び込んだ僕は、床に置いたスケッチブックを手に取ると、最初片づけようとしたんだけど、やっぱり座り直して開いてしまったんだ。昨日見たページをさっとめくってしまうと、まだ見ていないページをむさぼるように見た。
 絵の中の僕は、全裸で、大の字になって、ベッドに縛り付けられている。体中に汗のような滴が飛んでいる。次のは、首輪をして、鎖でつながれて、犬のようにしゃがんで、僕は何か太いものをくわえている。くわえているものははっきり描いてないけど、僕にはそれが何だか想像できた。
 体が熱くなる。僕は、自分の股の間が、異様に痛いのに気がついた。きちきちしたデニムの半ズボンの中で、僕のおちんちんが堅くなって、膨らんでいる。僕は体の変化に戸惑ったけど、本能的に、それをズボンの上から握った。
 僕は後ろを振り返って立ち上がり、ドアの鍵をかける。これで、誰も来ない。僕はズボンを下ろして、パンツの上からおちんちんを握った。何となくふとんの中やお風呂で、おちんちんを握ったことはあるし、それがちょっと気持ちいいのも知っていた。けれど、今味わっている感覚は、それとは全然違っている。おちんちんから頭の芯まで、何か熱いものが通り抜けて行くみたい。パンツが濡れて来ちゃった。僕はパンツを下ろした。自分でもびっくりするぐらい、おちんちんは堅くなって上を向いて、皮のめくれたおちんちんの先は、てらてら濡れて光っている。何も考えず、右手の動きを激しくしていった。そして急に、むずかゆさが強烈になったような感覚が体を貫いて、僕のおちんちんの先から、熱くてぬるぬるした液体がびゅっ、びゅっ、って吹き出した。その後は体の力がすーっと抜けていく。
 はっと気がつくと、僕の手と太股と床が、白い濁った液で汚れていた。僕は慌ててティッシュを探した。何となくゆるんだおちんちんを握ったままで。床がフローリングで良かった。変なしみが残ったら大変だもの。僕は自分の「精液」を後始末して、きれいにふき取って、丸めたティッシュをゴミ箱に捨てた。後で自分でゴミ袋に入れなくちゃ。何だが変な匂いがするから、このままじゃ、おばさんにばれてしまうかもしれない。
 しばらくぼんやりした後、僕はスケッチブックと写真を引き出しにしまい、その日は家に帰った。次の日から、僕が雅哉の部屋ですることは、以前と全く変わってしまった。僕は、雅哉の部屋の引き出しや本棚を漁って、いろんなものを探し出したんだ。人の部屋でそんな、泥棒みたいなことを。でも僕には、その権利がある気がした。絵の中で僕をあんな風にした雅哉の部屋だから、僕は隅々まで秘密を知る権利があるんだって。こんなこと言ったからって、雅哉に対して腹を立ててたわけじゃない。そんな気持ちは全くなかったよ。
 引き出しや本棚からは、いろんなものが見つかった。スケッチブックがもう二冊。全部が全部僕がモデルじゃないみたいだけど、とにかく、男の子がいやらしいことや痛いことをされているものばかりだった。写真の入った雑誌もあった。こんなものがあるなんて夢にも知らなかった。男の子の水着や裸の写真が載っている。これも一種の「エロ本」だって、僕にもすぐわかった。小説も載ってるみたいだったけど、僕にはちょっと難しいものが多かった。でも、今まで知らなかったいろんな言葉や、何て言うか、「やり方」をそんな本から覚えたんだ。僕はそんな、「エロ本」やスケッチブック、時には自分の写真を見ながら、この部屋で「オナニー」した。目を閉じると僕の頭の中には、裸の僕と雅哉がいた。
 
 そして、秋も深まったある日のこと、例によって雅哉の家に行くと、おばさんがにこにこしながら僕に声をかけてくれたんだ。
 「雅哉、帰って来るって。昨日電話があったのよ。クリスマスイブに帰るんだって。クリスマスプレゼントにアメリカ土産を買って帰るから、悠太に楽しみにしとけって伝えてくれって言われたのよ。私も寂しかったから、うれしいわ・・・」
 おばさんは幸せそうに、何かを話し続けていたけど、あまり僕の耳には入っていなかった。雅哉が帰って来る。雅哉に会える。僕はそう考えただけで、股間がむずむずしてくるぐらいだった。
 クリスマスに向けて、僕は雅哉を迎える準備をした。雅哉に僕からプレゼントをするんだ。僕は、その日に向けて、着々と準備を進めた。雅哉のパソコンの「お気に入り」には、いろいろなエッチな(もちろん男の子の)ホームページや、ポルノショップへのリンクが残っていた。それが小学生の僕を助けてくれたんだ。僕は夢中で買い物をした。お金が足りないかも知れないけど、そのことはあまり考えなかった。プレゼントなのに変な話だけど、足りないお金はきっと雅哉が出してくれるはずだと思えたから。
 品物が、白い段ボールで次々に届けられた。僕は、ネットの中では二十一歳だった。箱の中味をリュックサックに移し替えながら、僕はイブの夜のことを思った。品物の中には、ちょっと試したい誘惑にかられるものもあったけど、使わずにリュックに詰めた。これを使うのは雅哉なんだ。後は、手紙だった。
 クリスマスイブの夜七時、夕食を終えた僕は、雅哉の部屋に向かった。雅哉が家に着くのは、八時頃のはずだった。僕はきれいに片づけたデスクの上に、手紙を置いた。なるべくしゃれた封筒を探してきたつもりだった。僕はデスクのスタンドライトだけをつけ、部屋の蛍光灯を消して、雅哉の部屋を出た。
 外に出ると、木枯らしがひゅうっと吹いて、僕は思わず縮み上がった。僕は家から歩いて行ける、小さな駅前繁華街のはずれにある、工事現場を目指していた。工事も中途のまま、テナントが入らずに放置された三階建てのビルがある。もちろん人は入れなくなってるんだけど、工事用の囲いの壁の一部が、簡単にはずれるようになっている。僕の学校の、ちょっと悪い友達が、勝手に細工したんだ。僕とそいつを含めて、五人しか知らない秘密の場所だった。時々ここに集まって、その友達が親からくすねたエロ本をみんなで見たり、たわいもない悪さをしたりする場所だったんだ。もちろんこんな夜に、小学生の誰かかがここに来るはずはなかった。
 人目のないのを確かめると、僕は塀の板を持ち上げて、さっと中に入った。ビルは床も壁も、コンクリートがむき出しのままだった。月が意外と明るくて、持ってきた懐中電灯は無くてもよかったくらいだ。
 雨露に晒されたサッシ戸から、建物の中に入り、僕は重いアルミのドアを開けて、一つ奥まった部屋に入る。表がお店で、ここは事務室にでもなる予定だったんだろう。隣に比べて、この部屋は窓も小さく、暗くて湿っぽい。月明かりが窓から差して、長い陰を床に投げかけている。
 僕は、窓から遠い方の角へリュックを置いて、その横の冷たい床に腰を下ろした。リュックを開き、中の物を引っ張り出して並べる。白いロープに、赤い低温ろうそく、鉄の鋲を打った黒い皮の首かせ、手かせ、足かせ。口にはめるゴルフボールのような玉に革ひものついた器具、何て言うんだっけ。肌色のアナルプラグ・・・結局試すのはやめた。ピンク色のローションのボトル、これも指にとってみただけだ。卵の白身みたいだった。
 僕は腕時計を床に置くと、ジャンパーを脱ぎ、万歳をしてセーターも脱ぎ捨てた。冷たい空気が首筋に触れる。シャツのボタンに手をかけた。上半身裸になると、急に全身が寒さに総毛立った。少し自分の体を抱くようにして手でさすったけど、すぐに、ベルトに手をかけた。黒いベルトを引き抜く。半ズボンのボタンを外し、パンツと一緒に一気に膝まで下ろした。普段隠された場所への冷気が僕を不安がらせ、同時にどきどきさせた。靴と一緒にズボンとパンツを脱ぎ捨てると、僕はソックスだけの裸になった。僕は、リュックに手を伸ばした。一番底に、濃い赤色の大きなバスタオルが入っている。僕は、それを拡げてマントのように体に巻き付けた。急に体が温まるような気がした。
 懐中電灯を消し、全ての準備が整った。僕はタオルの中で体を丸めて、息をひそめる。月明かりに、僕の吐く息は白い。湿ったコンクリートの床からは、むき出しのおしりに、しんしんと寒さがしみわたって来る。僕のおちんちんはほのかに熱くなって、先の方が濡れてきているのがわかった。
 やがて、僕は何かを感じて、アルミのドアに目をやる。敏感になった僕の耳に、こつ、こつ、という音が聞こえてくる。ぼやけた感じから、だんだん現実味を帯びた音になってくるにしたがって、僕の心臓は破裂しそうなぐらい、高鳴っていた。乾いた足音が止まる。そして、ドアノブをひねる、ガチャリという音がすると、僕の全身に戦慄が走った。


あとがき


 さて、2001年クリスマス企画参加作品ということで、けっこうノッて仕上げた作品です。
 この作品についてはちょっとだけうんちくを傾けさせて下さい。とってもうらやましい大学生雅哉へのクリスマスプレゼントを誠心誠意考える小六の男の子の物語。全てが悠太君の視点から進むところが一つの趣向です。文体については、子どもの独白っぽい部分と大人っぽい情景描写をないまぜにして、大人になった彼が過去を回想しているのか、現在進行形の少年の心理描写なのか、微妙な感じに仕上げてみました。
 もう一つのポイントは結末です。あえて書かないところがミソ。ちなみに、僕の中では大きく二つのパターンが思い浮かびます。一つは、すんなり雅哉が現れ、そのまま淫靡かつラブラブな交わりが交わされるといもの。今ひとつは、全く別の変質者が入ってきて悠太を陵辱、後から来た雅哉が息を殺してその一部始終を見届け、扉の陰で果てるというもの。これには、もっとバリエーションが考えられそうです。あなたなら、どちらがお好みでしょうか。