夜想倶楽部〜第一章 絶望の始まり
太郎は、眠れなかった。三畳ほどもない小さな部屋には、はめ殺しの小さな窓が一つきり。電灯はなく、その窓から差し込むかすかな月明かりだけが、太郎の顔を照らしていた。天井はシミだらけで、畳の床はたわんでいた。太郎は端のほつれた毛布にくるまって、ぼんやりと天井のシミをみつめていた。 車から降ろされたのは、古い洋館の門前だった。太郎は、こんな建物を見たことがなかった。何か昔絵本で見た、吸血鬼でも出てきそうな建物だった。実体は古ぼけたアパルトメントにすぎなかったが、太郎には得体の知れぬ大きな洋館に見えた。太郎の手を引く男どもはほとんど口をきかず、太郎も二人の顔をかわるがわるに見上げながらも、口を開くことができなかった。 天井の高い大きな部屋に引き入れられると、そこには黒い背広や和服を着た男たちが六、七人、後ろに手を組み、姿勢を正して立っていた。部屋の中央にはテーブルが一つ。そして椅子が四脚置かれている。太郎の真正面には、白髪の男が両肘をついて、椅子に腰掛けていた。黄色い明かりの下、初めて見る白髪の男は、頭髪や眉のの完全な白さに似合わぬ若い表情をしていた。見ようによっては三十台とも見えないことはない。太郎はたじろいで後ずさりしそうになったが、男にしっかりと手を握られていて、かなわなかった。 「かけなさい」 穏やかながら威圧のある声で、白髪の男は言った。太郎はおずおずと椅子に腰掛けたが、床に足が届かなかった。 「太郎君。君に大切な話がある。しっかりと聞きなさい」 相変わらずの穏やかな調子、太郎はつばを飲み込み、うなずいた。 「実は、君のお父さんは、私たちに借金をしていた。そのことは知っていたかね」 「・・・お金?」 「そう、たくさんのお金を借りていたんだ。そして、いつまでたっても返してくれないんだよ。それでおじさんたちも困ってしまってね」 「おとうちゃんは、ウソをついたりしないよ」 周りの男たちに、複雑な笑みが広がった。 「もちろんそうだろうとも。しかし、お父さんは返したくても、返せなくなったんだ。仕事がうまくいかなくてね。でも、それでは私たちも困ってしまう。そこで、君に助けてもらうことになったんだ」 「ぼく・・・?」 半ズボンの素足を揺さぶりながら、戸惑いがちに太郎は聞き返した。 「そうじゃ。お父さんのかわりに、君が我々の元で、借金が返せるまで働いてもらう」 「ぼく、工場で働いているよ」 「工場の稼ぎじゃ足りないんだ。私のところなら、君はもっと稼げるんだ。だからね」 「・・・・・・」 「もし君が断ったら、お父さんは大変なことになる」 「大変って?」 「死んでもらうことになる」 沈黙。そして太郎は少し大きな声で言った。 「おとうちゃん、殺されちゃうの?」 「そうだ。お金を借りたら、それなりの責任がある。返さなければ、約束を破った、それなりの償いをしてもらわなければならない。気の毒だがね」 太郎の目は涙に潤んできた。 「・・・お願い。おとうちゃんを殺さないで」 「だからね」 「お願い。ぼく一生懸命働くよ。何でもするからお願い」 それを聞いて、白髪の男は笑みを浮かべた。太郎には自分の言葉の意味するところは全くわかっていなかった。 「太郎君、君はえらい子だ。がんばるんだよ。さあ、この男に部屋に連れて行ってもらいなさい。今夜はもう遅い。今日は眠って、明日から頑張ってもらうからね」 太郎はにっこりと笑って、椅子を飛び降りた。白髪の男のそばにいたいかつい男が、彼に歩み寄った。 二階に導かれて、きしむ階段を上り、部屋の前に立った。いかつい男は、背後から音もなくついてくる。やがてペンキのはげた木製のドアの前に着いた。 「ここだ」 ドアノブを握って男が言った。太郎は、先ほどから思っていたことを、思い切って口に出した。 「あの・・・」 「何だ」 「おとうちゃんには、会えないの?」 「・・・そうだな。借金が返せるまでは、お前はここで暮らすんだ。外には出られない。逃げられたら、困るからな」 「ぼく、逃げたりしない」 「どうかな。とにかく父親にあったら、ここに戻りたくなくなるだろう? だからだめだ」 有無を言わせぬ調子に、太郎は一言も返せなかった。 絶望的な宣言に、実感がわいてきたのはこの粗末な部屋に横たわってからだった。 「おとうちゃん・・・」涙が止めどなくわいてきた。「僕、どうなるの?」 誰もその問いに答えてはくれず、その答えは太郎の想像の及ぶところではなかった。めくるめく思いに沈みながら、月明かりに照らされていると、それでも彼はいつの間にか、眠りに落ちたようであった。 翌朝目を覚ましたのは、枕元に朝食を置かれたときであった。頭の横にカチャリと盆を置かれて、初めて彼ははっと目を開いたのであった。体を起こしたときはすでに、朝食を運んだ男は背を向けて部屋を出るところだった。 「あの・・・」 「食べ終わったら、廊下に盆を出しておけ」 男は振り向きもせず言い捨てると、ふわりとドアを閉めて、部屋を出ていった。 朝食は、パンとミルクと、ベーコンらしき物だったが、太郎はいずれも口にしたこともなければ、見たこともなかった。不思議な綿のような白い固まりと、白い液体。太郎はしばらく不思議そうにそれらをながめていたが、パンを一切れ口にすると、勢い込んで、次々に口に運んだ。なんておいしいんだろう。そしてこのほのかな甘さの広がる白い飲み物。彼はつかの間の幸福に浸りながら、パンを口いっぱいにほおばった。満腹の幸福を味わえたことは、数えるほどしかなかった。昨日の晩と、そして今。また彼は、父親のことを思いだしてしまった。 小窓から差し込む日差しが少しは明るくなった頃、廊下にどやどやと足音が聞こえ、ドアが開かれた。そこには四人の男が立っていた。昨日家に押し掛けた、白髪の男を除く四人である。 大柄の男が、口を開いた。 「おおい、起きろよ。風呂に入れてやるぜ」 太郎はあわてて立ち上がった。そして男たちに連れられていく。階下の浴室の脱衣場は、普通の銭湯ほどはなく、四人の大人と少年がいると手狭だった。だが、内風呂などまずない時代のことである。太郎にとっては建物の中にこんな大きな浴室があること自体驚きだった。それこそ、一軒家が風呂屋をかかえているようである。 「さあ、服を脱ぎな」 太郎は四人の男にちょうど対角に取り囲まれて、とまどった。 「あのう、ぼく・・・」 「いいから、さっさと脱ぐんだ」 「ぐずぐずするな!」 四方から脅すように声を浴びせかけられ、太郎は仕方なくシャツに手をかけた。シャツをまくり、万歳をすると、やや朱に染まったような白い肢体があらわれ、柔らかながら、肋骨の浮かぶ華奢な胸が四人の目にさらされた。太郎はシャツを脱ぎ捨てた後初めて、自分を射る異様な視線に気づいた。裸になることをそう恥じらう発達段階にない太郎だったが、初めて体験する異様な視線のシャワーに、体が熱くなるのを感じた。下穿きを脱ぐのがためらわれたが、四人の男が恐ろしかった。ズボンに手をかけ、のろのろと膝までおろすと、まだ未発達のつぼみのような性器があらわになった。 男たちはニヤつきながら互いに目配せをして、ひそひそ言葉を交わしている。 「お前、抜けがけすんなよ」 「やはりここは俺が・・・」 「馬鹿野郎てめえ」 「ここはやはり公平にだな・・・」 太郎には何のことやらわからず、男たちの顔を見上げて、口を開く。 「あの・・・」 「おお、よしよし。とりあえず入るとするか」 男たちはするすると丸裸になり、太郎の背中を押して、浴室に入った。湯気の中に、ちょうど四、五人は入れそうな木製の湯船があり、たっぷりのお湯が沸いていた。洗い場は広く、しっかりタイル張りがされている。 「さあて、じゃあ、始めるとするか」 何を始めるというのだろう。男たちが太郎をとりかこんだ。 「まずは、ここに四つん這いになりな」 「え?」 「四つん這いになるんだ」 「あの・・・」 大柄の男の手の甲が一閃して、太郎を殴り飛ばした。太郎は、何が起きたかわからないうちにタイルの床に投げ出され、壁まで転がっていった。 「いつまでもボオッとしてんじゃねえぜ!」 声を荒げる男と、ニヤニヤ笑う、三人の男。 「相変わらず、過激だねえ」 「もおちょっと、やさしく扱ったらどうなんだ。仕入れ早々の新品なんだからよ」 太郎は、耳を押さえて体を起こした。涙をこらえながら、膝をついて、四つん這いになった。耳が痛い。ほおもジンジンとしている。 「よおし、いい子だねえ。もおちょっとこっちにおいで」 やや太りじしの、小柄な男が猫なで声を出しながら太郎のそばにしゃがみ、腕をつかんで言う。洗い場の中央に犬のように這い進んだ太郎の身体、四人の無遠慮な手が蹂躙し始めた。 頬をさすり、背中をなで、尻をまさぐり、つぼみの性器をつかむ。太郎は、真っ赤になって歯を食いしばり、うつむいていた。 「ふふふ、まだ勃たねえんだろう。いつか俺がイカしてやるぜ」 「たまらんねえ。うまそうな身体だ。どうやって順番を決めるよ」 「コレさ。フェアに行こうぜ」 入れ墨をした三十ぐらいの男が、サイを振る手つきをした。 「いいだろう。今度は負けねえ」 「どうだか」 一番若い男が、人差し指を太郎の小さな肛門にすべりこませた。 「あううっ」 太郎は思わず身体をのけぞらせる。 「やめて・・・お願い・・・」 だが男たちが太郎の声に耳を貸そうはずもない。 「てめえ、ずるいぞ。俺に貸せ」 男たちは次々に肛門に指をねじ込んで、太郎の苦悶に構わず、いやむしろ、それを楽しみながら、快哉の声をあげていた。 やがて彼の身体が延々と続いた手指の蹂躙から解放されると、太郎は仰向けに横たわり、放心していた。彼の周りに四人の男が集まると、太郎の目にはそそり立った四人の性器が飛び込んできた。太郎は、このような男の性器を見たことがなかった。大人の性器を見たことがあっても、それは銭湯や家での父親のもの。このように怒張したそれは、太郎の目には異様な恐怖を与える物として映った。やがて四本の性器から、白い液体が交互に飛び出し、太郎の腹や、顔や、股にかかった。ねばねばとして、暖かい。 「今はここまででガマンガマン」 男たちの哄笑を遠くに聞きながら、太郎は放心して、ただじっと横たわっているだけだった。 |