〜整備中にて〜
激しい戦闘が終わり、各々自分の機体を置く戦艦へと帰っていく。
戦闘後は直ぐにでもシャワーを浴びてベッドに潜り込み
何も考えず眠りに尽きたいというのが本音だが、
戦争中というご時世の中ではそうもいかない。
整備の人たちがある程度の整備はしてくれるとはいえ、
人が足りないのは事実である。
整備班だけではとてもではないがすべての機体を最初から最後までチェックできないので、
各々自分の機体は自分で整備する、と言うのが暗黙の了解でありルールである。
本音を言えば人手不足のほかにいつ敵とまた出くわすか分らないのも戦争中の悲しいところ・・・
いざと言う時、まだ整備が終わってないので出れませんでは洒落にならないので
仕方なしに自分で整備しているとも言える。
どうしても分らないところと、最終チェックは整備班の仕事・・・といったところか。
アラド・バランガ曹長がやっとの思いで機体の整備を終える頃には
大抵のパイロットは整備を終えてしまっている。
だからと言ってアラドが特別に手が遅いと言うわけではない。
ただ、毎回避け損なって損傷が激しいので人より少しばかり整備に時間がかかってしまうのだ。
そんなアラドの整備を手伝ってくれたり、終わるまで格納庫で待っていてくれる人が2人いる。
1人は『スクール』時代より家族のように過ごしてきた少女ゼオラと、もう1人は・・・
「・・・クォヴレー、お待たせ!」
「・・・・・」
「?」
アラドはもう1人の待っていてくれる人、クォヴレー・ゴードン少尉に
いつも待っていてくれる場所、ビルガーとディス・アストラナガンの間においてある大きな箱
(中には整備の道具がいっぱい入っているので人1人は余裕で入れる大きさ)
に向かって声をかけた。
しかし今日は返事がなかった。
実は今日のアラドは何時もにも増して敵の集中砲火をあび
機体の損傷が激しかった。
そのためいつも以上に整備の時間がかかってしまったのだ。
「(オレがあんまり遅いんで怒って返事してくれないのかな?)」
クォヴレーにかぎってそれはあまり考えられないが・・・・
というのも彼はあまり感情を表に出さない・・・
アラドがバカをやっても怒るのはもっぱら相方のゼオラで彼はその様子を
黙って静かに見守っている・・・少し困ったような顔で微笑みながら・・・
でも人には『堪忍袋の尾』というものがあるし、
毎回毎回こう遅いのではいい加減切れたのかもしれない、と
アラドは恐る恐る箱の後へ歩み寄った。
今日は、ゼオラは早くシャワーが浴びたい!
(アラドのせいで援護防御したり援護攻撃したりハラハラさせられたりでいつも以上に汗をかいたらしい)
とかでさっさと行ってしまったので待っているのはクォヴレーだけの筈。
「クォ・・・クォヴレー・・?お待たせ・・・」
「・・・・」
相変わらず返事はなかったが返事のなかった理由は直ぐに理解できた。
アラドの整備の時間がかかったというのもあるが、彼もまた今回は
アラドを援護防御したり援護攻撃したりでいつも以上に疲れていたのだろう・・・
箱を背もたれにしてスヤスヤと眠ってしまっていたのだ。
「(め、珍しいな・・・コイツが人前で寝るなんて・・・)」
アラドの言うとおり、彼、クォヴレーが人前で眠るということはほとんどない。
記憶がないというせいもあってか、警戒心が強い。
人前では泣いたりしないし、弱音もはかない・・・ましてや一番無防備になる行為、寝ると
いう事は絶対といっていいほどしないのだが・・・
ゼオラと2人、もう少し自分達に弱い部分を見せてくれてもいいのに・・・と
密かに言っていたりもするのだが。
アラドは眠るクォヴレーをジッと見つめた・・・
「(・・・クローンか・・・こいつも最近いろいろあって大変だったよな)」
アラドは1歩彼に近づく。
「(・・・綺麗な顔・・・色も白いし・・・髪もオレと違ってやわらかそうだ・・・)」
アラドは更に1歩彼に近づいた。
「(・・・睫毛・・・長!!!ホント・・・コイツって・・・)」
クォヴレーと向かい合うように腰を下ろす。
「(・・・髪・・・触ってみたい、な。ちょっとだけ・・・触ってみようかな・・)」
アラドが手を伸ばした瞬間・・・
「あらぁ〜アラド君、整備終わったの?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
急に声をかけられビックリしたアラドは思わず大声を上げてしまった。
「・・・う・・・ん・・・」
「(げ!!起しちまったか!?)」
クォヴレーを見てみると、大声に身じろぎはしたもののまだ眠っているようである。
「(ホッ・・・よかった)」
「何よ!いきなり大声上げて!!ビックリするじゃない!!」
「・・・ビックリしたのはこっちッスよ!!いきなり背後から声かけないでくださいよ」
くるりと振り向けば、そこにはエヴァチームと葛城ミサトが立っていた。
「・・・なんであんなにビックリしたの?」
碇シンジがもっともな質問を聞いてきた。
「え!?」
「あんた・・・なんかやましいことでもしてたわけ?」
アスカ・ラングレーがそう言うと、ミサトが面白そうに・・・
「エロ本でも発見して見てたとか〜??」
「ち、違いますよ!!オレはただクォヴレーが昼寝してるから珍しくて・・・!!」
「え!?クォヴレーが?」
「昼寝〜??」
「うっそん・・」
アラドの言葉が信じられない3人は一斉にクォヴレーに目をやり
声を揃えて言った
「「「本当だ・・・」」」
「・・・珍しいわね・・・彼、決して人前で寝たりするタイプには見えないわ」
「人のことはいえないと思うけど・・・綾波だってそうなんじゃない?」
「・・・私?・・・そう・・・そうかも・・・」
「その前に優等生は昼寝なんてしないわよ!!」
エヴァのパイロット3人がそんな話をしているとミサとは更にクォヴレーに近づいていった。
「葛城さん・・・どうしたんスか?」
「やぁ〜だ!アラド君!!ミ・サ・トってよ・ん・で!!」
「・・・は・・・はぁ?・・・」
「ミサトさんの言う事は気にしなくていいよ」
「わかったっす・・」
「なぁによ、シンちゃんてば・・・」
ミサトは腰を下ろすと、マジマジとクォヴレーを見つめた。
「レイ・・・ほどではないけど・・・色白いわね〜・・・睫毛長いし・・・」
「はっ。男の癖に色白で睫毛長いなんて最低ね!!」
「・・・アスカ・・・悔しいの?」
「なんであたしが悔しがらなくちゃならないのよ!?馬鹿シンジ!!」
「・・・いや・・・だって(そんな感じに聞こえたから・・・)」
アラドが2人の漫才コンビ(?)を面白そうに見ていると
ふとおもむろにミサトがポケットから何かを取り出した・・・
「?葛城さん・・・何ですか・・・それ?」
「ん〜?これ〜?く・ち・べ・に」
「口紅!?」
「私にはちょっちこの色子供っぽいのよね〜・・・でもこの子になら似合いそう・・・」
「か、葛城さん!!クォヴレーは男ッスよ!?」
「これだけ美人なら問題ないっしょ?ね〜?シンちゃん?」
「ぼ、僕にふらないでくださいよ!!」
するとミサトはクォヴレーの唇にその口紅を塗った。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「あら〜・・・これは予想以上に映えるわね〜」
「・・・本当だ・・・違和感ないね・・・」
「ええ・・彼、似合っているわ・・」
「く、悔しいけど・・・似合ってるわね・・・」
「(・・・クォヴレーお前・・・似合いすぎだ・・・)」
ミサトが塗った口紅は、スカーレットでもなくローズでもなく・・・薄ピンクのルージュ・・
クォヴレーの白い肌にはよく映える色だった。
「おーい!エヴァチーム!!ちょっと来てくれ〜!!」
「あら!お呼びね。ンジャねアラド君!!」
エヴァチームとミサトは整備の人に呼ばれ自分達の機体の下へと帰っていく・・・
その場には、アラドと・・・今だに眠るクォヴレーだけが取り残された。
「ん?」
アラドはかがむとそこには先ほどの口紅が落ちていた。
「(・・・葛城さん・・・落としていったのか・・・届けるか)」
口紅を届けに行こうと立ち上がろうとした瞬間、アラドの目にクォヴレーの唇が目に入った・・・。
そしてもう一度マジマジと彼をみる。
「(本当・・・違和感ないな〜・・・口紅なんかつけてると・・・誰かに襲われちまうぞ?
・・・例えば・・・・オレ・・・とか・・・・!!!!!)」
からんっ
アラドは手に持っていた口紅を落とした・・・・
自分の考えたことに驚いて・・・
「(オレ・・今何考えてた!?)」
クォヴレーを見れば・・・何の警戒心もなくスヤスヤ眠り続けている・・・
口紅の魔法か・・・・
普段だったら絶対にそんな事はしない筈なのに・・・
口紅が悪かったのか・・・
アラドは、クォヴレーに自分の顔を近づけると・・・・
「ん・・んん・・・」
「!!(ヤベ!!起きた?・・・・ホッ・・・起きないや・・・っておい!!
オレ今何した!?クォヴレーに何したんだよ!?)」
「アラド君!」
「ひぃ!!」
「あら、またまたゴメンね〜。口紅落ちてなかった?」
「・・・か、葛城さん・・・落ちてましたよ・・・はい」
「ありがと・・・!」
「?何スか?」
ミサトはアラドの顔と眠るクォヴレーの顔を交互に見ると、
ニマッと笑ってこう言ったのだった。
「・・・意外と、手が早いのね〜・・・」
「へ!?」
「でも、無理強いは良くないわよ?あと送り狼ならぬ眠り狼もね」
「眠り・・・狼?」
「眠っている相手に手を出すのは、紳士じゃないでしょ?」
「!?」
「・・・口紅・・・ついてるわよ?」
ミサトはアラドの唇を指すとウインクしながらその場を後にした・・・
クォヴレーを見れば綺麗に口紅が落ちている。
アラドは自分の口をゴシゴシしながらしばらくその場に立ち尽くしていた・・・
「・・・ん?・・・アラド?終わったのか?」
「(ビクッ)お、おう!!待たせたな!!」
「・・・」
「な、何?オレの顔に何かついてる?」
「・・・ついているというか・・・赤いぞ?熱でもあるのか?」
「い、いや・・・整備終わったばっかで暑いからだろ!!」
「・・・ならいいが・・・ではシャワー浴びに行くか?」
「ああ・・・メシもな・・・」
「相変わらずだな、アラドは」
クォヴレーは食べることが大好きなアラドの台詞にフワッと笑いながら腰をあげた。
その笑顔にアラドは・・・
「(・・・あれ??あれれ??なんか・・・心拍数が・・・な、何で??)」
「アラド?」
「あ、ああ!!そいじゃー行きますか!!」
「?ああ・・・」
クォヴレーが笑っただけでドキドキする・・・
隣にいるだけで嬉しい・・・
この気持ちがなんなのか、アラドが理解するのは直ぐだった・・・・
アラヴレなのにクォヴレーちょっとしか喋ってないよ(笑)
オマケに整備中じゃなく整備後じゃない?この話・・・
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