〜BABYな日常1〜
クォヴレーはご機嫌で屋敷の通路をトテトテ走っていた。
「ヴーレのパンツはウルトラマン♪
イングがかってくれたセブンなの!♪
せかいでいちばんすきなのよぉ〜♪」
*ムーニーマンのCM風に*
そこまで歌い終えると嬉しそうにジャンプして
いちばん言いたかったセリフを叫ぶ。
「だけどやっぱりイングなの〜♪」
「おや?クォヴレー様」
歌い終わってまた走り出そうとした時、背後から自分の名前を呼ぶ声が。
誰?と振り返るとトレーに一杯の水を入れたグラスを持った
プリスケン家の執事が立っていた。
「あ〜!ひつじさん!おはようなの!!」
「し・つ・じです。はい、おはようございます。
朝からお元気でございますね」
するとクォヴレーは嬉しそうに右手を上げ、
「あい!」
と元気よく返事をした。
「何か良いことでも?」
ペンギンさんのような手の形をしてお辞儀をすることで
『いい事があるの!』と返事をするクォヴレー。
その行動が可愛らしく思わず微笑を浮かべる執事は
何があるのかを聞いてみる事にした。
「あい!えへへへ・・・あのね〜」
「はい?」
「イングがねぇ・・・」
「ええ・・・」
「きょうはヴレとずっといっしょにあそんでくれるってやくそくしてくれてるの!」
クォヴレーがイングラム・プリスケンという自分の主人を
心から慕っているということを執事は知っている。
だから避けにニコニコと笑いながら『一緒にいれるから嬉しい』と
答えるクォヴレーのことを少しだけ気の毒に思った。
3歳という歳ならば、本当はもっと『親』に甘えたい年頃だろう。
だがクォヴレーの両親は事故で死んでしまったため
クォヴレーには『親』に甘えるということが出来ない。
親代わりのイングラムも仕事が忙しく一緒にいられる時間は限られているので
平日は保育園に通ってはいるとはいえ帰ってくれば大抵1人で遊んでいる。
ベビーシッターが週に何回か通ってくるが
やはり『親』の代わりにはならないようだ。
大きな屋敷の大きな庭の片隅で静かに泣いている
幼いクォヴレーを何度か見かけ胸が詰まることもしばしば・・・・。
なので本当に嬉しそうなクォヴレーを見て、
うんうんと心のなかで頷いた。
「それはよろしゅうございましたなぁ」
「うん!ひつじさんのもってる、そのおみず、イングにもってくの?」
「左様でございますよ」
するとクォヴレーは何かを思いついたのか
執事の足に纏わりつきながら、
「それ、ヴレがもってくの!」
「・・・・は?」
「ヴレがもってくぅ〜!!」
大きな瞳をウルウルと潤ませお願いをしてくるクォヴレーに
執事は対応に困ってしまった。
実は昨夜、主人・イングラムは飲み会があったらしく
「二日酔い気味だから水を持ってきて欲しい」と頼まれて
これから持っていく、というところでクォヴレーに会ったのだ。
きっと今イングラムは酒臭いに違いない。
小さな子をそんな大人に近づけていいのだろうか?
・・・・執事は悩んだ。
「ねーねー?」
ツンツン、とズボンを引っ張られる。
おまけに大きな瞳には大粒の涙が・・・・・。
「ねーねー?」
「・・・・・」
「ねー!ねー!!」
「・・・・・」
「・・・ひつじさーーん?」
・・・・・その時、執事は負けた。
「では・・お願いしてよろしいですか?」
執事の言葉にヒマワリのように笑うと、
「やったーー!ありがとうなの」
トレイにのっていたコップをクォヴレーに渡すと
執事はそっと耳打ちをした。
「イングラム様はきっとお酒臭いですよ?」
「だいじょうぶよ!ヴレがいけばすぐおきてくれるから!さっそくいってくるの!」
両手でコップを持ちテテテテ・・・と
イングラムの部屋に向うクォヴレーの背中を
執事はウンウン、と頷いて見守った。
イングラムの部屋の前に着くと、一度大きく深呼吸をし部屋の中へ入る。
「イング〜?」
だが部屋の主から返事は帰ってこなかった。
きっとまだ眠っているのだろう。
「イング〜?ヴレだよ〜?」
だが返事はやはり返ってこない。
自分が来たのに返事は愚か起きる気配もないので
少しだけムッとしながらイングラムのベッドへと向った。
持ってきたコップをクォヴレーサイズのテーブル
(イングラムがクォヴレーのために、
クォヴレーの背でも届くテーブルをおいてくれたのである)
に置くと、ベッドの中のイングラムに視線を移す。
イングラムは大きな枕を抱え込むように横向きで眠っていた。
ベッドの上に上がると少しだけお酒の匂いが鼻をついたので
クォヴレーはおもわず顔を顰(しか)めてしまう。
だが早くイングラムに起きてもらいたいので、
小さな手でペチペチとイングラムの頬を叩いた。
「イング〜?おっきして〜??」
有り難うございました。
BABYな日常は何気に続きます。
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