〜BABYな日常2〜
「イング〜?おっきして〜??」
お酒臭いイングラムの頬をペチペチ叩いて起きてもらおうとするが、
イングラムは「う・・ん」とわずかに声を漏らして、
また直ぐに眠りについてしまう、
を何度となく繰り返していた。
「イング〜??おっきーー!!」
だがクォヴレーは負けなかった。
頬をベチベチ叩いて起こそうとする。
「おきるのよーー!ヴレとあそんでくれるおやくそくよ!?
イングーー??おっきなのっ!!」
しかしイングラムは一向におきる気配を感じさせない。
ヴレとの約束を破るなんて!
と、頬を最大限に膨らませ、
イングラムを起こそうと小さな足でイングラムという巨体に蹴りを入れた。
「・・・・!!」
さしものイングラムも、「蹴り」を入れられれば目を覚ますようだ。
バチッ、と目を開き、視線の先にクォヴレーを捉えると、
フッとした微笑を向けてあげた。
その微笑に「起きる」気配を感じ取り、
クォヴレーはニッコリ微笑みを返したが・・・・、
なんと!イングラムはまたコテッ・・と寝入ってしまったのである。
そのあんまりな行動に口がアングリしてしまう可哀想なクォヴレー。
目に涙を溢れさせ再びイングラムに蹴りをいれた。
「おっきなのーー!!おっきーー!!おっきして!
おんもであそぶのーー!ねー?ねーー??イングぅ〜!!」
「・・・・・・」
泣いても叫んでも、起きる気配のない『保護者』。
ゲシゲシと蹴りをいれ、必死に泣き叫んだ。
「うそつきーー!!ヴレとのやくそくやぶるの!?
イングーー!?おっきよ?おっきするのーー!!」
だがイングラムは起きない・・・・。
終いには両足で蹴りを入れ始める。
いったい3歳児のどこにそんな力があるのか、
蹴りを入れられている腹は本当に痛かった。
おまけに二日酔い気味なので、
腹をけられると胃に入っているものが「戻ってきそう」になってしまうのだ。
「うっ」眉をしかめ、
蹴るのを止めさせようと目を開けクォヴレーを見た。
「・・・クォヴレー」
イングラムが自分の名前を呼んだ。
その瞬間ぱぁぁぁっ、と明るい顔になる単純なクォヴレー、3歳。
そう、起きたのだから遊んでくれる、と思ったのだ。
・・・・だが・・・・、
イングラムはクォヴレーを自分の元へ引き寄せ、
お酒臭い息で言い聞かせた。
「・・・・クォヴレー」
「(く、くさいのよ・・・)なぁに??」
「・・・俺は夕べ遅かったんだ・・・だからまだ眠い」
「・・・・・・・それがどうしたの??
きょうはヴレとあそんでくれるおやくそくしてたでしょ??
はやくおふとんからでるのよ。」
「・・・まだ眠いと言っただろ?もう少し寝かせてくれ」
ニコニコしていたクォヴレーの顔がとたんに不機嫌なものに変わった。
「もう少し寝かせろ」=「今日は遊べない」=「約束を破る気」、
と、3歳児の頭でも理解できたからである。
「だめーー!!いやなのーー!!
きょうは、ヴレとあそんでくれる、いってたのにーー!!」
「・・・・・・・」
「いやぁぁぁん!!イングのうそつきーー!!あーー!!」
クォヴレーはイングラムの腕の中で癇癪を起こし、
手足をバタつかせて泣き叫んだ。
幼子の癇癪声は二日酔いの頭にひどく響く・・・。
次第にイングラムの顔も不機嫌なものに変化していった。
「クォヴレー!!」
声を荒げて叱咤するイングラムに幼い体はビクンッと竦む。
ふぅ・・と小さくため息をつき、
クォヴレーをベッドの上に座らせると、
「・・・俺はまだ眠いんだ。」
「・・・・っ・・ひっく」
「・・・今度はちゃんと遊んでやるから・・今日は寝かせてくれ」
「う・・・うーー!!いやぁぁぁん!!」
頭を激しく左右に振りクォヴレーは反抗した。
幼い心では「大人の事情」で「約束を破る」のを理解できないし、
納得も出来ず地団駄を踏んだ。
だが・・・・・・、
「クォヴレー!!」
「・・・・!!」
再び声を荒げるイングラム。
目に溢れんばかりの涙を浮かべてそんな『保護者』を
恨めしそうに睨みあげた。
さすがに少しだけ後ろめたさがあるのか、
銀の髪の毛をヨシヨシと、苦笑を浮かべて撫でながら、
「・・・良い子だからお前ももう少しお寝んねしなさい」
と、言い聞かせるように言い残し、
バタンッ・・・と、ベッドに臥せってしまった。
「・・・ひっく・・・イン、グ?」
髪の毛をツンツン引っ張ってみる。
するとうっすらと目を開き、
「メッ」という顔をされてしまった。
そんな無常な『保護者』に怒りを爆発させたクォヴレーは、
ベッドからエイッと降りると、捨て台詞を吐いてその部屋を後にする。
「もういいのよ!!イングの、ばかーーー!!
もういいの!ヴレは・・ヴレは・・・、
いえでしちゃうのよーー!!」
「・・・・そうか」
「とめてもむだよ!?」
「・・・・止めはしない・・・だが屋敷の外には出ることを禁ずる。」
「よけいなおせわよ!!イーーーっだ!!」
「あっかんべー」をして、イングラムの寝室を後にした。
イングラムは手をヒラヒラさせて見送ると、再び眠りに落ちていった。
「ふぁぁぁぁぁ・・・・」
時刻は正午過ぎ、
ようやく二日酔いも消え、目を覚ましたイングラムは内線で執事を呼んだ。
テーブルを見ると「水」があるので、
朝頼んだ時に水を持ってきてくれたらしいが、
もうぬるくなってしまっているので新しいのを持ってきてもらおうと、呼んだのだ。
「おはようございます、イングラム様」
「おはよう・・・」
さわやかな笑顔を執事に向け、持ってきてもらったグラスを受け取る。
ゴクゴクと飲みながらイングラムは、
「・・・クォヴレーは?」
と、聞いてみた。
今日は遊ぶ約束をしていたのに、
結局正午過ぎまで寝てしまい約束を破ってしまった。
今からでも遊んであげようと、幼子の居場所を聞いてみるが、
執事は首をかしげて自分を見てきたのである。
「・・・?なんだ???」
「クォヴレー様はこちらにいっらしゃるのではないので?」
「・・・ココに??何故???」
「・・・今朝、イングラム様にお水をお持ちになったのはクォヴレー様ですよ?」
「!!クォヴレーが!?」
イングラムは驚く。
一体いつの間に持ってきたというのだろうか、と驚いたのである。
そう、実はイングラムは今朝のやり取りをまったく覚えていなかったのである。
二日酔い気味であったし、なにより眠かったので覚えていないのだ。
だが、誰かと話をしたのは覚えているようで・・・、
「(そういえば・・・誰かと二言三言、言葉を交わした記憶が・・・まさか・・・)」
イングラムは青い顔で寝室を見渡してみる。
だが、『クォヴレー』の気配は感じられない。
イングラムは更に青い顔になって執事を見た。
見れば執事も青い顔をしているではないか。
どうやら彼は、クォヴレーは主人の部屋にいるものと思っていたらしく、
クォヴレーの居場所を知らないようだ。
二人は同じ速さで顔を青く変化させていく・・・。
「屋敷にはいるのだよな・・・?」
「ぞ、存じません・・・が、外には出ていないと・・・」
「・・・・探せ!何人かに手伝ってもらえ!」
「は、はい・・・!」
「俺も探そう!」
二人はバタバタと寝室を後にし、クォヴレーを探し始めた。
しかし、1時間経ち、2時間経ってもクォヴレーは見つからなかった・・・。
有り難うございました。
BABYな日常はまだまだ続きますよ。
|