BABY!

〜BABYな日常3〜 クォヴレーの姿が見えなくなって、 4時間が経過しようとしていた。 庭にも、屋敷にも、お友達の家にも・・・ どこにもクォヴレーはいなかったのである。 応接室の机に座りながら、イングラムは深いため息をついた。 額の前で手を交差し、ただただ後悔が募るばかり・・・。 どうして自分は夕べあんなに(付き合いとはいえ) 酒を飲んでしまったのか?、とか、 どうしてクォヴレーが起こしに来てくれたのに (もちろんその記憶はぼんやりとしかないが) 起きなかったのか、とか。 ・・・・どうして『約束』を破ってしまったのか、と グルグル・・・グルグル・・・ 後悔が頭を完全に支配していった。 何度目かの深いため息をついたその時、 ドアを乱暴に開けながら執事が入ってきたのである。 「イ・・・イン・・一・・・−−−!!!!」 「?」 執事は何かに酷く驚いているのか、舌が上手くまわらないようだ。 その為、何を叫んでいるのか理解できないイングラムは 怪訝そうに執事を見て、 「・・・どうした?」 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・クォ・・・ゆ・・・はぁ・・!」 「????・・・とにかく落ち着け、落ち着いて人の言葉を話すんだ」 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・そ、それが・・・一大事・・・なのでございます」 「一大事???」 一体どんな一大事が起きたというのか? イングラムにとっての一大事は クォヴレーが見つからないことであるので、 正直言ってそれ以外のことは蚊帳の外にしておきたいのだ。 「悪いが・・・今は一大事よりもクォヴレーだ。  それ以外は取り次がないでいい」 「ですから!クォヴレー様の一大事にございます!!」 「!?・・・な、に!?」 バン、と机を叩き勢いよく立ち上がると、 執事はあるものをイングラムに手渡してきた・・・・。 「くくくくく・・・上手くいったな、弟よ」 「そうっスねぇ・・・あの屋敷デカかったし、相当の金持ちッスよ」 「違いない!・・・さぁて・・・お嬢様のご機嫌を伺おうか?」 場所はとある暗くて汚い倉庫。 怪しげな男二人はおんぼろ車のドアを開け、 眠る幼子を揺さぶり起こした。 「・・・・う・・・ん・・・??」 「おい!お嬢ちゃん!」 「・・・・んん??」 「お嬢ちゃん!・・・コケコッコーー!!あっさでっすよーー」 「・・・・ん?・・・・!?あさーーー???」 幼子は『朝』という言葉に反応し目を覚ました。 だが目を開けて映ったのはいつもの光景ではなかった。 いつもは大好きな『イングラム』の顔か、 大好きな『猫のぬいぐるみ』のどちらかの顔が飛び込んでくるというのに、 今目に映ってきたのは見たこともない二人の男であった。 はて?と首を傾げながらも、 クォヴレーはいつも『挨拶はきちんと!』と教育されているので、 とりあえず右手をピン!と伸ばして挨拶をした。 「はじめましてなのーー!おじちゃん!」 「お・・おじ???・・・ごほんっ!ま、まぁ・・いい・・お嬢ちゃん」 「???おじょうちゃん???ヴレのこと???」 更に首をかしげて聞き返すと、目の前の男がニッコリと微笑んだ。 「そう、ヴレちゃんのことだ。」 「ふ〜ん?」 「おじちゃんはね、ヴレちゃんのパパとママに連絡を取りたいんだ・・・、  パパとママのお名前を教えてくれるかな?」 「・・・なまえ?・・・んっとねぇ・・・んーー??(なんだっけ??)」 そう、実はクォヴレーは両親の名前を知らないのである。 顔だけは写真で知ってはいるが、 0歳の時に死に別れているので、声もどんな声だったのか知らないのだ。 当然『パパ』・『ママ』と覚えているので、 彼らの名前を知らなかったのだ。 「・・・わかんない!」 「わからない??そんなことはないだろう??」 「んーー??でも、ヴレが0ちゃいのときにねぇ・・  おはなばたけのむこうがわ、いっちゃったの!だからよくしらないのよ?」 「!?0歳の時???」 二人の男は愕然とした。 こんなに小さいのに既に両親と死に別れているなんてなんて不憫な! と思ったからだ。 だが男達はここでめげるわけにはいかない。 そしてヒソヒソと耳打ちを始めたのである。 「あ、兄貴・・・この子・・本当にあの屋敷の子供ッスかね??」 「それは間違いないと思うぞ?ここ何日か見張っていたが、  毎日庭で遊んでいたし・・・おそらく親戚にでも引き取られたんだろう?」 「あ!な〜る!」 「・・・よし!ならば・・・ヴーレちゃん」 「なぁに?」 「ヴレちゃんは誰と一緒に暮らしているのかなぁ???」 「どぉして??」 「おじちゃん、ヴレちゃんの家族に用があるんだ・・教えてくれるかなー?」 耳に手を当て、クォヴレーの顔に自分の耳を近づける。 するとクォヴレーは嬉しそうに笑って話し始めた。 大好きなイングラムのことを聞かれたので、 答えたくてしょうがない・・・とそんな感じだ。 「イングーー!」 「・・・イン、グ??」 「イングリャム・プリンブリン!」 「・・・イング・・リャム・・???」 「プリン・・・ブリン???」 二人は唖然としてしまう。 世の中にはそんな変てこな名前の人間がいるのか? と思ったに違いない。 だが相手は幼子・・・多少発音を間違っているのかもしれない。 「・・イングリャム・・・さんは・・・親戚かな??」 「あい!イングはヴレのこうけんにん??、いうらしいのよ!、  ヴレといっしょにくらしてるの!」 『後見人』という台詞に、二人の目が光った。 後見人がいるのであれば、やはりこの子供は金持ちの子に違いない、 と確信したのだろう。 「そうなんだ・・・  じゃあ今度はヴレちゃんのことについて教えてくれるかな??」 「うん!」 「ヴレちゃんはなんて名前?」 「ヴレ!」 「・・・・兄貴・・このガキ、馬鹿なんじゃ・・・?」 「・・・小さい子なんてこんなもんだろ??  そうじゃなくてねぇ・・・フルネーム教えてくれるかな??  わかる??フルネームって?」 するとクォヴレーはコクンと頷いて、 「うん!わかるよ〜」 「そうか〜、ヴれちゃんはえらいねぇ・・で、なんていうのかな??」 「ヴレはね、クヴレェ・ゴンゴン、いうのよ」 「・・・クヴレェ・・・」 「ゴンゴン・・・??」 「・・へ、へえ・・??あ、何歳??」 「・・・んとねぇ・・・3ちゃい!」 えっへん、とクォヴレーは指を2本立てて見せた。 その行動に弟分は心底あきれたように呟いたのであった。 「兄貴・・・このガキやっぱ馬鹿なんじゃ?  『3ちゃいなの!きゃは☆』とか言っておきながら、  指2本しかたててないっすよ???・・・げふっ!!」 だが、弟分が全てをいい終えたその時、兄貴の鉄拳が飛んできた。 殴られてことに納得のいかない弟分は目に涙を溜めて訴えた。 「な、なにするんスかーー!?」 「馬鹿はお前だ!」 「えーー??」 「あのお嬢様はな、まだお小さくていらっしゃるから  指3本を上手く立てられないんだよ!」 「へ?」 「だから口でもわざわざ言って下さったんだ!わかったか!!」 「・・・へぇ・・・???そうなんスか??」 「そうなんだ!」 「だいいちに『きゃは☆』なんて言ってないぞ??」 「・・それはぁ・・・なんとなくイメージ的につけてみたんスよぉ」 と、誘拐犯二人が言い争って(?)何いるとき、 クォヴレーの様子がおかしくなった。 何故か足をモジモジさせて心なしか顔が青ざめ始めてきたのだ。 そして誘拐犯の服の裾を掴んでちょんちょん引っ張ると、 「ねーねー??」 「・・・ん?」 「・・なにかな???」 「ヴレ、ちっちなのーー」 と、言ったのだった・・・・。
有り難うございました。 まだまだ続きます。