BABY!

〜淋しい夜に〜 「うぉっ・・・ぷっ・・・やめ・・・」 「大人しくなさい!!」 「そうは言うが・・・・うっ・・・」 場所はスペクトラ・マクレディの部屋のドレッサーの前。 キャリコはなにやら彼女にされているようである。 「我慢なさい!!愛しいアインの為よ!!」 「・・・!ぐっ」 スペクトラの一括にそれまで暴れて抵抗していたキャリコが 一切の抵抗をやめる。 そして大人しくスペクトラのされるがままになった。 「ここをこうして・・・あーして・・・こんなものかしらね?」 「・・・・そうだな」 鏡に映るキャリコとスペクトラ。 スペクトラは満足そうな表情だが、キャリコはどこか不満げだ。 それはそうだろう・・・・。 なにせ鏡に映っている自分は『彼の人物』とそっくりなのだから・・・。 ことの起こりは数時間前。 それまでご機嫌で遊んでいたクォヴレー3歳が急にグズリだしたのである。 お気に入りの大きな猫のぬいぐるみを放り投げ、 両手両足をバタつかせ地団駄を踏む。 「イングにあいたいのーーーー!!」 ・・・・と。 二人はお菓子を与えたり、 ぬいぐるみをチラつかせたりするが、 幼子のご機嫌は一向に直らない。 ビービー泣き続けほとんどお手上げ状態の二人だったが、 その時スペクトラはキャリコをみてあることを思いついたのだった。 キャリコの髪の毛を引っ張り、 ニヤッと笑うと有無を言わさず自分の部屋へ連行していった。 キャリコは廊下を引っ張られながら、 嫌な予感に冷や汗を流していたという。 そしてその結果がこれだ。 「なかなか上出来ね!そっくりよ、あんた」 「・・・う、嬉しくない」 鏡に映る自分にため息をつく。 前髪を横わけにし、目には青いコンタクト。 洋服もどこから用意してきたのか、 イングラムがいつも来ている制服だ。 「知る人が見れば違和感を感じるけど、  相手は3歳・・・何とかなるわよ」 「・・・・・・そうか?」 「そうよ!ほら、行くわよ!!  いいこと?『アイン』ではなく『クォヴレー』と呼ぶのよ!」 「・・・あぁ」 本当にそうだろうか、と何度目かのため息をつくが 渋々『アイン』の部屋へ歩き始めるキャリコ。 そんなキャリコの後をスペクトラは追うのだった。 クォヴレーのいる部屋の前に着く。 ポンッと肩を叩かれ、励まされるが気の進まないのか、 なかなかドアを開けようとしなかった。 スペクトラは痺れを切らしドンッと背中を押して 強引にクォヴレーの前へ追いやるのであった。 扉の向こう側には泣きつかれたのか、 ソファーの上でお寝んねの幼いクォヴレーがいた。 その可愛らしい姿に一瞬目は奪われ胸がキュン!のキャリコであったが、 後方からゴホンという咳払いが聞こえたので、 ハッと我に変りゆっくりとクォヴレーに近づいたのだった。 「アイ・・・ゴホンッ・・・クォヴレー」 肩を小さくゆすり、幼子を起す。 「うん」と小さく声を漏らし、クォヴレーは薄く目を見開いていく。 ソファーの上に身体を起し小さな手で大きな目をゴシゴシする。 そんなクォヴレーにキャリコはもう一度呼びかけた。 「・・・クォヴレー」 「・・・んー?」 声のした方向に目線を這わす。 捉えたものに目を瞬かせクォヴレーは見上げた。 そして『確認』を終えると、 花のように微笑んでその人物に抱きついたのだった。 「あーー!イング〜〜!!!」 「アイ・・・クォヴレー」 「イング!!あいたかったのーーー」 「クォヴレー」 ひしっ、と抱きついてくる幼子。 そかしその小さな背に手を這わそうといした瞬間事件はおこった。 「ちがうの!!」 「・・・・!?」 ドンッ!とキャリコの胸を押し離れると、 幼いクォヴレーは『イングラムもどき』に向かい威嚇する。 「イング、ちがうの!!にせものよ!!」 「アイ・・ではなくクォヴレー???何を」 「イングちがう!ちがう!!におい、ちがうの!!」 「(匂い、だと???)」 あ、という顔になるイングラムもどき・・もといキャリコ。 扉の向こうではスペクトラもしまった!という表情だ。 「(香水か??小さい子はそういうことに敏感だからな)」 「キャリのばか!!よけいなおせわよ!!あっちいけ!!」 「!!アイン」 なんと、クォヴレーは匂いだけで偽者と見破ったのだった。 そしてあろうことか匂いでキャリコとまで嗅ぎ分けた。 騙されたことに癇癪を起すクォヴレー。 慌ててスペクトラがクォヴレーに近づきあやし始める。 そして気づかれぬよう、そっと耳打ちをするのだった。 「はやく!プリスケン家の執事にでも電話して聞く!」 「・・・菊??花のか???聞いてどうするというのだ??  あ、癇癪を収めてくれるのか??」 「ばか!!菊じゃなくて聞く、よ!!  イングラムのコロンを聞いてきなさい!!」 「!・・・なるほど」 合点がいったのか、キャリコは慌ててその部屋を出、 プリスケン家へと電話をかける。 『・・・・はい』 「・・・私だ。キャリコ・マクレディだ」 『!・・・これはこれは・・・クォヴレー様はお元気でございますか?』 「あぁ・・・ありあまっている」 『それはようございました。ところでなにか御用でも?』 「あぁ・・・実は・・・」 キャリコは電話越しの執事にこれまでのことを大まかに説明をした。 そしてイングラムが使っているコロンを教えて欲しいとお願いしたら、 快く教えてくれたプリスケン家の執事。 だが、それを聞いた瞬間開いた口が閉じなくなってしまうキャリコ。 『かしこまりました。  主人は・・・××の○○を愛用なさっておいでで御座います』 「!!」 『キャリコ様?どうかなさいましたか?』 「い、いや・・・わかった。ありがとう」 『いえいえ・・・では私はこの辺りで・・・』 受話器越しに相手が受話器を置いた音を確認する。 だがキャリコは今だ受話器を持ったままである。 なぜなら・・・・ 「(あいつ・・・そんな高価な香水を惜しげもなく使っているのか??  どこまでも嫌味な・・・・、しかしどうやって手に入れようか・・・?  それだけ珍しい香水だと品薄だろうしな・・・困った・・・)」 ・・・・こうして新たな試練は始まったのだった。
有り難うございました。