BABY!

〜嘘つきは嫌いなの!〜 ヴィレッタがプリスケン家の門をくぐると幼子の鳴き声が聞こえてきた。 「・・・??クォヴレー?」 泣き声がする方向へ行ってみると、 クォヴレーが庭園の真ん中で大泣きしている。 そんなクォヴレーをオタオタしながら慰める執事。 イングラムはというと頭を掻きながら、苦笑いをしていた。 「・・・イングラム」 「!!ヴィレッタ・・・よく来たな」 「ええ・・・ところで何事?」 クォヴレーはその目にヴィレッタを捉えると、 涙を流しながら足元にしがみついた。 「ヴィレー!!イングが・・イングが・・・いじめたのーーー!!」 「・・・え?」 軽蔑するようにイングラムを睨むと、ブンブンと頭を横に振った。 「・・・ちょっとからかっただけだ」 「からかった??」 「・・・イングラム様はクォヴレー様に鳥を買ってくると約束されていたのです。」 歯切れの悪い主人に代わって、執事が説明を始める。 「鳥??」 「左様でございます。・・・クォヴレー様は喋る鳥・・・  インコかオウムなどを望まれていたのですが・・・ご主人様が・・・」 苦笑いをしながら執事は庭に放たれた1匹の鳥を指差した。 「イングはヴレとのやくそくやぶったの!  コケコッコかってきたの!ヴレ、コケコッコきらい!!」 「・・・コケコッコ??」 クォヴレーの必死な訴えと、執事が指差した鳥・・・ 「(あれはどう見ても鶏・・・?  鳴き声が『コケコッコ〜』だからコケコッコなわけね・・・)」 「・・・冗談のつもりだったんだ・・ここまで泣かれるとは・・・」 さっぱりわからない、という顔をしながら言い訳をするので 呆れたように呟いた。 「小さな子に冗談が通じるわけないでしょ?  だいたい、インコかオウムを約束していたのに  鶏はないわよ・・・」 「イングきらい!イングきらい!!  ヴレ、うそつきはきらいなの!!」 「・・・クォヴレー・・・すまなかった・・俺が悪かったな・・  だが、鶏には罪はないんだ。  どうか鶏と仲良くしてやって欲しい・・・名前は・・・」 ムッとした顔でクォヴレーは言い放つ。 「コケコッコのなまえなんか!『スレイヴ』でじゅうぶんなの!!」 「「「スレイヴ????」」」 癇癪をおこしている幼子の言葉に、3人は一瞬固まった。 「・・・スレイヴ・・・奴隷・・だと??  (この前も思ったがどこでそんな言葉を・・・)」 「・・・奴隷、ね・・クォヴレー・・」 「スレイヴよ!それいがいはみとめないの!!」 地団駄を踏みながらクォヴレーは鶏を蹴り始めた。 鶏は羽を広げながら庭を逃げ回る。 「クォヴレー!やめなさい!鶏がかわいそうでしょ?」 「むぅぅ!!」 ヴィレッタに注意されても鶏いじめをやめないクォヴレー。 そんなクォヴレーをイングラムは抱え上げた。 「はなすの〜!!コケコッコ、きらい!!」 「・・・クォヴレー・・鶏に罪はない・・やめるんだ」 「イングにそんなこというしかくないの!」 「ぐっ・・・そうだが・・だが・・・」 ヴィレッタは怒り狂っているクォヴレーの頭を優しく撫でると、 「クォヴレー・・貴方だって誰かに蹴られたら痛いでしょ?」 「・・・いたいの」 「そうでしょ?・・・鶏だって痛いのよ?  鶏はクォヴレーが好きなのにクォヴレーに嫌われたら悲しいわ」 え?という顔をしながら、鶏とヴィレッタを交互に見つめる。 「・・・コケコッコ、ヴレがすきなの?」 「そうよ・・でもクォヴレーが『嫌い』とか蹴ったりしているから  今泣いているわ・・かわいそうでしょ?」 「・・・かわいそうなの・・・ヴレ、わるいこね・・」 シュン・・と落ち込みながら、イングラムに振り返る。 「イング・・おろして・・?ヴレ、ごめんなさいしてくる・・・」 「そうか・・・」 微笑しながらクォヴレーを下に下ろす。 トテトテ・・と鶏に近づくと、 「コケコッコさん・・・ごめんなさい」 「コッコ〜!!」 ヴィレッタはクォヴレーの頭を撫でると、 「さ、お名前決めてあげなさい」 「・・・んとね・・・ん〜??アールガンにするの!」 「かっこいい名前ね!・・・フフ・・クォヴレー、  ケーキ買ってきたからお茶にしましょ?」 「わーい!」 「ヴィレ!なんのケェキ?」 「チェリーのタルトよ」 「ちぇりぃ??」 「さくらんぼよ。」 「さくらんぼ!ヴレ、さくらんぼだいすき!」 「そう、じゃ早速切りましょうか?」 ・・・4人分くらいの大きさのタルトにナイフを入れるヴィレッタ。 女中が用意してくれた紅茶と、お皿・・・。 そのお皿にヴィレッタはタルトをワンピースのせた・・・が、 「ヴィレッタ・・その半分の半分でいい」 「え?」 「そうしないと夕飯を食べなくなる・・・」 クォヴレーのためにと一番大きく切ったのに、 イングラムに指摘されヴィレッタは目をキラキラさせているクォヴレーに視線を移す。 「(・・・そういえば小食だったわね・・)そうね」 「えぇぇぇぇ!?」 「・・・クォヴレー、夕飯を食べてまだ食べられるようだったら残りを食べなさい。  無理なら明日食べればいい・・・わかったな?」 「むぅ!」 「クォヴレー」 怒ったようなイングラムの視線にクォヴレーは仕方なく諦めた。 文句を言って『おしりペンペン』されるのはイヤだったからだ。 諦めたクォヴレーは彼の膝の上に乗ると、 「イング!あーん」 大きく口をあけ、食べさせて?と訴える。 やれやれ・・と笑いながらもフォークにタルトをさし小さな口に運んだ。 幸せそうに口をもぐもぐさせるクォヴレー。 「おいしいの!」 「・・よかったな・・ほら、よく噛みなさい」 ご機嫌な様子でタルトをたいらげていく。 その時、客間の扉がゆっくりと開いた・・・ 「・・・?ドアがあいたの???」 「あら?よく閉まってなかったのかしらね?」 「・・・・・・」 ヴィレッタが何気なくイングラムの方へ視線を向けると 確信犯の顔をしたイングラムを見た。 そして、扉の隙間から1匹の・・・ 「にゃぁ・・・」 「!!にゃんこ!!」 扉の隙間から1匹の子猫が入ってきた。 毛並みからすると・・ペルシャだろうか? イングラムの膝の上から下りると、クォヴレーは子猫のところまで走る。 「にゃんこ!にゃんこ〜♪」 猫を抱きしめ、イングラムに見せにきた。 「イング!にゃんこなの!・・・どうしたのかなぁ??」 「・・・フフフフ」 微笑しながら何も語らぬイングラム。 けれどもヴィレッタにはすべてのからくりがわかった。 「(・・・どこまでも素直じゃない人ね・・!  つまりあの鶏はパフォーマンスだったわけ???)」 「・・・猫は好きか?」 「すき!」 「・・・そうだと思っていた・・・。  クォヴレーは鳥より猫だろう、とな」 「どういうこと??」 「ウフフフ・・つまりね」 首をかしげながらヴィレッタに振り向き説明を聞く。 「イングラムはわざと鶏も買ってきて、貴方をガッカリさせたのよ」 「どうして?」 「ガッカリした後に猫さんを見せれば喜びは大きくなるでしょ?  イングラムは悪い子ね?」 「そうね!イングはいじわるなの!」 「・・・いじわるな俺は嫌いか?」 「そんなわけないの!だいすき!!」 「そうか・・・名前はどうするんだ?」 「・・・うーん・・・どうしよう??」 「ゆっくり考えるといい・・」 「うん!イング!だいすき!!」 こうしてクォヴレーには新しいお友達が2匹増えました。 鶏と猫・・・ クォヴレーにとってとても大切なお友達です。 廊下ではイングラムに指示された通り子猫をゲージから放した執事が うんうん、と頷きながら主人達の様子を見守っていた。
有り難うございました。 ほのぼの駄文に仕上げて見ました。