〜BABYでクリスマス〜
「黙っていたら分らないだろう?」
「・・・・・・」
「俺はその怪我はどうしたのか?と聞いているんだ、
いったい何処で怪我をしたんだ?」
「・・・・・・」
「・・・・クォヴレー?」
「・・・・・・」
場所はプリスケン家の巨大なお風呂場の脱衣所。
これから2人はお風呂に入るところだったのだが、
クォヴレーの服を脱がせてやっている時に
その小さな手に無数の傷があることを発見したイングラム。
「何とか言いなさい!」
聞いても聞いても答えないのでおもわず大声を出してしまったが、
それでもクォヴレーは何も答えなかった・・・。
クォヴレー3歳は書斎でブルブル震えていた。
足元には陶器の欠片があちらこちらに飛んでいるようである。
「(う〜・・どうしようなの・・・おこられるの〜)」
ここはイングラムの書斎で小難しい洋書が
本棚という本棚にビッシリギッチリ埋まっていて
よく持ち帰ってきた仕事をここで片付けている。
当然マル秘な書類もあったりするので
一人でこの部屋に入ることは禁止されているのだが・・・
そこは3歳・・・悪戯したいまっさかり・・・
保護者の言うことなどなんのその・・・
クォヴレーはドキドキしながら書斎へと遊びにきたのである。
クォヴレーはワクワクしながら書斎の椅子の上に座り
グルグル廻って遊び始めた。
それに飽きると小さな身長でも届く場所においてあった本を
手当たり次第抜き出しては散らかしていく・・・。
それにも飽きてしまうと今度は窓枠へと移動した。
上を見ると綺麗な花が飾ってある花瓶が一つ。
どうしてもそのお花の臭いを嗅ぎたいクォヴレーは、
小さな体で一所懸命に椅子を窓際まで運び椅子の上に立った。
しかし身長が僅かに足りなく花に顔が届かない。
足をプルプル震えさせ頑張るが届かない・・・・
だがクォヴレーは諦めなかった。
『(おはなをヴレのちかくにもってくればいいの!)』
小さな手を花瓶へと伸ばしズズズ・・・と引っ張ってくる、が・・
『ガシャーーン』
そう、花瓶を引っ張りすぎて落としてしまったのである。
クォヴレーは青ざめる「イングにおこられる」と・・・。
幸い書斎は屋敷の一番奥に位置しているので
割れた音は使用人たちの耳には届かなかったらしく
誰一人として書斎へ駆け込んではこなかった。
不幸中の幸いと、
幼いクォヴレーは必死にどうすればいいかを考える。
そしてとりあえず椅子は元の位置へと戻すことにし、
花瓶の欠片は拾って庭の片隅に埋めることにした。
ほうきやちりとりはこの部屋にない・・・
また借りてくるわけにもいかないので
小さな手で必死に欠片を集めてていく。
時折破片が刺さりその痛さにクォヴレーは涙するが、
イングラムに怒られたくない一心で欠片を全て拾い集めた。
「おかえり〜、イング!!」
仕事を終えたイングラムが玄関に入ってくるなり
その幼子はトテトテと走って迎えに来てくれた。
「ただ今、クォヴレー」
仕事の疲れも幼子の笑顔を見れば吹っ飛んでしまう。
トテトテ向ってきたクォヴレーを抱き上げると頬にキスをして
今日一日何をしていたのかを早速聞いていく。
「・・・随分泥だらけだな?今日はお庭で遊んでいたのか?」
クォヴレーは一応保育園に通っているが
クリスマスの近い今は冬休みに入ってしまっている。
ベビーシッターは週に2〜3回くらいしか来ないので
クォヴレーは大抵1人で遊んでいるのである。
「おにわでおやまつくってたのよ!」
「そうか・・・上手に出来たか?」
「あい!トンネルもつくったの!いっぱいあそんだからおなかすいた〜」
「フフフフ・・では直ぐに食事にしようか?」
「わーい!ごはん〜♪」
「だがその前にお前はお風呂だな、
食事の時は清潔な格好でないと良くない」
「・・・はぁい」
クォヴレーを抱っこしながら風呂場までやってきたイングラムは、
着替えを持って着ておくよう使用人に言うと、
早速クォヴレーの服を脱がし始めた・・・その時。
「いたっ!」
「?」
服の袖が手のひらに引っかかった時
悲痛な叫び声が上がる。
ハッとクォヴレーは慌てて手を隠そうと後に組んだが
直ぐに手首を掴まれてしまい『秘密』がばれてしまった。
手のひらを見て愕然とする。
小さな手のひらには無数の切り傷らしきものがあり、
直りきっていない傷口かは血液が滲み出していた。
「この怪我はどうしたんだ?」
「・・・・・・」
「何処で怪我をした?お庭でか?」
「・・・・・・」
「黙っていたら分らないだろう?」
「・・・・・・」
「俺はその怪我はどうしたのか?と聞いているんだ、
いったい何処で怪我をしたんだ?」
「・・・・・・」
「・・・・クォヴレー?」
「・・・・・・」
「何とか言いなさい!」
聞いても聞いても答えないのでおもわず大声を出してしまったが、
それでもクォヴレーは何も答えなかった・・・。
「大人に隠し事をする悪いこのところには
サンタクロースさんは来てくれないぞ?」
「!!?」
「・・・それともクォヴレーは
サンタさんからのプレゼントはいらないのか?
保育園のお友達は皆もらえるのに
クォヴレーはもらえなくていいんだな?」
「ヤなの〜!!!」
やっと口を開いたクォヴレー。
「サンタさんにプレゼントをもらえない」と脅かされたので
目には涙が沢山溢れてきていた。
「ヤ、なら俺に隠し事をするのは止めなさい。
さぁ?その怪我はどうしたんだ?」
「・・・おこらない?」
「・・・・それは聞いてからでないと言えない」
「・・・う〜」
「いいから言いなさい。怒られるとは限らないだろう?」
「・・・・う〜・・」
「サンタさんがこなくていいのか?」
「ヤッ!!・・・う〜・・・あのね」
「・・・・・・」
「・・・ヴレ、イングのごほんのおへやにはいっちゃたの」
「書斎に?」
「・・・・それでおいすのをグルグルまわしてあそんでたの」
「・・・・・・」
「まどのところにね・・・きれいな、おはな、あったの・・・
ヴレ、においかごうとおもって・・・そしたら、かびん、
おちちゃったの・・・・」
「!!」
「イング、に、おこられるおもって・・・
われちゃった、かびん、ひろっておにわに・・うめたの」
「!!!?」
「・・・ごめんなさ・・いたーーー!!」
謝り終わる前にクォヴレーは腕を引っ張られてしまった。
イングラムは青い顔でクォヴレーの手のひらを
ジッと目を凝らして見つめる。
「いたーー!いたいーー!!」
「暴れるんじゃない!欠片は血管の中に入っていないだろうな!?」
「そんな・・の・・わかんな・・・うっ・・うぅっ・・!!」
イングラムは脱衣所の水道で手を洗い目を凝らして
破片が刺さっていないかどうかを確かめる。
ただでさえ傷が出来ていたいというのに
水で乱暴に洗われるのであまりの痛みにクォヴレーは大声で泣く。
イングラムのベッドの上でうつ伏せになって
クォヴレーはお尻を持ち上げていた。
欠片が残っていないことを確かめ安堵したイングラムは
無言のまま風呂を入れ終えるとそのまま寝室へクォヴレーを連れて行った。
そして『悪戯をした罰』というよりは、
『危ないことをした罰』でクォヴレーのお尻を叩いて
おしおきをしたのである。
ベッドの端に腰掛けるイングラムは黙って
泣き続けるクォヴレーに視線をむけ続けた。
そして背中を撫でながら優しく諭していく。
「クォヴレー、これからはガラスや陶器を割ってしまったら
自分で片付けようとはせず大人を呼びなさい」
「・・・・・・・」
「ガラスや陶器の破片はな、危ないんだ・・・
小さな欠片が皮膚い残っていてそれが血管に入ってしまったら
死んでしまうんだぞ?」
「・・・!」
「死ぬ」と言う言葉に驚いてクォヴレーは起き上がりイングラムを見つめた。
「しぬ、の?」
「・・・そうだ。クォヴレー、人は死んだら生き返ることは不可能だ」
「・・・しってるの・・・パパ、も、ママ、も・・もうにどとあえないのよ」
「・・・そうだな、クォヴレーのパパとママは亡くなってしまったからな。
もう会うことは出来ない・・・ならばクォヴレー・・」
「・・・・?なぁに?」
「パパとママの分もクォヴレーは生きなけらばならない。
危ないことをして命を落としてはならない。」
「・・・・あい・・・ごめんなさい・・・
これからはちゃんとひつじさんに、おねがいするの・・・」
「いい子だ」
深く反省したようなのでイングラムは頭を撫で、
叩いてしまったお尻を撫でてあげ、微笑みを向けた。
「・・・明日から俺も冬休みだから一緒にいてやれる」
「ほんと!?」
「本当だ。うれしいか?」
「うれしい!」
イングラムに抱きつき頬擦りをしてイングラムの顔を覗き込む。
そして今、最も心配していることを聞いてみることにした。
「ねぇ〜、イング?」
「ん?」
「ヴレ、ことしはたくさんわるいこだったの・・サンタさんきてくれる?」
「・・どうだろうな?」
意地悪く微笑みながらワザと意地悪くいう大人気ない大人、イングラム。
青い顔で泣きそうなクォヴレーを少しの間堪能し、満足した後・・・
「大丈夫だ、きっと来てくれる」
「・・・ほんとぉ?」
「本当だ。俺は嘘ついたことないだろ?」
首をかしげながらクォヴレーは考える。
しばらく考えた後に満面の笑みを浮かべて、
「ないの!じゃあほんとうね!!わーい!!」
「クォヴレーは何が欲しいんだ?」
「ないしょよ!だれにもおしえないの」
「・・俺にも?」
「イングにもよ!あ、そうだ!サンタさんに、おてがみ、かかなくちゃなの!」
「あと靴下も用意しなければな・・・」
「おおきなのね!」
「大きいの?フフフ、そんなに大きなものをお願いするのか?」
「ひみつよ〜♪そんなことよりねイング?」
「ん?」
「ヴレ、おなかへった!」
「ははははっ、俺もだ・・では今度こそ食事にしようか?」
「わーい!!」
危ないことはしてはいけない・・・
と学んだクォヴレーは
こうしてまた一つ大人になりました。
さてさて、クォヴレーはサンタさんに一体何をお願いしたのか・・・
それはサンタさん(イングラム)のみぞ知る、なのです。
有り難うございました。
BABYなクリスマス?です。
そして裏テーマは『生きるということ』ですかね??
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