〜末っ子の過ち〜
「明日、友達呼んでいいか?」
「「「「友達????」」」」
夕食の時間、丸いダイニングテーブル・・・
大男・大女の間にチョコンと座る少年が1人。
この家には両親がなく、5人兄弟で暮らしていた。
長男・イングラム(26歳)、長女・ヴィレッタ(25歳)
次男・キャリコ(24歳)、次女・スペクトラ(24歳)
そして、3男・クォヴレー(13歳)である。
父親は末っ子が生まれてくると直ぐに他界。
母親も2年後、後を追うように病気で他界した。
しかし兄弟の家は資産家だったので、
残された兄弟が生活するのには困らなかったという。
軍人家系なので、皆成人すると軍に入隊。
今ではそれなりの地位についている。
3男・クォヴレーはまだ13歳なので学生だが、
いずれは兄弟のように軍に入りたいと密かに思っている。
(兄弟全員に反対されているので口には出していない)
「そうか、もう明日から夏休みか?クォヴレー」
「そうだ、明日から夏休み。イングラムは明日仕事?」
「ん?俺は休みだ」
「じゃぁ、今日成績表貰ったんでしょ?後で見せて頂戴ね、クォヴレー」
「了解だ、ヴィレッタ。後で見せる・・ヴィレッタは仕事?」
「ええ、私は仕事よ」
「アインのことだから成績に問題はないでしょうけど・・私にも見せて頂戴ね?」
「もちろんだ、明日はスペクトラも仕事?」
「ゴメンね?アイン」
「俺も休みだぞ?アイン」
「本当か?・・・でも・・イングラムとキャリコでは・・」
テーブルを見るとクォヴレーの食事の皿だけ明らかに小さい。
別に虐待を受けているわけではなく、
食べられる量が普通の人に比べるとちょっと?少ないのである。
そしてクォヴレーは青髪兄弟の中で1人だけ銀の髪の毛をしていた。
幼い頃はよくそのことでからかわれて泣いて帰ってきたものだが・・
流石に中等部にもなると、そんなことでからかう輩はいなくなるのか・・?
ともかくも色々な事情が交差して、
友達を連れてくるというのは珍しいことなので4人は一斉に驚いたのである。
「俺とキャリコでは何か問題でもあるのか?」
「・・・・問題というか」
「問題でないのならば何だ?アイン」
ちなみに、長男・長女は『クォヴレー』と呼び、
次男・次女は『アイン』と呼んでいる。
理由は似たような顔の似たような声に同じふうに呼ばれると、
まだ幼かったクォヴレー本人がわからなくなってしまうからである。
だから長男・長女はファーストネームで『クォヴレー』と呼び、
次男・次女はセカンドネームの『アイン』と呼んでいるのである。
「・・問題ないけど、お菓子・・出してくれないだろ?」
「「「「!!?」」」」
ダイニングルームに一瞬静けさが漂った。
「プッ!ハハハハ!!成る程ね!大丈夫よ、クォヴレー」
「・・・え?」
「アイン、ああ見えてイングラムもキャリコもお菓子作り上手いのよ?」
「えぇぇ!?」
「いつも私とスペクトラが作っているものね」
「そうだな・・最近は作っていないな・・・」
「それに市販の御菓子だってあるし、問題ないだろう?クォヴレー」
「・・・じゃ、連れてきていい?」
恐る恐る4人の兄と姉に聞くとニッコリとした笑顔が返ってきた。
「ありがとう!!」
「さぁ、話が終わったのなら食べてしまいなさい。まだいっぱい残っているぞ?」
「・・・もう、お腹いっぱいだ」
「ダメよ!ちゃんと貴方の分は貴方サイズに作ってあるのだから!」
「アイン、きちんと食べないと大きくなれないぞ?」
「そうよ、・・・ところで体重は増えたの?アイン」
ギクッっとしながらもクォヴレーはボソッと呟く。
「・・・今、5・・1キロ・・くらいだ・・」
「「「「ふーん・・・本当に?」」」」
「ほんとう、・・だ・・・(本当は40キロだけど・・)」
「「「「へーえ・・・」」」」
重たい空気がダイニングルームに流れる。
「それじゃ、あとで体重計に乗ってもらおうかしらね?」
「名案だ」
「!!食べる!!・・食べたら風呂入って寝るから体重計はまた今度!!」
明らかな慌てぶりに4人は『嘘』を見破ったが、
誰もそれ以上つっこもうとはしなかった。
ここでつっこんでまた1ヶ月も自室に引き込まれては厄介だからだ。
翌日・・・
「クォヴレーの兄ちゃんたちって格好いいな!」
「え?そうか?」
「そうね!背も高いし・・気も利くし・・モテるんでしょ??」
「・・・多分」
「でも、お前と髪の色違うんだな?」
「え?・・・あ、・・うん」
「バカ!!アラド、そういうことズケスケ言っちゃダメでしょ!?」
「いいんだ、ゼオラ・・慣れている」
「ゴメン、俺そういう意味で言ったんじゃ・・・でもよかったな!」
「??何がだ??」
「だって、あの兄ちゃんたち背、高いじゃん!」
「ああ・・190だったか・・?」
「てことは、クォヴレーもそれくらい伸びるかもだぜ?今はチッコイけど!」
「また!今は、は余計よ!アラド!!」
「大丈夫だ、ゼオラ・・慣れている」
「でも、お庭も素敵よね」
「アルマナ・・・、だがアルマナの家の庭も花がいっぱいで・・その・・素敵だったぞ?」
「そ?アレは母の趣味なのよ。」
「へぇ?アルマナさんのお母さんって草いじりが趣味なんだ!?」
「バカ!!草いじりじゃなくて、ガーデニングでしょ!?」
「いってぇーなぁー!お前もいちいちつっこんで・・小姑かよ?」
「何ですって!?」
「・・・あら、もう5時だわ・・帰らないと・・」
「え?もう??本当だわ、アルマナさんの門限は何時なの?」
「私は6時よ」
「6時!?女の子は門限があって大変なぁ・・オレなんかないぜ?」
「アラドは男の子だものね・・・」
「・・・オレも6時だ」
「へぇ・・クォヴレーは6時なん・・・ってえぇぇぇ!?」
「お前、門限あんだ?男なのに???」
「??変か?」
「いや・・変って言うか・・(過保護なのかな??)」
「帰るなら庭先まで送る・・行こう」
「そうね、また遊びに来ていい?クォヴレー」
「もちろんだ、ゼオラ」
庭先に出ると、ヒマワリが咲き乱れている。
夕暮れの風邪が吹き、少し寒かったが夏の暑さで火照っている身体には丁度よかった。
「クォヴレー、少しお庭見学していい?」
「ああ」
「ありがとう、行きましょアラド」
「へーい・・」
アラドとゼオラが庭の端のほうへ歩いていくと、アルマナと2人きりになった。
なんともいえない沈黙が2人の間に流れていく・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
2分間くらい沈黙の時があっただろうか?
フッとアルマナが先に口を開いた。
「・・・クォヴレー・・・」
「・・・なんだ?」
「私のこと・・嫌い?」
「・・・いや?」
「じゃぁ・・好き?」
「・・・!」
驚いてアルマナを真っ直ぐに見つめた。
アルマナもまたクォヴレーに真っ直ぐな視線を返してきている。
「私は好き・・・」
「アルマナ・・・」
「ねぇ?嫌いじゃないなら・・目を閉じて?」
「・・・目?」
「閉じて?」
アルマナは嫌いじゃなかった・・。
どちらかといえば好意を抱いている・・・。
クォヴレーは静かに目を閉じた・・
すると次の瞬間柔らかい何かが唇に当たった。
ファーストキスだった・・・・。
「!?」
唇と唇が触れただけの軽いキスだったが、
お互い顔が離れると真っ赤になってしまった。
アルマナは恥ずかしさのあまり両手で顔を覆っている。
なんだが熱いものがクォヴレーの心を埋めていった。
「・・・アルマナ」
「え?・・・あっ」
アルマナが手をどけた瞬間、今度はクォヴレーがキスを返した。
「おーい!」
遠くで呼ぶアラドの声に2人は唇を離す。
アルマナが手を振ると、ゼオラとアラドは駆け足で戻ってきた。
「そろそろアルマナさんの門限だし・・帰りましょ?」
「ええ・・そうね!」
「・・・あれ?・・クォヴレーもアルマナさんも顔赤いぜ?風邪??」
「え?・・そ、そうか??」
「アラドの気のせいですわ!!さ、帰りましょ!!・・クォヴレー・・また・・」
「あ、ああ・・気をつけてな?3人とも」
庭から3人が小さくなるまで見送った。
だが、アルマナとしたキスの感触が忘れられなくて頬はまだ火照ったままであった。
だが、数分後クォヴレーは後悔する事になる。
庭先で女の子とキスをしたこと・・・これが人生最大の過ちだったのである。
「(この火照った顔では、イングラムとキャリコに会えない・・・顔を洗いに行こう)」
玄関を開けると、ギョッとした。
2人の兄がこれまで見たこともないような笑顔で自分を出迎えてくれたからだ。
「お友達は帰ったのか?」
「あ、・・うん」
「そうか・・ではこっちにきなさいクォヴレー・・お茶にしよう」
「え?・・いや・・オレは・・」
「・・飲むだろ?アイン」
なんともいえないオーラが漂っている2人に、『NO』とは言えなかった。
仕方なく2人の兄に続いてダイニングのドアを潜る。
「クォヴレーにはマシュマロココアだ」
「あ!美味しそう!!」
甘いにおいの漂う温かいココアを口にするクォヴレー。
夏とはいえ外の空気で冷えた身体には温かいココアはとても美味しかった。
「・・美味いか?アイン」
「美味しい!・・・ちょっと苦いけど」
「苦い??・・・効きすぎるとアレだから少なめにしたんだが・・」
「効きすぎるって??」
何を言っているのかわからず、
首をかしげながらクォヴレーはココアを口にしていく。
「クォヴレーは、『苦い』に対しては敏感なのかもしれないな・・」
「『苦い』に敏感ならアレを飲ませたらどんな顔をするんだろうな?」
「???アレって??」
ココアを飲み終え、カップを机の上に置くと2人の兄がニヤッと笑ったように思えた。
「(?????)」
訳がわからず、
???をいっぱい浮かべながら椅子を立ち上がると急に眩暈がし、床に崩れ落ちる。
「???な、・・なん・・??」
足に力が入らなくなり、指先はガクガクしている。
「・・・ふーん?結構即効性なんだな?キャリコ」
「あぁ・・そうみたいだな・・」
「・・ぁ・・イン・・?キャリ・・?・・何?」
次第に瞼が重くなりクォヴレーは首を左右に振った。
「(・・何だ??何・・・眠・・・?)」
数秒後、クォヴレーは完全に眠りに落ちてしまった。
3P初めて編です。
長くなるので何回かに分けますね。
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