芝生の上で青い顔をしている少年が一人。
見れば腕や脚のあちこちに擦り傷切り傷があり、
青アザもところどころにあるようだ。

少年が座り込んでいる芝生の周りには木の葉が
まるで台風でもあったかのように散らばっている。

少年の身体は小刻みに震えており、
どうしよう、と小さく唇が動いた。













〜末っ子治療〜

















「クォヴレーはどうした?」


白い制服がよく似合う美形な青年イングラムは
玄関に入ってくるなりその名を指名した。
いつもなら(いやいやながらも)向えに来てくれる
可愛い末っ子の姿が今日は見当たらないからだろう。

階段から丁度降りてきたスペクトラが
やや困ったように微笑みながらその理由を教えてくれた。

「頭が痛いんですって。今、氷枕を持っていったところよ」
「・・・・頭が?」
「ええ、・・・あら、お帰りなさいキャリコ」
「ああ、ただいま。・・・アインは風邪か?」

するとそこにイングラムとは数秒送れてキャリコが帰ってくる。
どうやら会話が聞こえていたらしく、
可愛い末の弟の容態を双子の妹に聞くのだった。

「風邪ではないみたいだけど・・・、
 最近よくお友達と外で遊んでいたし疲れがたまったんでしょう。」
「疲れが・・・?クォヴレーは確かによく体調を崩すからな」
「そうだな・・・特に月曜の朝とかは・・・」
「そうね、何故か休み明けによく体調を崩すわよね、あの子」

顎に手をかけ、不思議だわ、と、首を傾げるスペクトラに対し、
イングラムとキャリコは横目で視線を交わしあい、
互いの心の中で黒い微笑を浮かべていた。
それもそのはず・・・・
クォヴレーは連休の夜には二人の兄に
淫らで無体な行為を強いられているのだから。
クォヴレーにはスペクトラの他にヴィレッタという姉がいるが、
二人の姉は連休の夜は「夜勤」で屋敷にはいないのである。
腹黒い兄二人はここぞとばかりにクォヴレーを追い詰め、
いかがわしい行為を繰り返しては体調を崩させていた。
そしてその時、イングラムは何を思ったのか・・・・

「スペクトラ」
「?なぁに?」
「友達と遊ぶたびに体調を崩すようならやはり学校は辞めさせ、
 家庭教師を呼んだほうがよくはないか?」

するとイングラムの言葉にキャリコは大きく相槌を打ちながら、
同じように助言した。

「俺もそう思う。外に出る回数が増えたから体調を崩しやすくなったんだろう?」
「うーん・・・・?どうかしらね???」
「そうに決まっている、なぁ、キャリコ」
「そうだな・・・アインには学校を辞めさせるべきだ」

大男二人がズズイ、と自分のほうへ身体を寄せてくる。
いかに自分の兄とはいえ、そんなに真剣に見つめられると
どうしたらよいのか分からなくなるのが人間。
スペクトラは両手を胸の前に置き、
ドードーと二人を落ち着かせようと試みた。

「落ち着いて!これは私達の一存では決めかねるわ。
 アインは学校に行くようになって明るくなったし、
 これまで出来なかった友達も出来たのよ?
 それなのに辞めさせたらかわいそうだわ」
「・・・そうかもしれないが、一番大切なのはクォヴレーの体調だ」
「イングラム・・・・」

二人は必死に(顔には出ていないが)スペクトラを説得する。
それもそのはず・・・・。
クォヴレーが学校へ行かなくなれば、
本当にこの大きな屋敷に閉じ込めておくことが出来る。
白い肌が日に晒されて痛むことも減るし、
ヴィレッタやスペクトラがいない日は
週末に限らずクォヴレーとイングラム、キャリコで
素敵で淫らな時間を過ごす時間が増えるのだから。
しかしそんな二人の思惑を知るはずもないスペクトラは
小さなため息と共に、

「とにかく今日のところは保留よ。
 さぁ、さ!二人とも、こんなところでの立ち話は終了よ。
 私は今から仕事だからアインのこと頼むわね?
 おかゆも作ってあるからあと少ししたらもっていって食べさせてあげてね」

と、無理やり終了させたのだった。
これ以上無理やり話を続ければ怪しまれるので、
とりあえず二人はコクンと頷き靴を脱ぎ始める。
それとは反対に靴を履き始めるスペクトラ。

「じゃ、ね。いってきます」
「あぁ、気をつけてな」
「アインのことは心配するな」












パタン、と玄関の閉まる音が耳に大きく響いた。
ボソボソ声ではあったが、聞こえてきた声は3人分。
一人がスペクトラだということはわかっている。
そして残りの二人が一足先に仕事へ向かった
ヴィレッタでないことも歴然としていた。
と、なれば行き着く答えは唯一つ・・・・・。
クォヴレーは氷枕を挫いてしまった足に押し付けながら
青い顔を更に青くする。

「(カギ・・・!鍵だ!!
 だがヘアピンで開けられてしまう・・・!!
 ならドアの前に棒とか・・・・???そうだ!そうしよう!!)」

全身打撲で痛む身体を鞭打ち、
何故か部屋にあった1本の棒をドアのところに立てかける。

「(これで安心だ・・・開けられないはずだ。
 うぅ・・・それにしても全身痛い!!
 木登りなんかするのではなかった)」

そう、実はクォヴレーは庭の楠木で木登りをしていたのだ。
その気の上からみる町の景色はクォヴレーの大のお気に入りで、
もし、木から落ちたなどとばれてしまったら
あの木は切られてしまうかもしれない。
それにあの異常な兄達から淫らな「消毒」をされてしまう可能性も大だ。
それら全てを避けるため、クォヴレーはスペクトラに
頭が痛い、と嘘をついた。
せめて青アザが消える前ではベッドで横になっていなくては・・・、
その間学校へは行けなくなるが、
『学校を辞めさせられる』よりもはるかにマシな現実だ。
怪我をしていることがばれれば、
外出禁止にすらなってしまうかもしれないのだから。

・・・・よく言えばクォヴレーはそれほどまでに愛されている。
まぁ、悪く言えば過保護で極度のブラコンな兄、姉たちなのだが・・・。






だがクォヴレーはまだ知らない・・・・。



このあとに起こる・・・・・その現実を・・・・、




クォヴレーはまだ知る由もなかったのである・・・・。



有り難うございました。 続きます。 次はエロ〜♪


戻る