〜末っ子の合宿1〜



「この通りだ!!アラド!!」

談話室には少年少女がチラホラとおり、
それぞれおしゃべりをしたり本を読んだり、お茶をしたりしている。


手を顔の前でお経を唱えるように合わせながら、
クォヴレーは親友アラドに必死にお願いをしていた。

「オレだってイヤだ!大体さ、オレがその部屋使うのも変だろ!?」
「そんな事言わないでくれ!!お願いだ!!」
「兄弟の部屋に赤の他人のオレがいたら気まずいじゃん!?」
「アラドはベッドに入ったら3秒で夢の中だろう!?」
「・・・そうだけど・・・やっぱイヤだ!」
「アラド、頼む!!」

直も食い下がらず願いするクォヴレー。
どうしてもアラドに部屋を交換してもらいたかった。

「・・・お前、喧嘩でもしてんのか??」
「・・・いや・・喧嘩はしてない・・けど」

伏せ目になりショボンとするクォヴレー。

「・・・どうしてもダメか?」
「・・・クォヴレー・・・」

ウルウルと目に涙を溜め、クォヴレーはアラドを見上げた。
そんな姿をみるとなんだか自分は悪くないのに、
悪いことをした気分になってしまうアラド。

「クォヴレー、あのさ・・・」

クォヴレーの肩に手を置き何かを話そうとした瞬間、
談話室のドアが開き、皆一斉に目線を入り口に移した。
女子生徒は黄色い歓声を上げながら、傍にいるもの同士で抱き合い喜び合い、
男子生徒は尊敬の眼差しを入り口に向ける・・・ただ1人を除いて。

入り口に立っている長身の男2人は目的の人物を、
数多くいる生徒の中から瞬時に見つけ出した。
ニヤッ・・と心の中で黒く笑いながらその人物に近づいていく。









・・・・1週間前




「クォヴレー!!」

ヴィレッタは2階の窓から庭に向って末っ子の名前を叫んだ。
窓の上をチラッと見、罪悪感を感じながらもクォヴレーは門に向って走り出す。

夏休みに入って1週間は微熱で寝込んでいた。
その後1週間は2人の兄に四六時中見張られ、
自分の部屋から出ることすら出来なかった。
まぁ、自分のへやから出なかった理由は他にもあるのだが、
とにかくクォヴレーは2週間外に出ていないのだ。

夏休みはもう2週間が過ぎた。
2人の兄の夏休みが終了し、今度は2人の姉が夏休みに入った。


クォヴレーはいい加減外の世界に出たかった。
外に出て友達と太陽の下で走りまわりたい。
2人の兄は自分を嘗め回すように監視していたため、
脱走は困難だったが、
2人の姉の監視は緩かったので至極簡単に脱走が出来た。

と、いっても玄関から堂々とでるとバレバレなので、
自分の部屋の窓から飛び降りることにしたのだが、
偶然おやつを持ってきたヴィレッタに見つかってしまう。

「待ちなさい!クォヴレー!!外出禁止を忘れたの!?」
「忘れてない!でももうイヤなんだーー!!」

ごめんなさい!とジェスチャーするとクォヴレーは
全力疾走で門へと走リ始めた。

門までは実に長い距離がある。
普段は送迎車で門まで送ってもらうのだが、
脱走を図るクォヴレーを送ってくれるわけはないので、
ひたすら門に向って走った。





どれ位走っただろうか?
クォヴレーはやっとの思いで門にたどりく。

息を乱しながら門に手を伸ばした・・・だが・・

「・・・あれ??」

お約束だが門は開かない・・・。

「開くわけないでしょう?アイン」
「スペクトラ!?」

眉を吊り上げたスペクトラが送迎車から出てきた。

「ヴィレッタが門の鍵をコントロールルームから閉めたのよ・・私はお前のお迎え」
「!?鍵!!・・・なんてかかっていたのか??」


ふぅ・・とため息をつき、スペクトラはクォヴレーを送迎車に乗るように合図する。
だが外に出たいクォヴレーは頑としてその場を動かなかった。

「・・・鍵がかかるのは当然でしょう?
 鍵が閉まらなかったら泥棒の出入りが自由じゃない」
「・・・!そう、か・・そうだよな・・・」
「・・・いいから乗りなさい・・今なら罰は穏便よ」
「罰!?」
「・・・今帰れば夏休み中の外出禁止ですむんじゃない?」
「夏休み中!?そんなのヤダ!!」
「・・・イヤ、ならどうして脱走したの?」
「・・・・・それは」
「・・・とにかく乗りなさい・・ほら」
「・・・わかった」








クォヴレーはリビングで正座させられていた。
両端には鬼のような形相の姉2人が自分を見下ろし、
お尻を叩く棒のようなものを持っている。

「・・・外に・・出たかったんだ・・折角の夏休みなのに・・」
「・・・・・・」

ビクビクと小さな体を震えさせ、
涙目で訴える・・・外に出たい、と。
だが『いいつけ』を破ったクォヴレーに2人の姉はそっけない態度をとる。

「クォヴレーは悪いことをしたから外出禁止になったのよ?」
「・・・承知している」
「ならどうして破ったの?アイン」
「・・・皆と遊びたい・・せっかく友達が出来たのに・・・」

ボロボロと泣き出しこれまでの恨みつらみを吐き出していく。

「オレにだって・・言い分はあったのに!
 ヴィレッタも・・スペ・・クトラも・・全然聞いてくれない!
 夏休み中外出禁止なんて鬼の所業だ!!
 今までこの銀の髪のせいで友達が出来なかったオレに
 初めて友達が出来たのに、皆してそれを邪魔しようとしているんだ!!
 ・・・やっぱりオレはいらない子なんだーー!!」

糸が切れたように泣き出すので、流石にヴィレッタもスペクトラも焦ってしまう。
クォヴレーはいままで我侭をほとんど言わないいい子であったし、
今回のことだって確かに言い分はあったのかもしれない。
なのに自分達はロクに話しも聞かず、
一方的にクォヴレーの反抗期と決め付けてしまっていた。

「皆嫌いだーーー!!銀の髪も嫌いだーー!!」
「・・・クォヴレー」

2人は困ったように顔を見合わせる。
イングラムもキャリコもそうだが、
この家の兄弟は実は『クォヴレーの本気の涙』にはすこぶる弱く、
本気で泣かれるとどうしたらよいのか分らなくなってしまう。

「アイン、私達も悪かったわね・・・
 たしかにあなたにも言い分はあるわよね?」
「・・・・・」
「ごめんね?クォヴレー・・・泣きやんで頂戴?」
「・・・・オレはもらわれっ子なんだ・・だから皆意地悪するんだ」
「貴方は正真正銘私達の弟よ?そんな事言わないで・・・ね?」
「・・・ヴィレッタ」
「アイン、泣くと可愛い顔が台無しよ?
 ねぇ?おやつにしない?お腹すいたでしょ??」
「スペクトラ・・・」
「食べる?」
「・・・・・・・・たべる」





小さなプリンを食べながらクォヴレーは頬を綻ばせていた。
手作りのプリンの上には生クリームの小山があり、
その上にはさくらんぼが乗っている。
ちょっとしたプリン・ア・ラ・モードのような感じだ。

「美味しい?」
「美味い!・・・幸せだ〜」
「フフフ・・・さっき泣いていたカラスがもう笑っているのね?」
「だって美味しいんだぞ?」

口を尖らせ、頬にクリームをつけて可愛らしく反論する末の弟に、
2人は、ご機嫌が直った、と安堵の息をついた。
もしゃもしゃとプリンを食べていると、ある1枚のプリントが
クォヴレーの目に入る。
プリンを食べながらそのプリントに手を伸ばすクォヴレー。

「・・・夏合宿??」
「え?・・・あぁ!そのプリントね」
「これ、なんだ??」
「軍が主催している、プチ軍入隊合宿みたいなものよ!」
「入隊合宿???」
「要するに、子供達を集めて運動させたり、飯盒炊爨させたりするのよ」
「・・・へぇ?」
「根性のない子や、躾のなっていない子を叩きなおしてもくれるのよ?
 けっこう1日のスケジュールがハードだから・・・」
「・・・ふーん?・・・10日間か・・・」

最後の一口のプリンを口に運びながらクォヴレーは真剣に
そのプリントの端から端まで目を通した。


「・・・10日間・・・10日間、か」
「・・・いきたいの?アイン?」
「・・・う、ん・・・でも・・結構費用がかかるんだろ?」
「・・・安くはないわね」
「そっか・・・じゃ、ダメだな」
「行きたい?クォヴレー」
「・・・・・・うん・・だが・・」
「行ってもいいわよ」
「え!?」

驚いてヴィレッタを見上げ、スペクトラに視線を送る。
2人はにこやかに微笑みながら、

「それ位の余裕はあるわよ!遠慮しなくてもね!
 4人もの大の大人が働いているのよ?」
「・・・だが・・」
「アイン、若いうちは色々経験した方がいいわ・・いきたいならいきなさい」
「・・・いい、のか?・・・外出禁止は?」
「この10日間に限り免除よ?行く?」

ぱぁぁぁ!と花のような笑顔を2人に向け、
クォヴレーは席を立ち上がってピョンピョン跳ねた。

「行く!!有り難う!!行って根性を叩きなおしてもらってくる!!
 (変態場か兄貴と10日間でも離れられるなんて、
 これほど嬉しいことはない!!)」
「(根性を叩きなおしてもらう必要はないと思うけど)了解よ、応募しておくわ」
「宜しく頼む!!」



クォヴレーは本当に嬉しかった。
外に出られるだけでなく、
変態兄貴としばらくの間とはいえ会わなくて済むなんて
夢のようであったからだ。


だが、クォヴレーのささやかな幸せは出発の日の朝、
無残にも粉々に砕かれてしまった。


なぜならその合宿の引率の軍人には、
2人の兄、イングラムとキャリコが入っていたからである。

ヴィレッタとスペクトラがアッサリと合宿参加に許可した
最大の理由はコレだったのであろう。
2人の兄が引率するからこれほど心強いことはない、と。


クォヴレーは合宿を取りやめたかった。
だがいまさらそんな事いえるはずもなく・・・今に至っているのである。





2人の長身の男がクォヴレーとアラドとの元へ近づいてくる。
クォヴレーは冷や汗を流しながら、真っ直ぐに2人の男を見つめた。


「(ああ・・・逃げ出してしまいたい!
 オレはこの10日間・・・無事に過ごせるのだろうか???)」






続く・・・・。





有り難うございました。 続きます。 次はエロが入りますよ〜♪


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