〜鉄仮面と笑顔と〜



「任務完了だな」


暗いコンピューター室に低い声が響いた。
先ほどまで五月蝿いくらいに作動していた最新鋭のコンピューターも、
彼ら二人の手にかかれば赤子も当然。
今ではウィルスによりその機能は完全に沈黙している。

フゥ・・・と息をつくと、アインは仮面を取り外し横にいる男に話かけた。

「これでしばらく大人しくなるのか?」
「・・・しばらくどころかもう終わりだろう、ココは」

アインの横にいる大柄な男、キャリコは口元だけ見える仮面をつけている。
そのため笑うとアインや他のバルシェムと違い分かるのだが、
アインは笑い返すことをしなかった。

「・・・お前は相変らず無表情だな」

呆れ口調のキャリコも任務が完了したのでアインのように仮面を取り外した。
そして露になった瞳でジッとアインを見下ろし眺めるのであった。

「・・・無表情に何か問題でも?」

アインは見られることになれているのか、
視線を合わすことなく聞き返した。

「問題はないが・・・・、」
「?」
「時に愛想笑いが必要な時もあるだろう?
 お前は愛想笑いも出来なさそうだからどうしているのかと思ってな」

くくく・・・と咽で笑うキャリコに、アインは表情をやや不愉快なものへと変え、
プイッとそっぽを向いて出口へと歩き始めた。

「おい?アイン!待て」

少しからかっただけなのにアインは拗ねてしまったようだ。
無表情、無関心を装っていてもアインにも心はある、とキャリコは思っている。
ただ人より多少・・・いや、かなり感情表現が苦手なのだろう。
キャリコは自分をおいてスタスタ出口に向かってしまっているアインに、
苦笑をうかべつつその細い腕を掴んだ。


「・・・っ、放せ!任務は完了だろう?!なら長居は無用・・・!?」

からかわれたことに腹を立てていたアイン。
掴まれた腕を振り払おうと後を振り向いた瞬間絶句してしまう。

「キャリコ?」
「・・・・っ」

入り口ではキャリコが顔面を押さえしゃがみ込んでいる。
その時アインは・・・ああ、と何かに気がつき、
屈みこんでいるキャリコの前に膝を着いた。

「・・・顔、打ったのか?」
「・・・・・っ」
「案外ドジなんだな」

そう、このコンピューター室は隠し扉の中にあったので、
入り口の背丈が170センチくらいしかないのだ。
アインの背丈ならギリギリ通れるのだが、
キャリコほどの巨漢になると身を縮めなけれが通れなかった。
けれど先にいってしまったアインを慌てて追いかけてきた男は、
その事実を頭から忘れてしまっていたらしく、
入り口に見事顔面をヒットさせてしまったらしい。
アインはポケットからハンカチを差し出すとキャリコの目の前に差し出す。

「すまない」

顔面を押さえつつありがたくそのハンカチを受け取り、
キャリコは床に尻をついた。

「まったく情けないな、俺は」
「・・・入り口のことを忘れているなんて、確かに情けないな」

呆れ口調のアインにキャリコは年甲斐もなく唇をへの字に曲げ、言い訳をする。

「そう言うな。お前が一人で行ってしまうからだろ」
「オレのせいなのか?」
「お前のせいだ」

するとその時、何が起こったのか・・・・?
無表情と名高いアインの頬の肉が少しだけ綻び微笑を浮かべていた。
初めてみる『微笑み』にキャリコは思わず本音をポロリ。

「お前の顔にも笑うための筋肉がついていたんだな」
「??」

どういう意味だ?とアインは再び無表情になり、首を傾げる。

「つまりお前も笑うことが出来るんだな、と安心した」
「・・・・!」

その時、アインの顔が今度はボボボっと赤く変化をしていく。
今まで被ってた鉄仮面をこの男に破られたことが、
どうやら悔しく、そして恥ずかしいらしい。

「恥ずかしがることはないだろ?笑えることはいいことだ」
「・・・戦闘人形なのにか?」
「関係ない。我々は生きている人間なのだから」
「!」

アインの目が大きく見開いた。
そして物珍しげにキャリコをジロジロ見やる。

「なんだ??」

ハンカチで鼻の辺りを押さえつつ、
何故ジロジロ見られるのか理解できないキャリコは、
真っ直ぐにアインの瞳の中を見つめていた。

「お前は不思議なバルシェムだ。
 他のバルシェムとは考え方が違うからだろうか?」
「俺が??」

小さく頷くアインにキャリコはまた苦笑を浮かべるしかなかった。
『俺』が不思議なら『アイン』はもっと不思議なバルシェムに違いないからだ。
と、キャリコはアインに切り替えした。
すると案の定アインは不可思議な顔をするのであった。

「お前は見るものを惹き付ける・・・、戦闘人形なのにだ。
 ・・・・お前を見つめていると誰もが目をはなせなくなる。
 ・・・無表情だからか?無表情なのに目はいつも感情を表しているからなのか?
 俺にはわからないが、お前は本当に不思議でミステリアスだと思う」
「オレが?」

キャリコの言っている意味がよく分からないアインは、
今度は困惑の表情を浮かべてみせる・・・瞳で。
どうやら本当は顔に出したいのだろうが、
出し方を知らない、とキャリコは結論付けた。

「(と、なればあの笑顔を見る事が出来るのは本当に稀なのだろうな)」
「キャリコ?」

黙ったまま何も話さなくなったので焦れたように名前を呼んでくるアイン。

「なんでもない。今日はお前の新しい発見を見ることが出来てよかった」
「・・・?」
「たまには二人だけのこんな任務も悪くはないな」
「・・・・キャリ・・?・・・・っ」

次の瞬間、キャリコは自分の前に屈んでいたアインの細腰を抱き寄せ、
素早くその小さな唇を塞いでいた。
唇を離したとき、ポカンとしていた顔が段々真っ赤になるのを、
キャリコは愉快そうに笑いながら眺めて楽しむのだった。














「・・・・キャリコ!」


名前を呼ばれ目を開ければ、
目の前に銀色の髪の少年が心配そうに顔を覗き込んでいた。

「アイン?・・・どうした?もう朝か??」

長かった戦争が終わり密かに助け出されていたキャリコは、
助けてくれた少年クォヴレー(アイン)と共に平行世界の旅をしていた。
同じベッドで裸で寝ていた二人。
クォヴレーの身体のあちこちには鬱血の痕があり、
ベッドの中で数時間前まで何があったのかは明白である。

「まだ真夜中だ。それより大丈夫か?」
「・・・何がだ??」
「・・・魘されていた」
「!」

キャリコはビックリした。
確かに夢は見ていたので寝言はもしかしたら言ってしまっていたかもしれないが、
魘されるほど悪い夢ではなかったからだ。

「そうかと思えば、急に口元が綻んでいくから夢遊病かと」

相変らず心配そうに覗き込んでくるクォヴレー。
その時キャリコは夢の続きを思い出した。



あの任務のあと、顔を真っ赤にしたアインが
スペクトラや他のバルシェムの前を、
そそくさと逃げるように自室へ行ってしまったので、
キャリコは散々皆に問い詰められたのだ。
おまけに顔面をぶつけている夢だったのだ。
『魘されていた』のならその時のことが原因だろう。
だがあの後、密かにキャリコの部屋を尋ねてきたアインと、
キャリコは朝まで一緒に過ごしたのだ。
・・・・アインと、クォヴレーと一緒に朝を迎える。
こんなことがまたこようとは・・・・、
キャリコは心配そうに見つめているクォヴレーの身体を抱き寄せると、
熱いキスでその不安を奪い取った。

「ん・・・ふ・・・ん・・・・」

クチュクチュと舌を絡め合い肌を密着させていると、
先ほどの情交の余韻がすぐに目を覚まし始めたのだった。

「んん・・・は・・・ぁ・・、キャリ・・・」
「ん?」

キャリコはその端整な顔に笑みを浮かべ、クォヴレーの髪を撫でている。

「・・当ってる・・・オレの・・足に」

恥ずかしそうにもじもじと身体を揺らし視線をそらすクォヴレー。
キャリコはクォヴレーの腰を掴むと、熱で掠れた声で同じように言い返した。

「お前のも俺の腹に当っているぞ?
 さっき3回もイッたのに・・・元気なことだな」
「・・・!そ、それは・・・!」

状態を屈ませ、キャリコの上でクォヴレーは切なげに眉根を寄せる。
お前が触るから熱くなったんだ、としきりに訴えながら。













「んっんっ・・・・あっ・・・はっ・・・」

キャリコの上で、腰を押さえられながら淫らに銀の髪を揺らしていた。

「あぁ・・・あっ・・・ダ、メだ・・・も・・・い・・・」
「・・・ア、イン」

切れ切れの甘い吐息。
顔も頬はピンクに染まっており、口は喘いでいるのであきっぱなしだ。
眉も切なげに寄せられており、
下から見上げているキャリコはその顔だけで、
何度でも勃ちあがりクォヴレーを犯しづづけられると思っていた。

「・・・本当、に・・・表情、が、豊かになった・・・もの、だ・・・っ」

キャリコの息も段々荒いものに変化していっている。
頂点をむかえる為に主導権を返してもらおうと、
上に乗っていたクォヴレーを今度は下に組み敷き、足を抱えて腰をグラインドさせた。

「あっ・・あっ・・・ぁぁぁっ」

開いていた目を閉じ、背を仰け反らせるクォヴレーを力強い腕で抱きしめ腰を使う。

「アイン・・・ここだろ?」

先端で中のコリコリした部分を強く抉った。

「あぁぁー、そ、そこは・・っ・・・、っ・・・・・・く・・・っ」

ズンッ、とキャリコのモノが最奥まで突き上げてきた、
と、同時に熱い飛沫が中に叩きつけられた。
クォヴレーも一緒に頂点を極め、
ハァハァ、と息を乱しキャリコの大きな背中にすがり付いていた。



・・・数分して息が整うと、
キャリコがチュッと唇を啄ばんで中からまだ硬度を保った自身を引き抜いていく。
本当ならあと2〜3回はやりたいところだが、どうせ嫌がられると思い身を引いた。


「(さっきも3回犯したしな・・・)」


だがクォヴレーは腰に足を絡めてイヤイヤと頭を横に振った。

「アイン?」

いつもなら『長い』とか『回数が多い』と文句たらたらだというのに、
どういう風邪の吹き回しなのだろう?
けれども恥ずかしいのか、クォヴレーは顔を真っ赤に染めたまま目を合わそうとしない。
だがこのままではラチがあかないということも知っているので、
拗ねたような顔でキャリコにおねだりをするのだった。

「もう一回・・・いいだろ?」
「もう一回?」

不適な笑みを浮かべキャリコは聞き返した。
まるでいつも抵抗される仕返しをするが如く。
だが瞳はウルウルと揺れており、早く抱き合いたいとしきりに訴えてきている。

「(目で語るのは健在か・・・フフフ)」

まだ残っていた『アイン』の感情表現を愛しく思い、
不適な笑みを穏やかなものに変えようとしたとき、クォヴレーが何事か呟き始めた。

「お前、魘されていた・・・」
「・・・・・そうらしいな」
「ひょっとしたら・・・迷惑、なのではないのか?」
「何がだ」
「・・・この流浪の旅についてくるのがだ・・・だから魘されていたのではないのか?」
「アイン・・・」

再びキスをしながら、引き抜こうとしていた性器を埋め込んでいく。
ゆっくりと抽挿を繰り返しながら、クォヴレーの頬を手で包み込みながら話しかける。

「・・・夢で魘されていたんだ。流浪が嫌なわけじゃない。」
「・・・ん・・・・ゆ、め・・・?」
「アイン、俺は今幸せなんだ。幸せで死ねるくらい幸せだ」
「あ・・・・ぁ・・・キャリコ・・・死んだらイヤ・・・だ」
「もちろんお前を残して逝きはしない・・・・アイン・・・」
「キャ・・・リ・・・・」














「・・・・ん」


口移しで飲ませてもらった水が少しだけ端から零れてしまっている。
セックスと、今のキスに酔いしれているクォヴレーは
ポワ〜っとキャリコを見つめていた。
そんなクォヴレーの銀の髪を撫でながらキャリコは苦笑にも似た顔で改めて言う。

「本当に見違えるくらい表情が豊かになったものだ」
「・・・・ひょう・・・じょう・・・?」

喘ぎすぎて声が掠れ気味のクォヴレーをだきよせ、
腕枕をして話を続けた。

「昔のお前は無表情、無鉄砲、無作法なヤツだった」
「そうなのか?」

自分の知らない自分を語るキャリコ。
その時の表情はなんとも楽しげで、
クォヴレーもまた過去の話を聞くのが好きになりつつあった。
あれほど嫌っていた『アイン』の話も、
キャリコから聞けるのでれば別であるのだ。

「キャリコ」
「・・・・ん?」
「・・・『アイン』の話を聞かせて欲しい」
「『アイン』の?」

クォヴレーは首に腕を回しより密着すると頬を摺り寄せて甘えるしぐさをしてみせる。

「オレの知らないオレの話を聞かせて欲しい」
「・・・・アイン」
「・・・お願いだ」
「・・・分かった。他でもないお前のお願いだ・・・お願いされよう。
 寝物語にもなるだろうしな・・・どの話をしようか?」
「なんでもいい!・・・だが出来ればこの前の続きから」
「了解した」

キャリコの返事にクォヴレーの表情が嬉嬉としたものに変化していく。
アインの頃では考えられないほど顔の筋肉が緩んでいる。
そしてクォヴレーに優しい微笑を浮かべ話を始めるキャリコ。



・・・・だがキャリコ自身も気づいていないことがある。
表情が豊かになったのは彼もまた同じだということに。



糧が外れた彼らの表情はこれからもっと豊かになっていくことであろう。


有り難うございました。 真面目なキャリヴレって案外ない気がして書いてみた、という感じです。 エ■シーンがまた微妙ですが、そこはお許しください。 なんにせよ、キャリコが格好よく、幸せな話もたまにはいいですよね♪