画面の前で・・・
 


手には先ほど放った白濁した液体がこびりついている。
それを傍にあったタオルで拭いつつ、
滲んだ画面を見つめ、イングラムは満足げに微笑んでいた。









〜テレフォンセックス?〜




気持ちが抑えられず、
決して誰にも悟られないように工夫をして通信を行う。
もしばれれば自分ばかりでなく彼の命さえも危ないからだ。
しかし危ないと分かりつつも衝動を抑えることは出来ない。
会いたくて会いたくてたまらない彼・・・・。
本来なら触れ合うことすらも叶わない相手だ。
それがその温もりを知ってしまったことで、
あとはもう泥沼で、麻薬のように抜け出すことが出来なくなっている。






『・・・・私だ』





端末の向こうに抑揚のない声の彼が映る。
けれど相手が誰か分かると、
かけていた眼鏡を外しフッと頬を綻ばせてくれた。

『・・・お前か・・・、珍しいな・・・どうした?』
「・・・・まだ仕事中か?」

申し訳なさそうに聞けば、
イングラムは一瞬目を見開く、が、
すぐにまた優しい眼差しに戻り首を横に振った。

『いや、もう切り上げるところだった』
「そうか・・・・」

頬を綻ばせ、画面の向こう側に微笑を向ける。
するとイングラムが指をチョイチョイとやって、
画面に近づいてくるように即してきたのだった。
その行動の意味が分からず顔を近づければ、
イングラムはゆっくりと目を閉じ画面に唇を近づけてきた。
相手の意思を察し、同じように唇を画面に近づける。


久々のキスの味は少しだけ冷たく、
無機質な味がした。








画面越しのキスを終え、彼を見るとなぜか少しだけ口角が上がっている。

「・・・・?」

背中にゾワリ、と、戦慄が走る。
あの顔の彼は何かよからぬことを考えているからだ。
案の定、形のいい唇からは想像できないような台詞が飛び出してきた。


『テレフォン・セックスを知っているか?』
「・・・なっ!」
『・・・反応から察するに、知っているようだな?
 なら手間が省ける・・・・・これからやるぞ』
「・・・・・え?」

イングラムは背中を椅子に預けるような体制をとると、
画面の前でいきなり自身のズボンをくつろげ始める。

「イングラム??」
『・・・テレフォンセックス・・まぁ、この場合テレビ電話セックスか?』
「!!!???」
『・・・・さぁ、お前も下を脱ぐんだ。
 そして俺によく見えるように足は肘掛の横だ。』
「い、嫌だ・・・!できな・・・」

涙声で相手に訴える。
けれど相手はあのイングラムだ。
彼は口元に冷笑を浮かべながら、ゆっくりと喋るのだった。

『やるんだ。一体どれくらいお前に触れてないと思う?
 最後に抱けたのは・・・1ヶ月くらい前だ。
 それなのにこれ以上まだ我慢をさせる気か?』
「けど・・・!」

テレビ電話セックスなど冗談ではない!
なんとか必死に逃れようとするが、
彼の一言に逃げられなくなってしまう。

『自慰の仕方は、教えただろう?
 離れていても浮気しないように、な』
「!?」
『一ヶ月の間、お前は俺を想って触らなかったのか?
 俺はお前を想いながら毎日しているぞ?』
「そ、それは・・・」
『だがお前は違うのか?
 お前は俺を想いながら、欲望に負けて他の誰かに身を任せたか?』
「そんなこと!」

していない、とは言えなかった。
もちろんイングラムもそれは分かっている。
だからあえてそのことを深く追求することなく言葉を続けるのだった。


『では・・・』



できるだろう?


と、イングラムの瞳が真っ直ぐに『アイン』を射抜いてきた。

『アイン、お互いそんなに長い間通信はしていられない。
 やるのか、やらないのか・・・、ハッキリしろ』
「・・・・イングラム」

アインは画面の向こうの男を真っ直ぐ見詰めた。
彼は時々、本当に自分のオリジナルなのか、と思うことがある。
自分には決してない相手を征服する力。
声にも目にも・・・彼そのものがその雰囲気を纏っていた。
アインは諦めたように目を瞑り、
言われた通り足を肘掛にかけ、ズボンから己のモノを取り出した。

『いい子だな』

観念したアインに画面越しの男は満足そうに笑うのだった。













『・・・あっ・・・あっあっ・・』


すでにアインの手はベチョベチョにぬれていた。
一度欲望を吐き出したが、
画面越しのイングラムがまだ達していないと、
強制的に二度目の自慰の最中なのだ。

『・・・違うだろ、アイン?
 お前のイイ場所は・・・ココ、だ』

そう言って画面越しに知り尽くしたアインの弱点の部分を指し示し、
自身の性器を撫でる。
アインは切なげに画面を見つめイングラムと同じように手を動かした。

『・・・後の孔がパクパクしているな・・・触ってやりたいところだが』
「・・・あ、・・・は、・・・もう・・・・」
『触るなよ、アイン。
 そこは俺だけのモノだ。例えおまえ自身でも触ることは許さない』
「イ、イングラムっ・・・!!」
『アイ、ン・・・・くっ・・・・ふ・・・・』





手には先ほど放った白濁した液体がこびりついている。
それを傍にあったタオルで拭いつつ、
滲んだ画面を見つめ、イングラムは満足げに微笑んでいた。
どうやらアインは端末のカメラに向けて射精してしまったようだ。
アインの荒々しい吐息と、ユラユラ揺れる影。
いんぐらむは「もう一度」と声をかけようとしたが、
アインが慌てたように通信を切ったので出来なくなってしまった。
達する時に聞こえてきたアインの声。



『好きだ・・・イングラム・・!』




通信を切る時に聞こえてきた悲痛なアインの声。




『誰かきた・・・!あ・・っ、んぐ・・・』



くぐもったアインの声。
数度唇を重ねあう濡れた音ののち、途絶えた回線。
おそらくアインが切ったであろうから、
この逢瀬がばれたわけではなかろうが・・・、
それでもイングラムの胸中は複雑であった。



もう見えなくなったアインは、
画面の向こうで誰かに犯されている。
それはおそらく自分とよく似た男に違いない。
一体どうやったらアインをこの腕に中に閉じ込められるのか・・?



・・・・イングラムはゆっくりと目を閉じ、その方法を考えるのだった。



有り難うございました。 何気にインアイっす! 続けるかもしれないし、この1話で完結かもしれない。